従業員を雇い入れる際には、雇用契約書を締結することが推奨されます。
雇用契約書を締結するのは、面倒だと感じられるかもしれません。しかし締結しておいた方が、労使間トラブルを防止しやすくなります。
電子契約によって締結することもできますので、まだ締結の習慣がない事業者の方は、この機会に労務管理の方法を見直してみてはいかがでしょうか。
今回は、雇用契約書の必要性や規定内容、電子化する際の注意点などを解説します。
目次
契約書がなくても雇用契約は成立する
会社が従業員を雇い入れる場合、法的には「雇用契約」が成立します。
雇用契約は、必ずしも契約書を作成して締結しなければならないわけではありません。
たとえば、メールで「入社したいです」「わかりました」というやり取りがあれば、雇用契約は成立します。また、口頭で同様のやり取りが行われた場合にも、やはり雇用契約が成立するのです。
このように契約書を作成しなくても、法的に雇用契約を成立させることはできます。
雇用契約書を締結した方がよい理由
それでも、会社が従業員との間でトラブルになるリスクを防ぐためには、雇用契約書を作成しておいた方がよいと考えられます。
締結することの主なメリットは、以下のとおりです。
●従業員側の契約内容に関する理解が深まる
雇用契約書を締結する場合、従業員は契約内容を確認したうえで、署名・押印等を行います。
会社側から一方的に労働条件を通知するだけでなく、従業員が能動的に契約内容を確認するプロセスを経ることで、従業員側の契約内容に関する理解が深まることが期待されます。
その結果、残業・休日・休憩などに関して、従業員側が勘違いする可能性が減り、労使間トラブルを予防することに繋がるのです。
●労働条件通知書を兼ねることができる
雇用契約書を締結することは、会社側にとって大きな事務負担にはならないと考えられます。
会社が従業員と雇用契約を締結する際には、従業員に対して、一定の労働条件を明示する「労働条件通知書」を交付しなければなりません(労働基準法15条1項)。
つまり、雇用契約書を締結する・しないにかかわらず、会社は雇用契約に関する書面を作成する必要があるのです。
雇用契約書は、労働基準法によって従業員への交付が義務付けられている、労働条件通知書を兼ねることができます。
雇用契約書を締結し、従業員が雇用契約書を保管する形にしておけば、別途労働条件通知書を交付する必要はありません。
いずれにしても書面を作成しなければならないのであれば、単なる労働条件通知書よりも、紛争防止効果が高い雇用契約書を作成・締結する方が望ましいでしょう。
雇用契約書に規定すべき内容は?
雇用契約書が労働条件通知書を兼ねることを考えると、規定する事項は、労働条件通知書の要記載事項をカバーしておく必要があります。
①絶対的記載事項
労働条件通知書(兼雇用契約書)に、必ず記載しなければならない事項です。
・労働契約の期間
・(有期雇用の場合)労働契約を更新する場合の基準
・就業場所
・従事すべき業務
・始業および終業の時刻
・所定労働時間を超える労働の有無
・休憩時間
・休日
・休暇
・(交代制を採用する場合)就業時転換に関する事項
・賃金の決定、計算および支払の方法、賃金の締切りおよび支払の時期
・昇給
・退職(解雇の事由を含む)
②相対的記載事項
定めを置くかどうかは会社の任意ですが、定めを置いている場合には、労働条件通知書(兼雇用契約書)に必ず記載しなければならない事項です。
・退職手当
・臨時に支払われる賃金
・賞与
・精勤手当
・勤続手当
・奨励加給または能率手当
・最低賃金額
・労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項
・安全および衛生に関する事項
・職業訓練
・災害補償および業務外の傷病扶助
・表彰および制裁
・休職
その他にも、会社と従業員の間で特に合意した事項があれば、雇用契約書の中に書き込んでおきましょう。
雇用契約書を電子化する際の注意点
雇用契約書は、紙ではなく電子契約の形で締結することもできます。
電子契約は、リモートでも締結することができますし、さらにデータベース上で整理することもできるので、非常に便利です。
その一方で、電子契約特有の留意点として、情報漏えい対策や電子帳簿保存法の対応が必要となることに注意しましょう。
●情報漏えい等に注意して対策を行う
電子契約のファイルは、紙の契約書とは違った形で、情報漏えいのリスクに晒されます。
たとえば、
・サイバー攻撃による流出
・従業員の人為的ミスによる誤送信
・従業員による故意の持ち出し
などが、情報漏えいのパターンとして挙げられます。
サイバー攻撃による流出を防ぐためには、ウイルスセキュリティソフトを会社のシステム上で導入することが効果的です。
従業員の行為に起因する情報漏えいを防ぐためには、電子契約ファイルの保存先フォルダにアクセス権を設定する、ファイルにパスワードを設定するなどの対策が考えられます。
また、定期的に従業員研修を行い、情報セキュリティの重要性や業務上の注意事項について啓蒙することも有効でしょう。
●電子帳簿保存法に対応する
雇用契約書の電子契約ファイルは、電子帳簿保存法に基づく保存義務の対象となります。
電子帳簿保存法※に基づき、電子契約ファイルは、「真実性」と「可視性」が確保された形で保存しておかなければなりません。
※以下は2022年1月1日より施行される、改正電子帳簿保存法の内容を前提としています。
<真実性>
ファイルデータの改ざんを防ぐ措置が講じられていることを意味します。
具体的には、以下のいずれかを満たすことが必要です。①タイムスタンプが付された状態で受領し、保存する
②受領後速やかにタイムスタンプを付し、保存者または監督者の情報を確認できるようにした状態で保存する
③訂正・削除の履歴が確認できる、または訂正・削除ができないシステムを通じて受領し、保存する
④不正な訂正・削除の防止に関する事務処理規程※を整備し、規程に従ってファイルを保存・管理する
※事務処理規程のサンプルは、以下の国税庁ページをご参照ください。
参考:
参考資料(各種規程等のサンプル)|国税庁
https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/0021006-031.htm
<可視性>
ファイルデータの内容を、誰もが視認・確認できる状態で保存されていることを意味します。
具体的には、以下のすべての措置を講ずることが必要です。①データの保存場所に以下の機器等を備え付け、整然・明瞭・速やかに出力可能な状態にしておく
・PCなどの電子計算機
・プログラム(ソフトウェア)
・ディスプレイ
・プリンタ
・各機器の操作マニュアル②電子計算機処理システムの概要書(マニュアル)を備え付ける
③以下の検索機能※を確保する
(a)取引年月日その他の日付・取引金額・取引先を検索条件として設定できる
(b)日付または金額に係る記載項目については、その範囲を指定して条件を設定できる
(c)二以上の任意の記載項目を組み合わせて条件を設定できる
※税務職員によるダウンロードの求めに応じる場合には、(b)と(c)は不要。前々年度の売上高が1000万円以下の事業者は、(a)も不要。
まとめ
雇用契約書を適切に締結すれば、労使間トラブルを低減することに繋がります。
労使間トラブルを予防することは、事業規模の大小にかかわらず、等しく重要です。
会社にとっての基盤とも言うべき労務管理を万全にするため、雇用契約の締結に関する社内ルールに問題がないか、今一度再確認してみてはいかがでしょうか。
【著者プロフィール】
阿部 由羅
ゆら総合法律事務所代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。
https://abeyura.com/
https://twitter.com/abeyuralaw
マイナビバイト掲載のご依頼や採用に関するお悩み、お気軽にご連絡ください!
「マイナビバイトの掲載料金が知りたい」「掲載の流れを知りたい」とお考えの採用担当者様は、ぜひ以下よりお問い合わせください。
マイナビバイトでは、求人掲載をお考えの方だけでなく、アルバイト・パート採用に関するお悩みをお持ちの方からのご相談も歓迎しております。私たちは、応募から採用・定着までをしっかり伴走し、貴社の課題解決に寄り添います。
マイナビバイトに問い合わせる(無料)
電話番号:0120-887-515(受付時間 9:30~18:00)
さらに、料金表・サービスの概要・掲載プラン・機能紹介などを詳しくまとめたサービス資料もご用意しています。
「まずは資料を見てみたい」という方は、下記リンクから無料でダウンロードいただけます。
マイナビバイトは、貴社の採用活動を全力でサポートいたします。ぜひこの機会にお問い合わせください。