少子高齢化が進み、人口の減少、特に生産年齢人口の減少に歯止めがかからず、外国人労働者の活用を考える企業は増えていくとみられます。
これまでは「技能実習生」として外国人労働者を受け入れる制度がありましたが、人手不足を背景に、2019年4月からは「特定技能」という資格を持つ外国人労働者の受け入れが可能になりました。
ここで、技能実習と特定技能の違い、長期的に見たときの外国人労働者の必要性について説明します。
目次
外国人労働者と「技能実習生」
「日本国内で働いている外国人」そのものは、業種を問わず多くの企業に存在しています。
日本国内で就労している外国人には5つのカテゴリがあり、平成30(2018)年10月末現在、届出ベースでの外国人労働者約146万人の内訳は、下図のようになっています。(図1)
図1 在留資格別外国人労働者の割合(出典:「「外国人雇用状況」の届出状況まとめ」厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/content/11655000/000472892.pdf p4
多い順に並べると(四捨五入)、下のようになります。
①身分に基づく在留資格 約49.6万人
②資格外活動 約34.4万人
③専門的・技術的分野の在留資格 約27.7万人
④技能実習 約30.8万人
⑤特定活動 約 3.6万人
それぞれの違いは、このようなものです。
①の「身分に基づく在留資格」は、永住者、日本人・永住者の配偶者など、そして日系人を含み、特に活動制限はありません。中でも、中南米出身の日系人は製造業の多く集まる東海地方や北関東で日本の産業を支えてきました。
②の「資格外活動」は、その多くが留学生のアルバイトです。コンビニエンスストアや飲食店でよく見かける外国人労働者は、この留学生が多いと考えてよいでしょう。
③の「専門的・技術的分野」は主に専門職で就労している外国人で、大学教授や研究者、医療従事者、企業経営者などが当てはまります。平成29(2017)年からは、介護職が加わりました。
⑤「特定活動」はワーキングホリデー等での就労です。
そして、今回の話題であり、従来から受け入れが進んでいる④「技能実習生」です。
実は、技能実習生の受け入れそのものは、そう新しい制度ではありません。
80年代後半から一定の要件の下で「研修生」の受け入れ制度があり、平成5年に「外国人研修・技能実習制度」として制度化されています。
その後、平成28年に「技能実習法」が公布され、企業と雇用契約を結ぶ形での技能実習生の受け入れが始まりました。
在留資格は最長5年で、「技能実習1号」から「技能実習3号」までの等級があります。
技能実習の基本理念はあくまで「国際貢献」であり、本来は「労働力の需給の調整の手段として行われてはならない」というものです。
しかし、受け入れ側には人手不足を解消したいという本音があり、かつ実習生には転職が認めらていないため、結果的には過酷な勤務やハラスメントの実態が浮き彫りになりました。
そこで今回、平成30年に可決・成立した「出入国管理及び難民認定法及び法務省設置法の一部を改正する法律」により、「特定技能」による在留資格が新設されました。
人手不足が深刻な産業分野で外国人労働者の受け入れを可能にする、とその趣旨も明確になっていて、「特定技能」では在留条件も大幅に変更されています。
「特定技能」とは?「技能実習」との違い
今回始まった「特定技能」の資格と「技能実習」の違いを具体的に見ていきましょう。
まず、「特定技能」には「特定技能1号」と「特定技能2号」の2種類があります。
そして、「特定技能」外国人労働者を受け入れることができるのは、「特定産業分野」として定められている次の14の職業です。
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介護・ビルクリーニング・素形材産業・産業機械製造業・電気、電子情報関連産業・建設・造船、船用工業
自動車整備・航空・宿泊・農業・漁業・飲食料品製造業・外食業
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「特定技能1号」は上記14分野で受け入れが可能ですが、「特定技能2号」は、下線をつけた2分野でのみ受け入れが可能となっています。
さらに、特定技能1号と特定技能2号の在留資格には、以下のような違いがあります(図2)。
図2 特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する基本方針の概要(出典:「新たな在留資格『特定技能』について」厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/content/12601000/000485526.pdf P6
特定技能1号が人手不足の分野での人材確保といったものに対して、特定技能2号は熟練工の確保といった色合いが濃くなっています。
また、特定技能1号での在留は最長5年ですが、特定技能2号での在留期間には、基本的に上限はありません。
次に、「技能実習」との違いについてです。
「特定技能」在留資格は新設されたものであり、これまでの技能実習制度も並存することになります。
法務省は、技能実習と特定技能の違いを下のように位置付けています(図3)。
図3 特定技能在留資格の位置付け(出典:「新たな外国人材の受入れ及び共生社会実現に向けた取組」法務省)
http://www.moj.go.jp/content/001293198.pdf p6
また、日本での活動内容の違いを、このように定めています。
■ 技能実習(1~3号)
技能実習計画に基づいて,講習を受け,及び技能等に係る業務に従事する活動(1号)
技能実習計画に基づいて技能等を要する業務に従事する活動(2号,3号) (非専門的・技術的分野)
■ 特定技能1号
相当程度の知識又は経験を必要とする技能を要する業務に従事する活動
(専門的・技術的分野)
(引用:「新たな外国人材の受入れ及び共生社会実現に向けた取組」法務省)
http://www.moj.go.jp/content/001293198.pdf p10
技能実習生の受け入れは「日本での技術の習得」が目的ですので、基本的に入国時の技能試験などはありません。
一方、「特定技能」の在留資格をもって日本で就労しようとする外国人は、入国時に技能水準や日本語能力についての試験を受けなければなりません。
技能実習とは違い、あらかじめ経験や能力が備わった外国人労働者の受け入れが可能になると言えます。
また、技能実習生は受け入れ企業が限られていました。
これに対し、特定技能の外国人労働者の場合は、14種の「特定産業分野」に該当し、法務省の定める基準を満たしていれば、一般の企業や個人事業主でも受け入れが可能になりました。
自分の会社が受入れ機関として登録されれば、海外で直接採用活動を行うことも可能です。
一方で、気をつけなければならない点もあります。
特定技能1号の在留期間は最長5年だということです。
特定技能2号に関しては、在留期間の制限はありませんが、その業種は「建設」「造船、船用工業」の2つに限られています。
また、自分の会社が受入れ機関となるには、以下の基準を満たさなければなりません(図4)。
図4 特定技能外国人受入れ機関について(出典:「新たな外国人材の受入れ及び共生社会実現に向けた取組」法務省)
http://www.moj.go.jp/content/001293198.pdf p11
特に注意が必要なのは、受け入れた外国人労働者を生活面でどのように支援していくかについても、計画を提出しなければならなという点です。
特定技能1号の「5年」の在留期限をどのように捉えるかは、企業次第です。
学生アルバイトよりは長いとも考えられますし、仕事内容によっては厳しい、と考える企業もあるでしょう。
留学生の登用という方法
そしてやはり、優秀な外国人労働者には長期に渡って働いてほしい、というのは共通するところでしょう。
実は、外国人留学生に目を向けるのもひとつの考え方なのです。
留学生の卒業後の日本での就労には、いくつかの道が考えられます。
ひとつは「特定技能」への在留資格の切り替えですが、もうひとつ、知っておきたいのは「専門士」の制度についてです。
これは、大学あるいは専門学校を卒業する際に「専門士」の称号を付与された留学生は、条件を満たせば在留資格を「留学」から「就労」に切り替えることができる、というものです。
在留資格が「就労」となると、技能実習や特定技能とは違い、在留期間を更新し続けられるという利点があります。
よって、専門士の制度を意識して留学生の間にアルバイトやインターンシップという形で接することができれば、そのまま就職してもらえる可能性があるのです。
では、在留資格を「留学」から「就労」に変更するための条件をいくつか紹介します。
まず、日本では「就労」の在留資格は以下の種類しかありませんので、どれかに該当する職種でなければなりません(図5)。
図5 就労が認められる在留資格(出典:「新たな外国人材の受入れ及び共生社会実現に向けた取組:法務省)
http://www.moj.go.jp/content/001293198.pdf p2
このように見ると、高度専門職や経営という、ごく限られたもののように思う方もいるでしょう。
しかし、一般企業の場合はこの中の「技術・人文知識・国際業務」という在留資格で働いている外国人が多く見られます。
漠然とした職種名ではありますが、例えば技術開発や翻訳・通訳、外国人スタッフの教育、といった幅広い職種がここには含まれています。
もちろん、これにも制約があります。
「留学」から「技術・人文知識・国際業務」の就労ビザへ変更するにあたっては、
■ 在学時の専攻との関連性があり、その知識を必要とする職種であること
■ 単純作業ではないこと
■ 日本人と同等、あるいはそれ以上の賃金を得ていること
といった働き方であることが前提です。
法務省のガイドラインでは具体的な許可事例として、
(1)工学部を卒業した者が,電機製品の製造を業務内容とする企業との契約に基づき,
技術開発業務に従事するもの。
(2)経営学部を卒業した者が,コンピューター関連サービスを業務内容とする企業と
の契約に基づき,翻訳・通訳に関する業務に従事するもの。
(3)法学部を卒業した者が,法律事務所との契約に基づき,弁護士補助業務に従事す
るもの。
(4)教育学部を卒業した者が,語学指導を業務内容とする企業との契約に基づき,英
会話講師業務に従事するもの。
(引用:「留学生の在留資格「技術・人文知識・国際業務」への変更許可のガイドライン」法務省)
http://www.moj.go.jp/content/001277020.pdf
などを挙げています。
留学生の採用は、在学中に身につけた知識をすぐに活かしてもらうことができるだけでなく、将来的に外国人スタッフの指導や教育役も果たしてくれるというメリットもあるでしょう。
長い目で見た採用活動には、利点もあると考えられます。
外国人労働者の存在の大きさは増していく
特定技能の新設の背景には、当然、日本国内の人手不足があります。
少子化が続く限り、外国人に頼らなければならないのは明確な事実で、今後その傾向は強まっていきます。
実は、人手不足は日本に限ったことではないという事情も存在しています。
ですから、外国人労働者が必ずしも日本を選んでくれるとは限らないのも事実なのです。
ひとえに待遇や収入にかかっている状態です。
外国人労働者の数については、こんな試算もあります。
参議院の特別調査室が行なったもので、ある年に外国人労働者が100万人減少した場合、日本経済にどのような影響を与えるか、というものです。
図6 外国人労働者が減少した場合の経済への影響(出典:「経済のプリズムNo.176」参議院)
https://www.sangiin.go.jp/japanese/annai/chousa/keizai_prism/backnumber/h31pdf/201917601s.pdf p18
やや難しい表なのですが、この試算通りに物事が進んだ場合、日本経済は以下のように変化していきます。
まず、外国人労働者が減少すると、企業の生産能力に制約がかかってしまいます(潜在GDPの減少)。
すると、モノやサービスの供給が追いつかなくなり(需給ギャップがプラスになる)、物価は上がりやすくなります。
物価が上がると消費が冷え込んでモノが売れなくなる、つまり需要も減っていくことが考えられます。
この消費の冷え込みの影響が3年目以降、一気に顕在化します。
上の図では、3年目に「需給ギャップ」がマイナスに転じています。これは、需要よりも供給が多い状態になるということです。
今度は次第にモノが余るようになり、物価が下がる、労働者の賃金が下がる、消費の冷え込み、ということが同時に進行していきます。
そして5年目には日本の実質GDP(国内総生産)が3.9%も引き下げられてしまう、というのがこの試算結果です。
ひとつの試算とはいえ、外国人労働者の存在はそこまで大きくなりつつあるということです。
また、近年では、人手不足が理由になって倒産に追い込まれる企業も相次いでいます。
長期的に会社を安定させるためには、外国人労働者に対して「気軽に雇える助っ人」のようなイメージを持っていては認識不足と言えるでしょう。
優秀な人材であれば、積極的にその採用を考えるべき時代であるということです。
ぜひ、参考にして下さい。
<清水 沙矢香>
2002年京都大学理学部卒業後、TBS報道記者として勤務。
社会部記者として事件・事故、科学・教育行政を担当、その後、経済部記者として主に世界情勢とマーケットの関係を研究。海外でも欧米、アジアなどでの取材にあたる。
Webライターに転向して以降は、各種統計の分析、業界関係者へのヒアリングを通じて、多岐に渡る分野を横断的に見渡す視点からの社会調査を行なっている。
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