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「ダイバーシティな職場づくり」が見えてくる外国人人材の受け入れ

少子高齢化や多様化する市場ニーズに対応するために、ダイバーシティ経営への気運が高まっています *1。
ダイバーシティの一翼を担う外国人。彼らを受け入れるための職場づくりとはどのようなものでしょうか。
そして、そこから見えてくることとは・・・?

 

ダイバーシティと外国人人材

まず、「ダイバーシティ」とはどのようなものでしょうか。
経済産業省の「ダイバーシティ 2.0 行動ガイドライン」 *2:p.3 には、「多様な属性の違いを活かし、個々の人材の能力を最大限引き出すこと」、またそれが「付加価値を生み出し続ける企業」につながるとあります。

以下の図1は、ダイバーシティのイメージです。

図1 ダイバーシティのイメージ
出典:経済産業省HP(2019)経済産業政策局 経済社会政策室「ダイバーシティ2.0 一歩先の競争戦略へ」
https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/diversity/diversitykyousousenryaku.pdf

 

ダイバーシティは、価値観の転換です。

図1にもみられるように、これまで日本のビジネス界は日本人男性が牽引してきました。
でも、同じようなバックグラウンドや属性の人たちが作る集団は、価値観が偏り、固定概念に支配されがちです。
その結果、新しい発想が生まれにくく、現在、差し迫っている「外部環境」への適応が難しいという事態に直面しています。

そこで、人材を多様化させ、それらの人材がもつさまざまな属性を活用しようというわけです。
それは、これまでマイノリティ(少数派)として隅に追いやられていた人材に目を向け、その人たちならではの属性に価値を見出していこうとする方向性です。

「違い」を排除するのではなく、活用する。
その違いがイノベーションに結びつく。
だとしたら、大切なのは、多様な人材や属性そのものというよりは、そうした属性がもたらす、さまざまな視点や発想にこそあると考えていいでしょう。

そのような意味で、外国人は貴重な人材となり得るはずです。

2019年6月末の在留外国人数は2,829,416人で、同時期の総人口の約2.24%でした。 *3*4
また、労働者にかぎっても、日本の就業者全体に占める割合は、2018年時点で 2.2%でした。*5
「外国人」という属性は、現在の日本社会においては、たしかに絶対的なマイノリティです。

では今、目の前に採用が決まった「外国人」がいるとしたら。
その人を受け入れるために、どのような職場づくりをしていったらいいのでしょうか。

 

ハサミとギター

職場はふつう、マジョリティ(多数派)の都合に合わせてできています。
ハサミやギターと同じです。
道具や楽器どころか、実は社会そのものがマジョリティ向きにできているといってもいいほどです。

そもそもひらがなもカタカナも漢字も右利き用!
横書きの左から右へという方向も右利き用!
スマホも自販機も駅の改札も、右利き用!

左利きの友人の嘆きです。

このように、マジョリティにとっては当たり前すぎて便利とさえ思ってもいないようなことが、マイノリティにとっては不便そのものです。
しかも、便利さを意識していないマジョリティは、マイノリティの立場になかなか気づくことができません。

マジョリティのこうした思考は「固定概念」と呼んでもいいでしょう。
それが「固定概念」であることを気づかせてくるのが、マイノリティの存在です。

そう考えると、外国人人材を受け入れるための職場づくりとは、マイノリティの視点から職場を見直すことから始まるといってもいいのではないでしょうか。

ここからは、受け入れに際して、盲点になりがちな問題についてお話ししていきたいと思います。

「あのお店にあったよ!」自分とは異なるライフスタイルを認め、尊重し合う

職場での休憩時間。
「えっ? チョコレートもだめなの?」

思わず声を上げたのは、ベテランのパートさん。
旅行土産のチョコレートを勧めたときのことです。
なかなか手を伸ばさないEさんが気になっていました。

「すみません、それ、食べられません・・・」

何回も勧められたEさんは、申し訳なさそうに小声で伝えました。
彼女はムスリム(イスラム教徒)なのです *6:p.6-7。

イスラム教では、禁じられている食品があります。
よく知られているのは、豚肉やアルコール類ですが、これ以外にも、厳しい制約があります。 *6:p.8-10

「お菓子も食べられないものが多いんです。なかなかわかってもらえなくて・・・」

一方、食べてもいいものは「ハラール」と呼ばれ、「ハラール認証」を受けたものであれば、安心して食べることができます。 *6:p.11-13

下の図2は、ムスリムの人口・割合の推移と将来推計を表しています。
この図からもわかるように、ムスリムは世界の総人口の約4分の1を占め、今後も増加することが予測されています。

               
図2 イスラム教徒人口・割合の推移と将来推計(単位:10億人)
出典(図2・表1):農林水産省(2015)「平成26年度ハラール食品に係る実態調査事業」p.12
https://www.maff.go.jp/j/kokusai/kokkyo/food_value_chain/pdf/sankou_4.pdf

 

次に、下の図3は、各国のムスリム人口、表1は、ムスリムの多い国ランキングです。

図3 各国のムスリム人口
出典:農林水産省(2018)「ハラール食品輸出に向けた『手引き』」(平成30年4月更新版)
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/export/attach/pdf/Halal-1.pdf

 

表1 イスラム教徒が多い国上位10国

上位国インドネシア出身の就労者は日本にもいます。2018年時点で、41,586人でした。 *7
また、2019年に在留資格「特定技能」が導入され、今後、パキスタンやインドネシアから新たな労働者が来日することも予想されます。 *8

イスラム教の戒律については、ムスリム自身がよく理解しています。
相手がどういう状況か把握し、尊重する。
そういう価値観を職場全体で共有できるといいですね。

ちなみに、筆者の経験では、国や人によって戒律に対する姿勢にも濃淡があり、厳格な場合とやや緩い場合がありそうです。
また、現在は、チョコレートも含めて、ハラール認証を取得した食品が日本でも次第に入手しやすくなっているようです。

「あそこのスーパーのアボカド、いつも食べごろでおいしいよね」
「そういえば、そのスーパーに、ハラールがあったよ!」

休憩時間にそんな言葉が飛び交う職場なら、Eさんも居心地のよさを感じ、長く働きたいと思うかもしれません。

こうしたことは、もちろんイスラム教にかぎりません。
宗教が生活の基盤であり、人生の大切な指針となっている人々がいます。
自分とは異なるライフスタイルを認め、尊重し合うのがダイバーシティの基本姿勢ではないでしょうか。

 

日本語学習は外国人の権利!

2019年6月に「日本語教育の推進に関する法律」が施行されました *9。
この法律は、これまで日本語教育を受ける機会がなかなか得られなかった外国人(日本語が不自由な人)に、日本語教育を受ける機会を保障するという画期的なものです。

その第六条には、事業主の努力義務として、雇用する外国人やその家族の日本語学習に協力することが明記されています。 *10

ただ、この法律の条文に記されているのは基本理念だけで、まだ施策段階には至っていません。今後、具体的にどのような制度が整備されていくのかは不透明ですが、この法律とは関係なく、職場での取り組みも大切です。
職場でのコミュニケーションは、日本語の上達を促すからです。
では、彼らとのコミュニケーションではどのようなことに気をつけたらいいでしょうか。

 

はっきり言いたくないことこそ、はっきりと!

「ちょっと、それは難しいかもって、どういう意味ですか」
「どんなときに言われたの?」
「有給を取ろうとしたら・・・」
「ああ、それだったら、無理だっていう意味だと思うわ」
「そうなんだ・・・」

日本人は誘いや申し出を断るとき、相手に気を使います。
そのため、なるべくはっきり言わずに、言葉を濁して、相手にわかってもらおうとしますね。
でも、そうした「言外の意味」が理解できない外国人は案外、多いものです。

断るときと同じ心理は、逆の立場になったとき、つまり人に何かを頼むときにも、働きます。
強引になりすぎないように気を使い、直接的な表現は避けようとします。

「今、忙しいよね?」
「はい・・・」
「忙しかったら、仕方ないんだけど、できたら、これ、やってもらえると助かるんだけど」

日本人なら、こんなふうに頼むことも頼まれることもあるでしょう。
ところが、このように言われたら、次のように思う外国人がきっといるはずです。

「忙しかったら、仕方がないということは、やらなくてもいいということだろうか。でも、やってもらえると助かるというのは、やってもらいたいということだろう。やらなくてもいいのか、やらなくてはいけないのか、どちらだろう?」

はっきり言いたくなくても、相手にわかるように、はっきり言う。
相手に理解してもらうために、いつものスタイルを変えてみる。
そんな姿勢が共有できれば、それは職場全体のコミュニケーション能力向上にも役立つはずです。

「その頃は一番、忙しい時期なんですよ。もう2~3日後にしてもらえませんか。申し訳ないけど、よろしくお願いいします」
「忙しいところ、すみません。それは後にして、こっちを先にやってください」

そんな表現なら、はっきり意図が伝わるはずです。

 

マイノリティはマジョリティ

先ほど、「外国人」という属性は、絶対的なマイノリティだとお話ししました。
でも、「外国人」は、その人のさまざまな属性のうちのひとつに過ぎません。

たとえば、もし、子どもがいる外国人女性が、子持ちの主婦が多い職場に入ったとしたら、どうでしょうか。
そういう職場では、彼女はマジョリティの1人になるでしょう。

その職場では、学校行事に合わせてシフトを融通するようなシステムは既に構築されているでしょうし、子どもの病気など突発的なことに対応できる体制も組まれているはずです。
休憩時間には、子どものことで日本人従業員とおしゃべりが弾むかもしれません。

外国人人材の中の、こうしたマジョリティ的属性にも目を向け、同じ属性をもつマジョリティとの連帯が図れるよう配慮することも大切です。
それが彼らをリラックスさせ、日本人従業員との関係にもいい影響を与えるかもしれません。

ここで、省庁の資料をご紹介したいと思います。
以下の資料には、外国人人材を受け入れる際の留意点や様々な事例が示されています。
この中から、参考になる取り組みがみつかるかもしれません。
一度、目を通してみたらいかがでしょうか。

厚生労働省 外国人の活用好事例集 *11
経済産業省 ダイバーシティ経営読本 *12:pp.46-53

専門アドバイザーに無料で相談できる制度もあります。
厚生労働省 外国人雇用管理アドバイザー *13

 

外国人人材が促す「ダイバ―シティな職場づくり」

先ほどお話ししたように、外国人人材を受け入れるための職場づくりは、マイノリティの視点から職場を見直すことから始まります。
それは、彼らがいることによって、マイノリティの視点が備わるということを意味します。

そして、そのような視点を生かした職場づくりの経験は、他のマイノリティを職場に受け入れる際にも役立つはずです。
外国人人材は、「ダイバーシティな職場づくり」を促すという意味でも貴重な存在だといえるでしょう。

 

*1
参考)経済産業省(2019)「ダイバーシティ経営の推進」
https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/diversity/index.html
*2
引用および参考)経済産業省HP(2018)「ダイバーシティ 2.0 行動ガイドライン」
https://www.meti.go.jp/report/whitepaper/data/pdf/20180608001_3.pdf
*3
法務省(2019)「令和元年6月末現在における在留外国人数について」
http://www.moj.go.jp/content/001308162.pdf
*4
参考)総務省統計局(2019)「人口推計(令和元年(2019年)7月確定値,令和元年(2019年)12月概算値)」(2019年12月20日公表)
https://www.stat.go.jp/data/jinsui/new.html
*5
参考)内閣府(2019)政策統括官(経済財政分析担当) 「政策課題分析シリ-ズ18 企業の外国人雇用に関する分析 ―取組と課題について― 」:「要旨1」
https://www5.cao.go.jp/keizai3/2019/09seisakukadai18-6.pdf
*6
参考)農林水産省(2018)「ハラール食品輸出に向けた『手引き』」(平成30年4月更新版)
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/export/attach/pdf/Halal-1.pdf
*7
参考)厚生労働省(2019)「『外国人雇用状況』の届出状況まとめ【本文】 」(平成30年10月末現在)
https://www.mhlw.go.jp/content/11655000/000472892.pdf
*8
参考)法務省(2019)「特定技能に関する二国間の協力覚書」
http://www.moj.go.jp/nyuukokukanri/kouhou/nyuukokukanri05_00021.html
*9
参考)文化庁HP(2019)「日本語教育の推進に関する法律の施行について(通知)」
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunka_gyosei/shokan_horei/other/suishin_houritsu/1418260.html
*10
参考)文化庁HP(2019)「日本語教育の推進に関する法律 条文」
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunka_gyosei/shokan_horei/other/suishin_houritsu/pdf/r1418257_02.pdf
*11
参考)厚生労働省(2017)「外国人の活用好事例集 外国人の採用や雇用管理を考える事業主・人事担当者の方々へ ~外国人と上手く協働していくために~ 」
https://www.mhlw.go.jp/content/000541696.pdf
*12
参考)経済産業省(2018)「適材適所のススメ 多様な人材の活躍が解決する人手不足と経営課題 〈 ダイバーシティ経営読本〉」
https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/diversity/kigyo100sen/practice/pdf/20180314_keieidokuhon.pdf
*13
参考)厚生労働省「外国人雇用管理アドバイザー」
https://www.mhlw.go.jp/www2/topics/seido/anteikyoku/koyoukanri/index.htm

<横内美保子(よこうち みほこ)>
博士(文学)。元大学教授。大学における「ビジネス・ジャパニーズ」クラス、厚生労働省「外国人就労・定着支援研修」、文化庁「『生活者としての外国人』のための日本語教育事業」、セイコーエプソンにおける外国人社員研修、ボランティア日本語教室での活動などを通じ、外国人労働者への支援に取り組む。

 

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