人材定着
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『労働価値説』だけではアルバイトが仕事に求める価値観は満たせない

アルバイトを雇っていると、仕事を長く続けてくれる人がいるのと同時に、すぐに辞めてしまう人もいます。

経済学者カール・マルクスの『労働価値説』によれば、働く人たちは、自分の労働力を雇用主に提供した対価として給与を得ているとされています。しかし、労働力を提供するだけの状況に満足し続けることが難しい人もいるかもしれません。

それでは、人が働く上ではどういった「価値」が重要なのでしょうか?

労働継続において重要な、職業(労働)に対する価値感について、キャリア研究の権威ドナルド・E・スーパーの『仕事の重要性研究』を踏まえて説明していきます。

目次

労働価値説だけではアルバイトは働き続けられない

「職業価値感」とは?

仕事への価値観は一つではなく成長とともに変化する

まとめ

労働価値説だけではアルバイトは働き続けられない

とあるコンビニエンスストアの店長は、予想外の出来事に焦っていました。主力として働いていた2人のアルバイトが、順を追って辞めてしまったのです。
人柄がいい大学生たちで勤め始めの頃から元気もよく、月に一度のミーティングでも「職場環境や給料に不満はない」と答えていたのに、突然辞めたいと言ってきたのです。

辞めたい理由を確認すると、一人は就職活動のためでしたが、もう一人は「やりがいを感じられなくなった」と話してくれました。アルバイトを始めた目的はお金を稼ぐことだったのですが、いつからか機械的に働いているような感覚になり始めたそうなのです。
彼はシフトリーダーとして活躍してくれており、それに伴って時給も増やしていました。しかし彼は、「お金うんぬんではなく、この仕事は自分じゃなくてもできると気づいた」と、声を絞り出しながら話してくれたのです。

店長は、彼と良好な関係を築いて「やりがい」を持って働いてもらうために、リーダーシップや段取りの良さを常々褒めており、替えの効かない存在とまで伝えていました。

しかし、労働力の対価として給料をもらう『労働価値説』や店長からの賞賛といったものだけでは、彼の「やりがい」を満たすことができなかったようです。

 

ドナルド・E・スーパーの『仕事の重要性研究』で調査・分析された職業価値感とは?

アルバイト定着のために、給与を見直したり、相手を褒めてやる気を引き出すコミュニーケーションをしたとしても、長く働いてくれるとは限らないようです。

それでは、アルバイトは仕事に対して何を求めているのでしょうか?

キャリア研究の第一人者として世界的に有名なドナルド・E・スーパーは、『仕事の重要性研究(Work Importance Study)』という国際研究を行っており、日本からも中西信男氏と三川俊樹氏の2名のキャリア研究家が参加していました。1988年報告の『日本の成人における職業(労働)価値観を中心に』において、両氏は日本の成人の職業価値観についての調査結果を報告しています。

スーパーは同じキャリア研究家のネビルとともに、21の職業価値観を提唱しており、中西氏と三川氏は、日本文化でも適応できる20の職業価値観について、性別や年齢別に重要度の測定を行いました。


参考)「日本の成人における職業(労働)価値観を中心に」を参考に筆者作成
https://www.jstage.jst.go.jp/article/career/9/0/9_KJ00005718384/_pdf/-char/ja

 

成人男性648人と成人女性102人に対して行った、職業価値観の重要度調査結果は以下のとおりです。


参考)「日本の成人における職業(労働)価値観を中心に」を参考に筆者作
https://www.jstage.jst.go.jp/article/career/9/0/9_KJ00005718384/_pdf/-char/ja

 

上位5つの職業価値観について見てみましょう。
「能力の活用」は、自分の能力が仕事の中で活かせるかという価値観です。自分の能力に対して、職務レベルが高すぎて失敗が続いたり、逆に低すぎてやりがいを感じられないと、仕事に満足感を得られない原因となります。

「人間的成長」は、仕事を通して内面的な成長が感じられるかを指します。仕事を行うことで直接的に成長を感じられるのはもちろん、仕事上で関わる同僚や顧客との関わりも成長感を得られる要因となります。

「創造性」は、仕事で新しいことを発見したり、発展させたりすることができる環境かを指します。決められた単純なルーチン業務をこなすのではなく、自分の提案によって職場環境が改善したり、顧客満足度をあげられるような働き方をできることが望まれています。

「ライフ・スタイル」は、自分が望むペースで生活と仕事を両立できることを指します。労働時間やシフトが決められており、過度な残業や休日の突発的な出勤がなく、有給休暇も取得しやすい環境が望まれます。現代で言うところの「ワーク・ライフ・バランス」の良い職場と同義です。

「達成」は、自らが良い結果を生んだという自己評価はもちろん、その実績を他者から正当に評価されているかを指します。評価の給料への反映や、地位の向上というものが求められます。

1988年の調査結果ではありますが、いずれも現代の職場環境においても重視され続けている職業価値観のようです。

仕事への価値観は一つではなく成長とともに変化する

職業(労働)価値観は、最終的に14にまで絞られましたが、人によってその価値観の数はもちろん重要度も違います。

アルバイトも、個々人によって仕事に対して求めている価値が異なります。

「経済的安定」といった、お金に関する労働価値を求めている人に対しては、「労働価値説」に沿って給料を設定すれば、長く働いてもらえるかもしれません。しかし、「ライフ・スタイル」を求める人には、お金よりも働く時間の自由度に対する要望に応える必要がありそうです。

それでは、採用面談でアルバイトが求める職業価値観を見定めさえすれば、オーナーが望むように働き続けてくれるのでしょうか?

残念ながら必ずしもそうとは限りません。なぜなら、職業価値観は時間や環境によって変化をしていくからです。

先の『日本の成人における職業(労働)価値観を中心に』では、年齢別の職業価値観についての調査も実施されています。その結果によると、調査対象の年代によって職業価値観に変化があることがわかります。


参考)「日本の成人における職業(労働)価値観を中心に」を参考に筆者作成
https://www.jstage.jst.go.jp/article/career/9/0/9_KJ00005718384/_pdf/-char/ja

20代、30代、50代のデータを抜粋したグラフを見てみると、年齢が上がるにつれて、顕著に価値の重要度が下がっている項目があることがわかります。

つまり、人は年齢を経ることで労働に対して求める価値が変化してしまうのです。

ドナルド・E・スーパーは、人が生まれてから死ぬまでのライフキャリアにおける、時間と役割の変化に着目した「ライフ・キャリア・レインボー」というモデルを示しています。

これは、人が年齢とともに発達する「ライフ・ステージ」と、その時々で果たす役割「ライフ・スペース」で組み合わされています。


参考)「職業相談場面におけるキャリア理論及びカウンセリング理論の活用・普及に関する文献調査」を参考に筆者作成
https://www.jil.go.jp/institute/siryo/2016/documents/0165.pdf

人は「ライフ・ステージ」の中で、「9つの役割」を時に同時に果たしながら、またはその役割のウェイトを変化させながらキャリアを形成しているとされています。

つまり、アルバイトであっても、年齢だけでなく職場や家庭における役割の変化によって、労働に対して求める価値が変化していくのです。

オーナーはアルバイトを雇うとき、決められた業務を行い続けてもらうことを望むかもしれません。しかし、人によってだけでなく、時間の変化はもちろん職場以外での役割の変化によって、仕事に求める価値が変化することを理解しておかなければならないのです。

この変化に気づかず、ただ闇雲に給料を増やしたり仕事ぶりを褒めるといった関わりをしているだけでは、必ずしもアルバイトの定着を促すことはできないのです。

アルバイトの従業員の変化に気づくためには、定期的なキャリア面談を行う必要があります。「仕事において何を達成したいのか?」「職場環境に何を求めるか?」など、職業価値観の各項目の中で何を重視しているかを定期的に確認し、その変化を把握する必要があります。

アルバイトの要望を全て満たすことは難しいでしょう。ただ、全てをオーナーだけで考える必要はありません。労働価値を満たすために何をすればいいか、アルバイト自身の意見を聞く場にすることもできるのです。

そうして雇用しているアルバイトの職場価値観を満たせるような職場環境の構築を行えば、定着を促すことができます。また、新しくアルバイトを雇う際にも、職場の環境を考慮して、自社とマッチする応募者の採用を行うことができるようになります。

まとめ

アルバイトが長く定着してくれるかどうかは、「お金」や「ワーク・ライフ・バランス」など、働く人の価値観と仕事がマッチしていることはもちろん重要です。ただ、職業(労働)価値感は一つではありませんし、時間の経過やその人の役割が変わることで、求める価値の重要度や数も変化します。

雇用する側であるオーナーは、アルバイトが仕事に求めている価値を把握するのはもちろん、その変化に気づいて対処するために関わり続けることも重要となります。

アルバイトも、個々人の「達成」や「創造性」といった職業価値観を満足させるために、やりたいことはもちろん、自らがやるべきことを考えてもいます。

アルバイトの職業価値観を満足させることは、オーナーにとっても職場活性化などのメリットがあります。アルバイトの悩みを聞いたり褒めて伸ばすといったいつもの関わり方をちょっと変えて、アルバイトの労働価値観を満たす「キャリア設計」についてお話しをする機会を、定期的に設けてみてはいかがでしょうか?

 

【筆者】
隈本 稔
1979年長崎生まれ。工学系の大学院を修了後、大日本印刷株式会社や東レ株式会社にて製品開発・プロジェクトリーダーを経験。2018年より独立し、業務改善・業務効率化のコンサルティングを活動を実施。国家資格キャリアコンサルタントを取得。運営メディア「職りんく」などを通して100人以上の求職者支援を行い、中小企業向けのキャリアコンサルティングも行なっている。
運営メディア:職りんく(https://syokulink.com

 

 

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