新型コロナウイルスの感染拡大により、新しい生活様式が浸透してきました。手洗いやマスクなど、個人による感染予防が基本ですが、職場としても対応が求められています。なかでも、職場の設備・備品管理は、職員やお客様を守るために欠かせません。
職場は人が密集しやすい環境であるため、クラスターがおこるリスクがあります。クラスターを防ぎ、コロナ禍でも業務を継続するためには、どのような対策が有効なのでしょうか?
今回は、職場における感染予防のなかでも、設備・備品管理についてお話しします。
換気や消毒が大切だと理解していても、具体的にどうすればよいのか分からない方も多いと思います。新型コロナウイルスの特徴や感染予防対策など、これまでに判明している情報をもとに解説しますので、職場での感染予防に役立てていただければ幸いです。
目次
職場で感染症やクラスターがおきやすい理由とは
感染症は、人と人の接触が増えるほどおきやすくなります。特に気を付けたいのが、クラスター(集団感染)です。クラスターがおきやすい場所は、いわゆる3つの密(密閉・密集・密室)が重なる場所です。職場ではこの状況がおきやすいため、クラスターへの対策が必要になります。
「クラスター」と聞くと、メディアで多く報道されたこともあり、病院やカラオケ店舗をイメージするかもしれません。
しかし、職場でもクラスターがおきています。
国立感染症研究所は、クラスターの事例100例を分析し、典型的なケースをまとめました。この報告書のなかでは、院内感染や昼カラオケ、接待を伴う飲食店などと共に、職場も挙げられています。*1
職場では、締め切った空間での会話がよくあります。特に会議は、参加者にはっきり聞こえるように大きめの声で話しがちです。会話は、飛沫が飛ぶ要因になります。このように、職場では3つの密と飛沫が飛ぶ環境が重なり、クラスターのリスクが高まります。
引用)国立感染症研究所 「クラスター事例集」
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000654503.pdf 4P
厚生労働省によると、新型コロナウイルスの一般的な感染経路は接触感染と飛沫感染です。さらに、閉鎖した空間において近距離で多くの人と会話する環境では、咳やくしゃみなどの症状がなくても感染を拡大するリスクがあるとしています。*2
では、ウイルスが生存できる時間はどのくらいなのでしょうか?
国立感染症研究所によると、
・エアロゾル(飛沫よりも小さな粒子)で3時間まで
・プラスチックやステンレスの表面では72時間まで
・銅の表面では4時間まで
・段ボールの表面では24時間まで
生存するといわれています。*3
このデータを見ると「思っていたより生存時間が長い」と感じるのではないでしょうか。もちろん、ウイルスの生存が全て感染につながるわけではありませんが、頭の片隅に入れておくと感染予防の意識が高まると思います。
まとめると、
・職場は3密になりやすく、飛沫が飛びやすい状況にある
・新型コロナウイルスは、比較的長い時間生存できる
という特徴から、職場はクラスターがおきやすい環境といえます。
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職場でクラスターを防ぐために、設備・備品管理が重要な理由
設備・備品管理の重要性を説明する前に、感染症の基本をおさえましょう。
感染症は、病原体、宿主(今回は人)、感染経路の3つが揃うことで発症します。どれか1つでも欠ければ、感染症はおきません。
手洗いやマスクで感染経路を遮断する他、換気や消毒でウイルスの数を減らすことも感染予防につながります。そのため、一人ひとりが気をつけるのはもちろんですが、職場としても設備・備品管理を行い、感染予防対策に努めることが大切です。
参考)厚生労働省 「概要版 介護職員のための感染対策マニュアル」をもとに筆者作成
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/000678255.pdf 3P
接触感染と飛沫感染を防ぐために、職場でできる主な設備・備品管理は以下の2つです。
①空調の点検、定期的な換気、職場環境の整備
②備品(特に不特定多数の人が触れるもの)の消毒、使い捨ての活用
これらの対策により、空気中でのウイルスの停滞を防ぎます。また、手に付着するウイルスを減らしたり感染力を低下させたりすることで、体内への浸入や他者への感染を防げます。
感染予防のための設備管理と換気の方法
では、職場でできる設備管理について、具体的な方法とポイントをみていきましょう。
①空調設備の点検を行う
空調にはさまざまな種類がありますが、機械換気(機械を用いて強制的に換気する設備)が導入されていれば自動的に換気が行われます。
点検を行い、正常に作動しているかチェックしましょう。
②定期的な換気を行う
機械換気が導入されている場合は、自然換気(窓を開けての換気)を同時に行う必要はありません。もし機械換気がなければ、定期的に窓を開けて換気をしましょう。方法は、2方向の窓を1時間に2回以上、数分間全開にします。*4
要注意なのは、エアコンを使うことが多い夏や冬の時期です。つい窓を閉め切ってしまいますが、空気の流れが悪くなりウイルスが停滞しやすくなります。換気の時間は数分なので、エアコンを運転させたまま換気しましょう。
③密集を防ぐ工夫をする
テーブルや椅子の数を減らし、密集を防ぐ工夫が大切です。
どうしても人と人との距離が近くなるときは、パーテーションも活用しましょう。
④ウイルスの拡散を防止する
トイレのハンドドライヤーは、手の水滴を風で飛ばすためウイルスを拡散するおそれがあります。
使い捨てのペーパータオルを準備するか、もしくは個人が持つハンカチを使うようにしましょう。
職場でできる備品の消毒方法とポイント
次に、備品の消毒方法と気をつけたいポイントを紹介します。
①定期的な消毒
ドアノブや電気のスイッチ、テーブルなど、不特定多数の人が触る場所は定期的に消毒を行いましょう。
消毒はアルコールの他に、次亜塩素酸ナトリウムや界面活性剤(洗剤や石けんなど)も使えます。
消毒方法は、それぞれの特徴を把握したうえで選ぶと安心です。
次亜塩素酸ナトリウムは、金属を腐食させるおそれがあります。
さらに、次亜塩素酸ナトリウムで消毒したあとは水拭きが必要です。
界面活性剤の場合、2020年10月16日現在、効果が確認されているのは9種類なので、その中から選ぶようにします。*4
台所用洗剤で消毒したあとも、水拭きが必要です。特に、プラスチックに付着したままだと痛むことがあるので気をつけましょう。
消毒したい場所やそのときの状況に応じて、消毒方法を選んでください。
②消毒の濃度に注意
消毒の効果を得るためには、濃度も重要なポイントです。
以下を参照に、消毒薬を準備しましょう。
すでに使用している場合も、1度チェックすることをおすすめします。
・アルコール:濃度は70%以上95%以下のエタノール。難しければ60%台でも可。*4
・次亜塩素酸ナトリウム:市販の家庭用漂白剤を、次亜塩素酸ナトリウムの濃度が0.05%になるように薄める。*4
・界面活性剤:住宅・家具用洗剤は、決められた用途の通りに使用する。台所用洗剤は、水500mlに対して小さじ1杯(5g)入れて薄める。*5
③共有するものを最小限に
職場内には、パソコンやボールペンなど職員で共有して使うものが多いと思います。
しかし、ウイルスが付着していてそれを共有した場合、人から人へうつる可能性があります。
可能な限り個別に用意して、共有するものを最小限にしましょう。
④使い捨ても活用する
感染予防には、消毒だけでなく使い捨ても有効です。
使い捨てにすれば、消毒の手間を省けるメリットもあります。
例えば、コップを紙コップにする、台ふきんやおしぼりを紙製にするなど、できるものから取り入れてみてください。
以上、消毒方法について解説しましたが、消毒の頻度も気になるポイントだと思います。
消毒の頻度は決めるのが難しく、明確な基準はありません。
例えば、会議で使用したテーブルや椅子は終了後に消毒できますが、ドアノブやスイッチは何度も触れるためタイミングを迷ってしまいます。
消毒の頻度を増やせば増やすほど、職員の負担になり業務にも支障が出てしまいます。
できる範囲で消毒をしつつ、手洗いやマスクなど個別の感染予防対策も一緒に行うことが大切です。
まとめ
感染症は目に見えないので、どの程度の対策をしたら防げるのか不安に思う方もいるでしょう。
しかし、新型コロナウイルスの感染拡大からある程度時間が経ち、有効な対策方法が分かってきました。
設備・備品管理は、職場ができる感染予防対策のひとつです。
最新情報をチェックしながら定期的に見直し、コツコツ実践していきましょう。
*1
参考)国立感染症研究所 「クラスター事例集」
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000654503.pdf
*2
参考)厚生労働省 「新型コロナウイルスに関するQ&A(一般の方向け)令和2年10月9日時点版 2.新型コロナウイルスについて 問2 新型コロナウイルス感染症にはどのように感染しますか。」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00001.html#Q2-2
*3
参考)国立感染症研究所 「新型コロナウイルス感染症に対する感染管理(2020年10月2日改定版)」
https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov/9310-2019-ncov-l.html 3P
*4
参考)厚生労働省 「新型コロナウイルスの消毒・除菌方法について(厚生労働省・経済産業省・消費者庁特設ページ)」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/syoudoku_00001.html
*5
参考)経済産業省 「ご家庭にある洗剤を使って身近な物の消毒をしましょう」
https://www.meti.go.jp/press/2020/06/20200626013/20200626013-3.pdf
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著者:浅野すずか
・プロフィール:フリーライター。看護師として病院や介護の現場で勤務後、子育てをきっかけにライターに転身。看護師の経験を活かし、主に医療や介護の分野において根拠に基づいた分かりやすい記事を執筆。
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