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イノベーションに繋がる社内副業 「兼業・副業」の事例・評価の考え方とは

本業以外に仕事を持つ副業や、複数の職場を掛け持ちする兼業といった働き方に関心が集まっています。

働き方に柔軟性が生まれるという特徴もありますが、複数の職場を持つことで幅広い知見を持つ人材は、企業に新しいビジネスの創出やイノベーションをもたらすことができるという側面からも注目されています。

大企業でも社内兼業という働き方や、他の企業での副業を認める動きが広がっています。

この際、ただ兼業や副業をするよりも、同時にキャリアアップし、市場で必要とされる人材を目指すという目標を持っている人も多いのではないでしょうか。

では、そのような兼業や副業の選び方・考え方はどのように進めればよいのでしょうか。

目次

企業のニーズを知る

兼業・副業者に求められるもの

螺旋階段を上るように

まとめ

企業のニーズを知る

企業が人材確保に関して抱えている悩みは以下のようなものです(図1)。

図1 企業の人材確保で抱える課題
(出所「 兼業・副業による人材の受け入れニーズ調査報告書(抜粋版)」関東経済産業局)
https://www.kanto.meti.go.jp/seisaku/jinzai/data/houkokusho_bappon.pdf p5

人手不足がベースにあるなかで、大企業・中小企業の共通の悩みとしては「人材育成」、中小企業の悩みとしては「求めている人材がいない」というものが挙げられています。

そこで注目されているのが兼業・副業者の社内への受け入れです。
兼業・副業で働き続けている人は、企業から見ればあらかじめ経験を積んでいる即戦力としての期待があります。

そして企業はこのような兼業者や副業者を受け入れたいと考えています(図2)。

図2 兼業・副業者を受け入れる場合に求める人材
(出所「 兼業・副業による人材の受け入れニーズ調査報告書(抜粋版)」関東経済産業局)
https://www.kanto.meti.go.jp/seisaku/jinzai/data/houkokusho_bappon.pdf p10

「市場・業界における専門知識を有する人」
「同事業で経験を積んでいるような即戦力社員」
が圧倒的に多くなっています。

こうした意見をまとめると、企業ニーズにあった兼業・副業はこのような形になります(図3)。

図3 企業のニーズと人材側のニーズ
(出所「我が国産業における人材力強化に向けた研究会(人材力研究会)報告書」中小企業庁)
https://www.meti.go.jp/press/2017/03/20180314003/20180314003-1.pdf p13

企業としては必要な時にピンポイントで必要な仕事をしてくれる、かつ自社で育成する必要性のない人材を求めています。
各種保険や退職金などの負担も理由のひとつです。

そして兼業・副業をする人は転職や働き方を変えたいと考えている人です。

両者をマッチさせる場合、多様な組み合わせが考えられます。
具体的には下のように「継続型」「プロジェクト型」に分かれます(図4)。

図4 企業ニーズと多様な働き方の組み合わせ
https://www.meti.go.jp/press/2017/03/20180314003/20180314003-1.pdf p13

「継続型」がある程度の時間、時短勤務のような形で期間を区切らず関わり続けるのに対し、「プロジェクト型」は、社内の特定の事業や新規プロジェクトにのみ期間限定で関わるという形です。

現在の日本に多いのは「パートナーシップ型雇用」と呼ばれる、社員の業務を厳密に定めていない雇用方式で、兼業・副業者には「必要な時に必要なだけ働いてもらう」形が求められています。

しかし人材を育成する人材がいない、時間がない、費用をかけられない、といった面で実現できないという悩みが企業にはあります。

それを補ってくれる、現場経験を積んだ兼業・副業者を有効利用したいという願いがあります。

また、「自社に外部の風」を持ち込む効果も兼業・副業者には期待されています。

自社のやり方にこだわりすぎることで結果を出せていないのではないか、そう考える経営者も最近は少なくありません。

兼業・副業者に求められるもの

まず現代のIT化の中では、ひとつのスキルの賞味期限が短くなっていると言われています。

新しい技術が次々と生まれるのに対応していかなければならなくなっていますが、必要なのはその都度全てを表面的に学ぶことではなく、多くの技術=アプリを動かせる「OS」のアップデートです(図5)。

図5 キャリア形成における「OS」の考え方
(出所「我が国産業における人材力強化に向けた研究会」(人材力研究会)報告書」 経済産業省)
https://www.meti.go.jp/press/2017/03/20180314003/20180314003-1.pdf p35

兼業や副業で多くの協業者と接するようになると、それぞれの会社の専門に合わせて「会話」ができなければならなくなる=多くのアプリに対応しなければならなくなります。

よって、自身のOSをアップデートすることが近道になります。ひとつひとつを追っていては兼業や副業は時間的労力的に成り立たなくなってしまいます。

また、近年は「コンピテンシー」という概念が注目されています。

図7 「コンピテンシー」の概念(出所「人材像WG参考資料集」経済産業省)
https://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/sansei/jinzairyoku/jinzaizou_wg/pdf/006_s01_00.pdf p7

知識やスキル、人間性といったキャリア形成に必要な要素がある中で、重要なのはそこから得たものを「どのように生かすのか」を考えられるようになること、これがコンピテンシーというものの正体です。

自分の知識やスキル、人間性を「外から俯瞰」することで自分の強み弱みを知り、その先自分が積んでいくべき経験や新しく直面する問題への自分なりの対処方法を探っていくという、「点と点を線で結ぶことができるか」という能力が試されます。

こうした認知能力を「メタ認知」と言います。

多くの業務がIT化していく中、機械ではこなせない仕事をできる人が求められています。

 

螺旋階段を上るように

なお、兼業・副業者の成功事例としては、このようなものがあります。

例えばある副業者が、副業として実家の稼業を支援するうちに、「経営者の視線」を獲得したというものです。
会社員のままでは知ることのなかった経営という視線を、副業の稼業を通して知るようになると、これは本業でも生きるスキルになります*1。

また、ある大手製造業では、副業を許可制にし、社員のセカンドキャリア開拓に兼業副業を役立てています*2。

会社では、シニア世代を何歳まで雇えるかわからないという状況にあります。
そのような中これら世代の副業は、様々な現場で経験を積むことで、場合によっては退職後もその社員の力を借りることが期待できます。
もちろん社員にとっても、兼業や副業を積み重ねることで、起業という道も開けてきます。

定年の概念が崩れつつある中、培ったノウハウでセカンドキャリアを自由な兼業・副業者として始めることは、会社にも社員にとってもメリットがある話です。

ちなみに筆者の場合も、仕事の形式は「業務委託」ですが兼業者の一人と言えます。
ライターという仕事を通じて、多くの業界と関わっていますが、企業ごとに様々な価値観があり、企業ごとに専門性があり、必要とされる知識も異なります。

自分の学生時代の専門に近いものもあれば、門外漢の仕事を受けることもありますので、読書などで知識を補う事になります。
結果、本棚にはバラバラのジャンルのものが並ぶという始末です。

しかし、新しい仕事は常に最初は戸惑いますが、自分の幅を広げる仕事には積極的に関わるようにしています。

このようにして「ライター」というひとつの軸の元、「多くの業界に関する知識」を得ることで、それぞれの業界の新しい話題を知ることになり、横への広がりができて行きます。

同時に、多くの種類の統計を見るので、それが自身の中に知識として蓄積されていくと、
「A社の悩み事はB社の方法論とC社の社風を組み合わせると、良い方に向かうのではないか」
と、これまでにやったことのないものを思いつくことが多くあります。

また、知識の広さが「メタ認知」に繋がっています。
自分自身や社会を俯瞰する視座が身に付きます。これは重要だと考えています。

螺旋階段を上るような、あるいは雪だるまを転がして大きくしていくような、そんな作業だと言えます。

 

まとめ

キャリアアップし、多方面で通用する兼業者・副業者になるには「多くの知識がある」「それを様々な会社に横流しする」だけでは足りません。

それらを自分の中で統合することで、特定の企業だけに属していては気づかない自分なりの価値観や物事の考え方を構築していくことが必要です。
そのための自己啓発は自分で続けなければなりません。

人手不足や人材育成に関する企業の悩みは今後も続くと考えられます。
柔軟な働き方をする兼業・副業者のニーズも増えていくと考えられますが、しっかりと計画的にキャリアを積んだ兼業・副業者こそがイノベーションを起こせる人材になりうると言えるでしょう。

 

<清水 沙矢香>
2002年京都大学理学部卒業後、TBS報道記者として勤務。
社会部記者として事件・事故、科学・教育行政その後、経済部記者として主に世界情勢とマーケットの関係を研究。欧米、アジアなどでの取材にもあたる。
ライターに転向して以降は、各種統計の分析や各種ヒアリングを通じて、多岐に渡る分野を横断的に見渡す視点からの社会調査を行っている。
Twitter:@M6Sayaka

*1、2「兼業・副業を通じた創業・新事業創出事例集」中小企業庁
https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/sogyo/2017/170531hukugyo.pdf p13、44

 

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