企業のリーダーといえば、どんな人を想像するでしょうか。
背広やワンピースを着こなし、男女ともに忙しくキビキビ歩き、厳しい表情で仕事にあたるイメージではないでしょうか。
体育会系で声が大きく、タフな姿を想像する人もいるかもしれません。
目次
リーダー像を分析してみると意外なことがわかる
確かに優れた社員にはそういう人もいるでしょう。会社で実績をあげているワンマンタイプの経営者・リーダーも存在します。
しかし、現実に日本社会で「優れた」リーダーと思われ、一定の成績を出している人物像は、少し違う横顔を持っている人かもしれません。
800社以上、のべ17万人の働き方改革をしてきた越川慎司さんが書いた「AI分析でわかった トップ5%リーダーの習慣」には、非常に興味深い調査結果が紹介されています。
越川さんは、調査やコンサルティング、社員向けのオンライン研修などを提供しているクロスリバーの代表です。
同社は、クライアント企業各社の「トップ5%リーダー」1841名、それ以外の管理職1715名を対象に、対面・リモートによるヒアリングや行動追跡などで調査を行い、AI分析したのです。その結果からは、意外な一面が見えてきます。
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歩くスピードが遅い優れたリーダーたち
まず面白いのがリーダーたちの「歩くスピード」です。実際に各社の人事評価で高い評価を得ている「トップ5%リーダー」のうち、「59%は歩くのが遅い」という結果があります。
私は「えっ、逆ではないのか?」と思いました。本書を読んでみると、こんな風にあります。
そして明らかになったのは、移動スピードの違いです。
厳密に移動スピードを測ったわけではありませんが、明らかに速足で移動する人、他の人よりもゆっくり移動する人が検出できました。
5%リーダーのうち59%の人が、明らかに平均よりもゆっくりと移動していたのです。(*1)
最近では、多くの組織が自分たちで考えて自分たちでやる「自走型組織」に変わりつつあり、こうした組織のリーダー像も同様に、変わりつつあるというのです。
言われてみると、これはその通りかもしれません。
かつて働いていたいくつかの会社でも、「話しやすい上司」には、圧倒的な余裕がありました。
彼らはだいたい余裕を持って行動しているので、動作もゆっくりです。
思い出してみると、フラフラ部署内を歩き回っていたり、机でのんびりおしゃべりしていたり、「どう? 何か変わったことないかな」と聞いて回ったりしていました。
そして、困っているような社員がいると、「ちょっとメシ、いいかな?」とかいって、連れ出しては話を聞いているのです。
メンバーから気軽に声をかけられることをよしとする5%リーダーは、あえてゆっくり歩いて話しかけられる間を作っているようにも見えました。眉間にしわを寄せてフロアを急いで移動する上司よりも、余裕をもってゆっくり歩いている上司のほうが、「今ちょっといいですか?」と声をかけやすい。
そういったことまで計算して行動しているのです。(*2)
本書を読むと、「あえて余裕があるように見せている」リーダーもいるのですが、実はこれは大事なことなのかもしれません。逆に、余裕があるからこそ、部下が困ったとき「ちょっと相談してもいいですか」と話が持って行きやすく、結局、社内のコミュニケーションがスムーズに行くのです。
一方で、彼らがいつも忙しそうで余裕がないとどうなるでしょうか。
忙しそうな管理職には、まず業務上の相談がし辛くなります。
何かトラブルが起きたり、重要な変更があって伝えないといけないことでも、リーダーが出張中だったりすると、部下の方は「今はもしかしたら忙しいのかな……」と遠慮して、「では、もう少し余裕があるときを見計らって相談しようかな」などとやってしまいます。すると、結局仕事が遅れます。
ひどい場合には、「あとで相談しよう」と思っているうちに、相談すること自体を忘れてしまい、大事な報告をすっ飛ばしたままにどんどん仕事が進行してしまうことがあります。上司にいきなり(打ち合わせとは違う)完成形を見せてしまい、「なんで途中で相談しなかったのか」と責められ、やり直しを命じられる事態を引き起こしてしまったりするのです。
愛されていた「変わり者の上司」たち
越川慎司さんは、リーダーには、変人と言われるほど、周囲と違った行動をとることがある人がいると言います。
もしかすると、あなたの周りにも、なんだか変わったリーダーがいないでしょうか。
暇そうだったり、なんだかブラブラしていたり、やたら社外に人脈が多かったり。かと思うと、変わった趣味に夢中になっていたり、船舶の免許を持っていた上司もいました。
言われてみると、かつて上司だった人の中には、ジョークばかり言ったり、部下のために蕎麦を打ったり、なんだか不思議な親しみやすさのある変わった人もいました。
今思うと、彼らは、部下をリラックスさせ、なんでも言いやすい雰囲気を「演出して」いたのかもしれません。
本書では、彼らが「すべてを完璧にマネジメントできないと腹を括っている」(*3)ことを指摘します。
リーダーは「スーパーマン」でなくても良い
つまり、成果の出る部署において、リーダーは必ずしもスーパーマンでなくてもいいということです。
ある部署で働いていたとき、少し意外だったのが、他部署から転勤してきたばかりの新しいリーダーが意外に専門分野について詳しくないことでした。むしろ、「僕はあまり詳しくないから、教えて欲しいんだ」と低姿勢なのです。
そして、面白いほど自分の弱みを開示する人もいたのです。
「僕はよくわからない。君の方が詳しいだろう」
「俺はすぐに忘れてしまうから、覚えておいて欲しい」
「なかなか売り上げが上がらなくて怒られて困っているんだ」
などと頼まれたり相談されたりして、「そうか自分がしっかりしなくては」と思ったことを思い出します。
こうして、あえて「手放す」ことで、部下の力を引き出そうとしていたわけです。
部下の方が「自分たちがしっかりしなければ」と意識的になるのです。一方で、この上司たちは意外にも鋭く、「ここは理屈が通ってないと思うのだけれども……」と専門分野以外のことでも、どんどん指摘してきます。これらの指摘をよくよく追求していくと、重大なミスや間違いが潜んでいることもしばしばでした。
本書でも同じような指摘がなされています。
そのため、5%リーダーのうち48%は「自分がメンバー全員の能力を上回っている必要はない」と答えています。現場のメンバーが自分で考えて自走する組織を目ざす上で、リーダーがすべての能力を担って動く必要はないと考えているのです。(*4)
このことが先に書いたように、リーダーたちに「ゆっくり歩く余裕」をもたらしているのかもしれません。
私たちはときに「リーダーシップ」を誤解している
もちろん、トップダウン型の厳しい組織のあり方もあるでしょうし、こればかりがリーダー像とは限りません。しかし、社員に自主的に考え、動いてもらいたい組織であれば、意外にも、大勢で成果を出すためには、こうした緩い組織が効率的だったりするのでしょう。
リーダーシップというと、どうしても軍隊の上官や、体育会系の厳しい先輩を想起してしまうかもしれませんが、案外、私たちは「リーダーシップ」という言葉を誤解しているのかもしれません。
成果を出すリーダーには、いろいろな形があっても良いのです。
出典)
(*1)-(*4)
越川慎司. AI分析でわかった トップ5%リーダーの習慣 (Japanese Edition)
著者 のもときょうこ
早稲田大学法学部卒業。損保会社を経て95年アスキー入社。雑誌「MacPower」「ASAhIパソコン」「アサヒカメラ」編集者、「マレーシアマガジン」編集長などを歴任。著書に「日本人には『やめる練習』が足りていない」(集英社)「いいね!フェイスブック」(朝日新聞出版)ほか。編集に松井博氏「僕がアップルで学んだこと」ほか。2013年ごろから、マレーシアの教育分野についての情報を発信している。
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