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コロナ禍で増加する「在籍型出向」とはどんな働き方? メリットは? 事例を交えてわかりやすく解説

コロナ禍で「在籍型出向」の事例が増加しています。
大手航空会社で話題になった「在籍型出向」とはどのような働き方なのでしょうか。
また、出向元・出向先・従業員それぞれの立場からみて、どのようなメリットがあるのでしょうか。
事例も交えてわかりやすく解説します。

目次

「在籍型出向」とは

在籍型出向のメリットとデメリット

おわりに

「在籍型出向」とは

在籍型出向とはどのような働き方なのでしょうか。
さまざま観点から押さえておきましょう。

~在籍型出向の定義~
まず、定義です。
厚生労働省による「在籍型出向」の定義は以下のとおりです(図1) *1:p.4。

出向元企業と出向先企業との間の出向契約によって、労働者が出向元企業と出向先企業の両方と雇用契約を結び、一定期間継続して勤務すること

図1 在籍型出向の概念図
出典:*1 厚生労働省「在籍型出向“基本がわかる”ハンドブック」 p.4
https://www.mhlw.go.jp/content/000739527.pdf

図1のように、労働者は元々雇用関係のあった出向元の企業と雇用契約を結んだまま、出向先の企業とも雇用契約を結び、2つの企業と雇用関係をもちます。

~在籍型出向と労働者供給~
ここで、「労働者供給」という観点から在籍型出向の留意点を考えてみたいと思います *1:p.5。
労働者供給とは、

「供給契約に基づいて労働者を他人の指揮命令を受けて労働に従事させるもの」

ですが、労働者供給を「業として行う」ことは、労働派遣法が定める「労働派遣」以外は、職業安定法で禁止されています。

ここで問題なのは、在籍型出向も形態的には労働者供給に該当するということです。
では、なぜ在籍型出向が職業安定法に抵触しないかというと、以下の4つの目的のいずれかに該当すれば、「業として行う」ものではないと判断されるからです。

① 労働者を離職させるのではなく、関係会社において雇用機会を確保する
② 経営指導、技術指導を実施する
③ 職業能力開発の一環として行う
④ 企業グループ内の人事交流の一環として行う

新型コロナウイルス感染症の影響を受けて経営が悪化した企業は、従業員の雇用維持が難しくなります。
そこで、人手不足で悩む企業と契約して、従業員の雇用維持を図ります。
これがコロナ下における在籍型出向ですから、これは基本的に ① の目的に合致します。

したがって、在籍型出向を合法的に行うためには、はじめから出向させることを目的にして雇用して出向を命じたり、コロナの影響がなくなった後も出向を命じたりすることはできません。
あくまでコロナ禍の雇用維持の目的と考えられる範囲で行う必要があります。

ここで、在籍型出向と労働者派遣の違いを図で確認しましょう。

図2 在籍型出向と労働者派遣の違い
出典:*1 厚生労働省「在籍型出向“基本がわかる”ハンドブック」 p.5
https://www.mhlw.go.jp/content/000739527.pdf

図2のように、労働者派遣では、派遣元企業と派遣先企業は「労働者派遣契約」を結び、労働者と派遣先企業の間の関係は「指揮命令関係」です。
一方、在籍型出向では、派遣元企業と派遣先企業は「出向契約」を結び、上述のように出向先企業と出向労働者との間には雇用契約関係があるため、労働者派遣には該当しません。

~就業規則と賃金の支払い~
既にみたように、在籍型出向では、労働者は出向元・出向先双方の企業と雇用契約を結びます。
では、就業規則はどちらに従うべきなのでしょうか。
これは制度的なものではないのですが、特に明示がなければ、労働時間や休日などの勤務に関する事柄は出向先、 その他の事柄は出向元の就業規則が適用される傾向がみられます *2:p.1。

次に、出向労働者の給与はどちらが支払うのでしょうか。
在籍出向は以下の3種類に分かれます *2:pp.2-3。

出向元または出向先が給与を負担する
出向元が給与を負担したうえで、出向先が出向元に給与分のいくらかまたは全額を支払う(逆のケースもあり)
出向先と出向元の双方が給与を負担する

上の1または2のように、出向元・出向先のいずれかが給与の全額を負担するのであれば問題ないのですが、3のように双方が負担する場合には、負担割合を決めるための協議をする必要があります。
そのような場合、「どちらが給与に対する支払い窓口になるか」は重要な意味をもちます。なぜなら、どちらが支払うかによって社会保険の負担先が決まるからです。

ただし、現在、雇用維持を図る場合には、「産業雇用安定助成金」を活用することができます。
これは、厚生労働省が2021年3月に創設したもので、出向元と出向先の双方の事業主に対して、その出向で発生した賃金や経費の一部を、日額1万2,000円を上限として支給しています *3-1、*3-2。

在籍型出向のメリットとデメリット

ここでは、在籍型出向のメリットを、出向元、出向先、労働者それぞれの立場に分けて、事例を交えながらみていきます。

~ 出向元にとってのメリット~
出向元となって従業員を出向させる企業は、コロナの影響で一時的に業務が縮小した企業です。
そのような企業は社員を出向させることで、業績が思わしくない間は人件費の削減ができますが、業績が回復したら大切な人材がもどってくるため、人材の確保を図ることができます。
また、出向先での経験を自社の業務に生かしてもらうことができ、そのことを通じて他社のノウハウを吸収することも可能です。

事例として、新型コロナウイルス感染拡大で旅客激減に苦しむ航空大手のANAホールディングス(以下、ANA)の在籍型出向をみてみましょう *4。
同社は当初、出向者を延べ400人程度と見込んでいましたが、2020年10月以降、既に累計約750人に達しています。
ANAの出向先は兵庫県姫路市や沖縄県浦添市などの地方自治体やスーパーの成城石井など約200社・団体に上ります。
期間は半年から2年程度で、業績が悪化する中、受け入れ先に給与などを負担してもらい、人件費を削減する一方で、旅客需要が回復したときのことを見据えて社員を確保し、復帰後には出向先での経験を航空業務に生かしてもらう狙いもあります。

こうした動きはより規模の小さい企業にもみられます *1:p.2。
企業規模が100人~299人のあるリゾートホテルは、インバウンドの減少によって宿泊客が大幅に減少し、雇用過剰の状況に陥りました。そこで、レストラン部門の調理人を技術習得など人材育成を兼ねた形で出向させることにしました。

出向期間6か月、出向労働者は2名です。
出向先は企業規模30人~49人の食肉加工企業の直営レストランです。
同社では調理人を正社員として採用したいと考えていましたが、同じ地域にあるリゾートホテルに貢献したいという意向から、出向受入に切り替えました。

~出向先にとってのメリット~
出向先の企業は、慢性的に人手不足に悩む企業やコロナ禍で需要が伸びている企業です。
こうした企業は人材の確保に苦労していますが、出向を受け入れるメリットは人材確保だけでなく、受け入れた人材が能力を発揮することで、職場に刺激が得られるという側面もあります。
また、出向社員の仕事を通して、他社のノウハウを吸収できるというメリットもあります。

例えば、日本航空は2021年4月から、それまで1日当たり1,000人程度だった出向者を約1,400人に拡大させています *4。
期間は1日から最長2年で、出向先は鹿児島県やノジマなど、約120社・団体です。

主な出向者が客室乗務員ということもあり、その接客能力を見込まれ、ホテルやコールセンターなど民間企業を中心に引き合いがあります。
一流企業の研修や訓練を受け、経験を積んだ人材を受け入れることで、出向先にも利益があるからです。

もう1つの事例をみてみましょう *1:p.2。
企業規模29人以下の観光バス会社は、訪日外国人旅行客を専門としています。
ところが、インバウンドの影響で観光バスが運行できない状況が生じました。
しかし、バス運転手を解雇してしまったら、アフターコロナでは新たに雇用確保しようとしても困難であることは明らかだったため、出向を活用して雇用維持を図ることにしました。

出向先は、同じ企業規模29人以下の精密部品運送業者で、出向期間は5か月、出向労働者は2名です。
同社は精密部品を専門に輸送していますが、慢性的な運転手不足に悩んでいました。
精密部品輸送には丁寧かつ繊細な運転が求められますが、観光バスの運転手を受け入れれば、業務に必要な運転技術が期待できるというメリットがありました。

以上のように、有能な労働者や専門性をもつ労働者を受け入れることによって、出向先の企業にもメリットがもたらされます。

ただし、出向社員はいずれ自社に戻りますから、有能な労働者が出向してきたとしても、長期的な戦力にはなりません。

~労働者にとってのメリット~
最後に労働者にとってもメリットも把握しておきましょう。
最大のメリットは、自社が営業不振に陥っても、雇用が維持され、休業もしないで働けることです。

コロナ禍で失業者が増加し、その数は2021年4月末時点で188万人に上っています(図3) *5。

図3 完全失業者数 対前年同月増減
出典:*5 独立行政法人 労働政策研究・研究機構(2021)「新型コロナウイルス感染症関連情報:新型コロナが雇用・就業・失業に与える影響 国内統計:完全失業者数」(2021年4月30日更新)
https://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/covid-19/c03.html#c03-1

このような状況で、雇用が維持されるだけでなく、別の会社で働くことで出向元の企業では得られない経験ができ、それが能力向上につながることも期待できます。

ただし、デメリットとして、慣れない職場、新しい人間関係の中での労働は、ストレスをもたらすおそれがあることが挙げられます。

 

 おわりに

以上みてきたように、在籍型出向という働き方は、出向元企業・出向先企業・労働者の3者にwin-win-winの関係をもたらします。

先ほどみたように、現在はコロナ禍の影響で失業者が増えていますが、日本は少子高齢化が急激に進行しているため、コロナ後に人材不足になるのは目に見えています。
そうした中にあって、社員の雇用を守り、異業種間の交流を促し、人材の能力活用や能力向上にも役立つ在籍型出向は、非常に実際的、合理的な雇用形態であり、働き方だといえるでしょう。

上述の事例からもわかるように、在籍型出向のカギは出向元企業・社員と出向先企業とのマッチングにあります。
現在、厚生労働省は全国47都道府県に産業雇用安定センターの事務所を設置し、企業からの相談に応じて、マッチング支援をしています *6。

雇用過剰になったとき、あるいは逆に人材不足に悩む状況にあったら、一度、在籍型出向を検討してみてはいかがでしょうか。

エビデンス
*1
厚生労働省「在籍型出向“基本がわかる”ハンドブック」https://www.mhlw.go.jp/content/000739527.pdf
*2
経済産業省「出向等に関する参考資料」
https://www.hkd.meti.go.jp/hokij/20201009/sankou1.pdf
*3-1
厚生労働省(2021)「在籍型出向の支援制度」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/jigyounushi/page06_00001.html
*3-2
厚生労働省(2021)「『産業雇用安定助成金』のご案内」
https://www.mhlw.go.jp/content/000733293.pdf
*4
J.J.COM(2021)「日航やANA、社員出向拡大 コロナ禍、人件費抑制」(2021年4月6日)
https://www.jiji.com/jc/article?k=2021040500772&g=eco
*5
独立行政法人 労働政策研究・研究機構(2021)「新型コロナウイルス感染症関連情報:新型コロナが雇用・就業・失業に与える影響 国内統計:完全失業者数」(2021年4月30日更新)
https://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/covid-19/c03.html#c03-1
*6
厚生労働省「在籍型出向支援」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/jigyounushi/page06_00001.html

プロフィール
横内美保子(よこうち みほこ)
博士(文学)。元大学教授。大学における「ビジネス・ジャパニーズ」クラス、厚生労働省「外国人就労・定着支援研修」、文化庁「『生活者としての外国人』のための日本語教育事業」、セイコーエプソンにおける外国人社員研修、ボランティア日本語教室での活動などを通じ、外国人労働者への支援に取り組む。
Webライターとしては、主にエコロジー、ビジネス、社会問題に関連したテーマで執筆、関連企業に寄稿している。

Twitter:https://twitter.com/mibogon

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