組織・チーム
/

後をたたないSNSなどでの誹謗中傷や風評被害|会社を守るための対処法は?

ブログやSNSで突然、身に覚えのない中傷やデマが拡散され、店や会社が大きな被害を受けるニュースを耳にすることがあります。
いわゆる「炎上」状態になってしまうと、店や会社が受ける影響は計り知れず、廃業寸前にまで追い込まれたケースもたびたび話題になってきました。

なぜこのような誹謗中傷は繰り返されるのでしょうか。
そしてどのように対応するのが正解なのでしょうか。
今回はそんな、ネット上での誹謗中傷などをきっかけにした風評被害への対処方法について紹介します。

目次

後を絶たない違法・有害情報の流通

企業への風評被害をめぐる裁判例

風評被害にあったときの対応手順

ネットでの被害に対し、ネットで店を建て直し

後を絶たない違法・有害情報の流通

インターネットを通じた名誉毀損などの有害情報の拡散は後を絶ちません。
総務省が運営する「違法・有害情報相談センター」で受け付けている相談件数は高止まりの状態で、令和元年では、受付を開始した平成22年度に比べて約4倍に達しています(図1)。

図1 違法・有害情報相談センターへの相談件数と内訳
(出所「SNS上での誹謗中傷への対策に関する取組の大枠について」総務省)
https://www.soumu.go.jp/main_content/000695577.pdf p2

個人の住所や電話番号、あるいはSNSアカウントなどを特定してSNS上で発信することでプライバシーを侵害するいわゆる「晒し」行為の他、「名誉毀損・信用毀損」での相談も多数を占めています。

後を絶たないインターネット上でのトラブルですが、新型コロナウイルスに関する出来事もありました。
広島県の飲食店がマスクの着用をめぐって客と対立したところ、店の対応が悪質だとする投稿がツイッターに掲載され、多くのツイッター利用者を巻き込んだ「炎上」状態になったのです。
店の売り上げへの影響は当然のこと、賛否渦巻く中、夫婦経営の店舗は妻が精神的苦痛から体調不良に陥り、レストラン営業を断念してしまいました。
経営への影響だけでなく、精神的ダメージが非常に大きくなることもわかります。

こうした店舗や企業に対する誹謗中傷について、過去には裁判に発展した例もあります。

企業への風評被害をめぐる裁判例

平成24年に名古屋高裁で出された判決では、一審を覆し、投稿者に対し企業へ損害賠償を支払うように命じています。

訴えを起こした企業は、あるマンションの隣の空き地を資材置き場として利用し、産業廃棄物処理の事業をしていました。
これに反発したマンションの住民が、ブログに「A商店最期の日」と題した記事を掲載しました。

記載されていたのはおもにこのような内容です。

①「当マンションの隣の空き地になんの事前通告も無しに突如産業廃棄物(建設残土)臨時保管所が設営された。」
②「作業中は舞い散る粉じんによって窓は開けられない、そのけたたましい重機の騒音によってテレビの音も聞き取れない、粉じんで汚れる窓やバルコニー、隣接するマンション駐車場の車は砂だらけ。」
③「苦情を伝え改善対策をお願いするも誠意ある対応は一切なし。」

<引用「平成24年(ネ)第771号 損害賠償請求控訴事件  平成24年12月21日判決 名古屋高等裁判所」裁判所>
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/969/082969_hanrei.pdf p2

上記のような表現について名古屋高裁は、企業の社会的評価を低下させ、企業の信用に一定の損害が生じたという事実を認め、記事の投稿者に損害賠償の支払いを命じる判決を出しました。

この裁判で注目したいのは、記事の内容と企業への悪影響との因果関係についての名古屋高裁の見解です。

まず、事実関係はこのようなものです。

記事の投稿者はマンション管理組合の理事長でもありました。そして企業側は、事業開始前に当該の空き地を産廃保場所として使用する旨の挨拶をしています。

その後、空き地で扱う残土の量が増え、企業側は仮フェンスを設置するなどの対策を自主的に取っていました。記事の投稿者が粉じんや騒音を問題視するようになったのはこの頃で、住人から苦情があったのも事実です。

粉じんについてこの投稿者が住人にアンケートを取ったところ、59戸中10戸が「かなり迷惑」という回答を選択しました。

その後、企業側は散水で粉じんを防ごうとマンション側とやり取りをしたものの、物理的に水道管を引くことはできませんでした。

騒音については自治体の基準を上回り、県から注意された企業側がその後小型車両で作業するなど企業側は対策を取ったという経緯もあります。

そして、最終的に企業側はこの事業から撤退しました。

これらの事実関係に照らした名古屋高裁の判断は、

①の表現は事実と認定できない
②の表現は誇張である
③の表現は事実と認定できない

としています。

ただ一方で、企業が事業から撤退したこととブログ記事の内容に因果関係があるとは認めていません。

その上で、総合的な判断として「企業の社会的評価を下げた」ことを問題視しています。

インターネットへの書き込みが理由で事業を断念せざるを得なくなった、という因果関係の認定は難しくても、記事によって社会的評価を下げられたことで損害が生じたという事実は認定し、投稿者は賠償すべき、という判断です。

産業廃棄物という、どうしても苦情ゼロとはいかない業界での出来事でこの判例が出ていることは知っておきたいものです。

訴訟の対象になった記事の全文が判決文に添付されています*1。
個別の表現を抽出し、ひとつずつに判断を与えているという意味では参考になるでしょう。

 

風評被害にあったときの対応手順

インターネット上に店や会社を特定できる形で誹謗中傷が投稿されている場合、一般的には削除依頼を出すことが考えられますが、まずは証拠を残す必要があります。

リンクをメモしておくだけでは不十分です。のちに訴訟になる可能性を意識し、URLを含めてスクリーンショットなどの画像、あるいは印刷で残す必要があります。

そして、以下の流れで削除依頼を出します(図1)。

図1 削除依頼の流れ(出所「削除依頼の流れについて」違法・有害情報相談センター)
https://ihaho.jp/guide/reqdelflow.html

なお、削除依頼の書き方については参考フォームがあるほか*2、「プロバイダ」の連絡先を見つける手段のひとつとして、「Whois情報検索」という機能を持ったサービスサイトがあります*3。簡単な操作で利用できますので参考にしてください。

さて、これらの手続きで削除依頼を出しても問題が解決しない、また悪質性が高く、投稿者を特定したいという場合には、サイトの管理者などに「発信者情報開示」を求めることが可能です。その際は以下の手続きが必要です。

1.「サイト管理者」に対し、IPアドレスの情報開示請求を行う
2.「プロバイダ(アクセスプロバイダ)」へ対し、IPアドレスから発信者を割り出すため情報開示請求を行う

<引用「ネット利用者のFAQ」違法・有害情報相談センター>
https://ihaho.jp/faq/netuser.html#a6

当該の投稿が削除されていても、ログが残っていれば発信者情報開示請求はできます。
ただ、中には「裁判所による判断がない限り削除請求には応じない」というポリシーを最初から掲げていることもあります。

こうしたポリシーなどが障壁になって削除に応じてもらえない場合は、2つの法的手段が考えられます。

①削除請求仮処分
ひとつは、裁判所に仮処分を求めるという方法です。
通常の民事訴訟は判決までに時間がかかってしまうため、とりあえず急いで削除させたいという場合はこちらが有効です。

仮処分とは、正式裁判の前に、裁判に勝訴したときと同様の状態を確保することができるという手続きです。裁判所が削除命令を発すればサイト管理者などの大半は削除に応じる可能性が高いので、その後正式な裁判にまで持ち込まずとも解決するケースが多いでしょう。

そして仮処分に応じない場合は強制執行の手続きを取ることができます。

②削除申請訴訟
正式な訴訟を起こすことも可能です。
削除して終わり、ではなく、公的な場で投稿者の言い分を聞くことができる、あるいは内容の正当性を投稿者が立証しなければならなくなるといったメリットがある一方、長期間を要するというデメリットもあります。

もちろん、書き込みによって大きな損害が生じ、その賠償を求める訴訟を起こすことも可能です。
法的手段を取る場合の注意点としては、ネット上では表現の自由もあります。以下の場合は適法とみなされるということがあります。

・公共の利害に関する事実である
・もっぱら公益を図る目的である
・書き込みの内容が真実である

仮処分の申請や訴訟にあたっては、この3つに該当しない投稿であることを説明する必要があります。
どこまでがこれらの適法行為として許されるのかは個人で判断するのは非常に難しいことです。投稿した側はいくらでも言い訳ができてしまいます。

ただ、誹謗中傷はそう簡単に適法にはなりません。先ほど挙げた名古屋高裁の判例が参考になるでしょう。
また、削除申請は、運営者が削除申請があったことそのものを公表する場合があり、それが火に油を注ぐ場合があります。この点には注意が必要です。

 

ネットでの被害に対し、ネットで店を建て直し

なお、最初に紹介した広島県の飲食店はレストラン営業の断念を余儀なくされる一方で、SNS上には店側を応援する書き込みも多数ありました。

そこで店主は冷凍品の発送で店を続けることを決断し、そのために必要な設備などの費用をクラウドファンディングで調達、出資者へのリターンとして商品などを送るという活動を始めました。
支援の輪はネット上で広がり、目標以上の金額を達成しました。
店主がツイッターやブログなどで地道な発信を続けた結果です。

この例を見れば、一方的に中傷されっぱなしにならないためにも、SNSアカウントを利用し、SNSでの出来事に対しSNSで発信していくのも手段と考えることはできます。

ただ、炎上状態になると応援も非難も玉石混交で大量のリプライやメンションの数になります。精神的負荷が非常に大きくなりますので、その場合どう運用するかの方針を決めておくと良いでしょう。
むきになって反論すると問題は大きくなってしまいますので、まずは落ち着いて対応して下さい。

良くも悪くも、インターネットというのは非常に広い公的空間です。
身に覚えのない中傷を発見すると、気が動転するのは当然のことです。

まず一度気を落ち着かせて、「証拠を取る」ことから始めましょう。損害が広がる場合、訴訟も辞さないという気持ちでひとつずつ手続きを踏んでいけるよう心がけたいところです。

また、現在SNSアカウントを運用している場合も、あわてて感情的なリアクションをするのではなく、少し時間をおいて発信するようにしましょう。
企業側の発信もまた、スクリーンショットなどの形で記録されてしまうことに留意が必要です。

なお、悪質な投稿については、総務省が運営する「違法・有害情報相談センター」で相談を受け付けています。
積極的に利用し、慎重な対応を心がけましょう。

 

 

*違法・有害情報相談センター
https://ihaho.jp/

*1「平成24年(ネ)第771号 損害賠償請求控訴事件  平成24年12月21日判決 名古屋高等裁判所」裁判所
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/969/082969_hanrei.pdf p13-14

*2「『名誉毀損・プライバシー関係送信防止措置手続き』のサンプルと用紙」違法・有害情報相談センター
https://ihaho.jp/wp-content/uploads/2020/11/p_sakujo-form.pdf

*3「ホームページ・電子掲示板の管理者の連絡先がわからないときは」一般社団法人テレコムサービス協会
http://www2.telesa.or.jp/consortium/provider/pdf/Whois.pdf

<清水 沙矢香>
2002年京都大学理学部卒業後、TBS報道記者として勤務。
社会部記者として事件・事故、科学・教育行政その後、経済部記者として主に世界情勢とマーケットの関係を研究。欧米、アジアなどでの取材にもあたる。
ライターに転向して以降は、各種統計の分析や各種ヒアリングを通じて、多岐に渡る分野を横断的に見渡す視点からの社会調査を行っている。
https://twitter.com/M6Sayaka

あなたにおすすめ記事


アルバイト採用のことなら、マイナビバイトにご相談ください。

0120-887-515

受付時間/平日9:30~18:00

当サイトの記事や画像の無断転載・転用はご遠慮ください。転載・転用についてはお問い合わせください。

掲載料金・求人掲載のお問い合わせ