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個人事業を法人化する売上の目安は?株式会社のメリット・デメリット

個人事業の売り上げが伸び、所得が増えてくると、税金や社会保険料の負担も大きくなります。
そんな時に「法人化した方が節税しやすい」ということを耳にして、個人事業の法人化を検討している事業主の方もいらっしゃるのではないでしょうか。

しかし、「法人化=節税」と簡単に捉えるのは適切ではなく、もっと多様な観点から法人化のメリット・デメリットを考える必要があります。

また、実際のところ法人化に節税メリットがあるのかどうかについては、状況に合わせたかなり複雑なシミュレーションを必要とします。
そのため、他人から聞いた法人化の売上目安を鵜呑みにするのではなく、ご自身の事業の具体的な状況をベースとして、本当に法人化するメリットがあるのかどうかを検討することが大切です。

この記事では、節税などの観点を含めて、個人事業を法人化(株式会社化)することのメリット・デメリットについて解説します。

 

個人事業を法人化するメリットは?

法人化にどのようなメリットがあるかについては、節税の観点だけにとらわれずに考える必要があります。
主な法人化のメリットは、以下のとおりです。

●会社の方が個人よりも信用力が高い
法人化の最大のメリットは、節税よりもむしろ「信用力の向上」にあります。

まず、財務状態が健全な株式会社は、銀行からの融資審査に通りやすい傾向にあります。
さらに、一般的には個人よりも法人の方が、大口の取引先から直接案件を受注できる可能性が上がるでしょう。

このように、個人事業を法人化すると、各取引先からより大きな信用を獲得できる可能性があります。
そして、獲得した信用力をベースとして、さらに事業を拡大する足掛かりとすることができます。

●会社オーナーは間接有限責任となる
株式会社(および合同会社)の株主は、会社の債務を個人的に負担する必要はなく、出資金額の限度でのみ責任を負担します(間接有限責任)。

つまり、会社が何らかの理由で債務不履行を起こしたり、取引先から損害賠償を請求されたりしても、原則として会社オーナーの個人資産から賠償などを行う必要はありません。

これに対して個人事業の場合、事業上の債務もすべて個人負担となるため、事業主は無制限に責任を負うことになります(直接無限責任)。

このように、個人事業を法人化すると、間接有限責任によって事業上の債務に関するリスクを抑えられるメリットがあります。

●会社の方が節税しやすい?
世間でよく言われているように、個人事業を法人化することによって、節税など公租公課面でのメリットを享受できるケースはたしかにあります。

しかし、実際に節税などのメリットがあるかどうかはケースバイケースであり、法人化をすることで逆に損をしてしまう可能性もあります。
節税などの公租公課に関する法人化のチェックポイントは、後半で解説しているのでぜひ参考にしてください。

 

逆に個人事業を法人化するデメリットは?

逆に、法人化のデメリットについても理解しておきましょう。
個人事業を法人化することの主なデメリットは、以下のとおりです。

●会社の会計・事務手続きは複雑
株式会社を設立した場合、以下に挙げるような会社の会計・事務手続きの負担が重くのしかかります。

・法人税の申告(個人の確定申告とは別)
・社会保険の加入、支払い手続き
・取引先からの源泉徴収、源泉所得税の納付
・決算公告など

これらの会計・事務手続きを事業主自身が行うとかなりの負担になります。
スタッフや外部専門家を雇う場合に任せることはできますが、その際にもコストがかかる点がデメリットです。

●税務署のチェックが厳しい
節税などの目的で法人(株式会社)を設立する事業主も多いところ、実際には、架空の経費を計上したり、法人の仕組みを利用した脱税まがいの行為をしていたりするケースも存在します。
そのため、個人事業よりも法人の方が、税務署によるチェックは厳しいことが知られています。

もし税務署から更正処分が行われたり、修正申告が必要になったりした場合、追徴課税の重い負担がのしかかることになります。
そのため、個人事業を法人化した際には、いっそうクリーンな会計・税務処理を心がけることが大切です。

 

法人化すると節税できる?税金・社会保険料の実態を解説

最後に、「法人化をすると節税できるのかどうか」という点を考えるに当たり、留意すべき主なポイントを解説します。

●目先の税率の比較だけでは不十分
法人化をする売上の目安を考える際に、

「実効税率を比較せよ」

と言われることがあります。

個人事業の場合と、法人の場合では、それぞれ以下の税金が課税されます。

<個人事業主への課税>
・所得税
・住民税
・個人事業税(法定業種のみ)

<法人への課税>
①法人に対する課税
・法人税
・法人事業税
・法人住民税

②事業主個人への課税
・所得税
・住民税

「実効税率を比較せよ」とは、上記の各種税金を通算した税額を比較して、法人の方が個人事業よりも安くなるのであれば、法人化を検討すべきということを意味しています。

上記の税金のうち、もっとも大きなウエイトを占めるのは、個人事業の場合は所得税、法人の場合は法人税です。
個人事業における所得が大きくなると、所得税の累進課税方式が影響して、だんだん所得税の税率が高くなっていきます(最大45.945%)。

これに対して、法人税の累進性は所得税よりもなだらかです。
そのため、事業の所得額が大きい場合に法人化をすれば、所得の一部を法人に内部留保することにより、全体の実効税率を押し下げることができます。

しかし、このように目先の税率を比較するだけでは、法人化の節税メリットの有無を正しく判断することはできません。
実は、個人事業を法人化した場合、公租公課の観点からネックになる大きな問題がさらに2つあります。

●法人は「出口」での課税に注意
法人化した場合におけるネックの1つが「出口」での課税の問題です。

法人税を支払ったうえで法人に内部留保した金銭は、あくまでも会社のものであって、事業主がプライベートに利用することはできません。
この法人の内部留保は、最終的には事業主が退職する際に「退職金」という形で払い出すのが一般的ですが、この退職金にも所得税・住民税が課税されることに注意が必要です。

つまり、法人に内部留保した金銭には、「法人税(法人事業税、法人住民税)+退職時の所得税(住民税)」という二重の課税が行われることになります。
内部留保によって高税率の所得税を節約したように見えても、このような二重課税によって、結局損をしてしまうケースもあるので要注意です。

●法人は社会保険料の負担が大きい
また、法人化をした際にもう1つネックとなる点が「社会保険料の負担」です。
事業主が法人役員として役員報酬を受け取る場合、厚生年金保険と健康保険に加入する必要があります。

厚生年金保険と健康保険の保険料は、会社と個人が折半で支払いますが、法人化直後の個人経営の会社の場合、実質的には事業主が全額支払っているのと同じです。
厚生年金保険料の料率は18.300%、健康保険料は10~12%前後(都道府県・介護保険の有無によって異なる)なので、役員報酬額に対して約30%の社会保険料負担が発生することになります(2021年2月末現在)。

これに対して個人事業の場合は、国民年金(月額16540円)と国民健康保険(所得に対して10~12%前後)に加入しますが、法人の場合よりも負担額はかなり少なくなることが一般的です(2021年2月末現在)。

このように、法人化をする場合は、税金に加えて社会保険料の負担も考慮して、節税メリットの有無を検討しなければなりません。

●法人化した場合の主な税務上のメリット
上記のとおり、法人には見えにくい税・社会保険料の負担が生じるので、法人化は税金面で有利であると単純に言うことはできません。

その一方で、法人は個人事業にはない税務上のメリットがあることも事実です。
特に効果の大きいものを挙げますので、税額・保険料額のシミュレーションを行う際には、これらのメリットを適切に活用することを考慮したうえで、個人事業と法人の比較を行いましょう。

①給与所得控除
事業主が法人から受け取る役員報酬は、所得税の計算上「給与所得」の取扱いになりますので、給与所得控除を受けることができます(最大195万円の所得控除、2021年2月末現在)。
個人事業の場合は給与所得控除を受けることができないので、法人化の大きなメリットといえます。

②家族内での所得分散
所得のなかった(少なかった)家族を法人の役員として役員報酬を支払えば、家族内で所得が分散します。
その結果、所得税の累進課税方式の影響により、家族全体としての所得税額を抑えることができます。
個人事業の場合、同居の親族に対する給与支払いは厳しく制限されていることに比べると、法人の方が所得分散をしやすいメリットがあります。

③社宅制度の活用
自宅兼事務所の場合、会社名義で自宅を借りて事業主に貸し出すことにより、賃料の大部分を経費化することができます。
個人事業の場合も、自宅兼事務所の賃料を一定の割合で経費化することは認められますが、法人の方が経費化できる割合が大きくなる傾向にあります。

 

まとめ|目先の税率だけでなくトータルでの比較が必要

個人事業と法人の比較を多岐にわたる観点から行ってきましたが、個人事業を法人化をするかどうかの判断は、それだけ複雑な考慮が必要になるということです。

まず大事なのは、法人化のメリットは節税だけでなく、信用力の強化や間接有限責任など、他にも多くの重要なポイントがあるということです。

また、「節税」という観点に絞っても、目先の税率だけを比較するのではなく、「出口」での課税や社会保険料の負担、節税対策の活用可能性などをトータルで比較して検討することが大切になります。

とはいえ、個人事業の法人化はさらなる事業拡大への第一歩であり、個人事業主の方にとっては一つの目標となるステップには違いありません。
個人事業主の方は、ぜひこの記事を一つの参考にして、ご自身なりの法人化のタイミングを見つけてください。

 

 

阿部 由羅
ゆら総合法律事務所代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。専門はベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。

https://abeyura.com/
https://twitter.com/abeyuralaw

 

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