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M&Aという選択肢を視野に入れ、成長戦略と採用戦略を描く

「M&Aは大企業が検討するものであって、中小企業には関係ないことだろう」と感じている方もいらっしゃるかもしれません。しかし近年、経営手段としてM&Aを検討する経営者や採用担当者は増加傾向にあります。なぜ今、M&Aが注目されているのでしょうか。本稿では、そもそもM&Aとは何か、M&Aにおける買い手企業と売り手企業の目的、M&Aが増加傾向にある背景などについて解説します。

目次

M&Aとは

M&Aにおける買い手企業の目的

M&Aにおける売り手企業の目的

近年、M&Aが増加している4つの理由

M&Aとは

そもそも、M&Aとはどのようなものなのでしょうか。

M&Aは、「Mergers(合併)」と「Acquisitions(買収)」の略です。複数の会社をひとつの会社にまとめることをMergers(合併または統合)と呼び、会社が他の会社の株式や事業を買い取ることをAcquisitions(買収)と呼びます。これら2つの言葉を組み合わせたのがM&Aです。

M&Aの定義は幅が広く、狭義では「企業や事業の経営権を移転させること」で、合併や株式譲渡、事業譲渡などの手法を用います。

一方、広義では、「経営権を移転せずに、資本提携や業務提携などの方法で協力関係を結ぶこと」で、資本提携や業務提携を結んで信頼関係を築いていき、ある時点で経営権を移転するという手法が用いられます。採用時の試用期間をイメージしていただくとわかりやすいかもしれません。

経営者の方にとって会社は、長い時間と労力をかけてきた汗と涙の結晶であり、社員の方々やそのご家族の支えによって築き上げてきた財産です。もしも買い手企業が現れたとしても、そう簡単に手放せるものではないでしょう。買い手企業と売り手企業が信頼関係を築き、お互いをよく知ることは極めて重要なことで、買い手よし、売り手よし、そして社員の方々も幸福になる「三方よしのM&A」が現代のM&Aであると言えます。

M&Aにおける買い手企業の目的

では、経営者にとってM&Aはどのような手段であり、選択肢となるのでしょうか。買い手企業と売り手企業、それぞれの視点からみていきましょう。

会社経営において、やらなくてはいけない課題は無尽蔵にあります。大枠で言っても、営業戦略やマーケティング戦略、財務戦略、成長戦略、人事戦略、採用戦略、教育戦略、web戦略…などキリがありません。

そんな多忙を極める経営者にとって、M&Aは「時間や労力を買う」という効率的な手段となり得ます。買い手企業からみたM&Aの目的は以下のとおりです。

・既存事業の規模拡大、店舗拡大
・既存事業とのシナジー効果の期待
・新規事業の獲得(経営の多角化や事業転換)
・起業時の選択肢の増大
・人材採用や人材の補填の一環
・技術、ノウハウの確保

先行きの見えにくい現代において、ゼロから新規事業をスタートすることはリスクであるとも言えるでしょう。M&Aを活用することで、そのリスクを軽減させ、すでに軌道に乗っている事業を引き継ぐことができます。経営資源であるヒト(人材)、モノ(設備や商品)、カネ(資産)、情報(技術やノウハウ)に加えて、軌道に乗るまでの時間を買うイメージです。成長戦略や人事戦略、採用戦略を描くうえで、M&Aは有効な手段であると言えます。

 

M&Aにおける売り手企業の目的

では、売り手企業からみたM&Aの目的とは何でしょうか。

・後継者がいないため、事業継承対策
・経営者の退職金確保
・既存事業や別の新規事業への選択と集中
・IPO(株式公開)以外の出口戦略
・企業再生

など、さまざまな目的が考えられます。

これらの目的のなかでも、中小企業経営者の方にとって深刻なのは、「後継者不在や後継者不足による倒産・廃業を回避するためのM&A」でしょう。中小企業の後継者問題はすでに表面化しており、近年M&Aが増加傾向にある理由のひとつでもあります。

また、会社や事業を売却する理由として多いのは、「事業に飽きた」というあまり表立っては言えない本音です。この本音は、社員の方々や経営者家族、取引銀行、顧問税理士にもなかなか言えないでしょう。既存事業への情熱が薄らいでいることは、案外あるものです。

 

近年、M&Aが増加している4つの理由

なぜ近年、M&Aは増加傾向にあるのでしょうか。その理由には、「経営者の高齢化と後継者問題が表面化してきたこと」「M&Aのイメージが向上したこと」「新規事業、第二創業・起業としてM&Aを検討するケースが増えたこと」「スタートアップ・ベンチャー企業の出口戦略としてM&Aが加わったこと」の4つがあります。

M&Aが増加している理由①「経営者の高齢化と後継者問題」

2017年の時点で、経営者の平均年齢は60歳を超えました。2017年2月に行われた東京商工リサーチの調査によると、経営者の平均年齢は61.19歳。若年層の起業が増えない限り、今後も経営者の高齢化は進んでいくでしょう。


出典:社長の平均年齢は62.49歳、高齢の社長ほど業績悪化が鮮明に 「全国社長の年齢調査」 : 東京商工リサーチ (tsr-net.co.jp)

経営者の高齢化が進むことによって、今後約10年で、全国の多くの中小企業が事業承継時期を迎えることになります。

また、日本政策金融公庫総合研究所が2016年に公表した調査によると、調査対象企業約4000社のうち60歳以上の経営者の約半数が廃業を予定していると回答。

その廃業を予定している経営者のうち、28.6%が後継者難を抱えていると言います。*1

会社を代々受け継いでいくことが当たり前だったのは、もう過去のこと。「子どもがいない」「子どもはいるが継いではくれない」「会社を子どもに継がせたくない」という経営者の方が増えており、事業承継対策の選択肢のひとつとしてM&Aが検討されるようになりました。

M&Aが増加している理由②「M&Aのイメージ向上」

かつてはM&Aと聞くと、「会社の乗っ取り」や「身売り行為」など、ネガティブなイメージが先行していました。映画やドラマ、ビジネス小説などの影響もあると言えるでしょう。

しかし最近では、買い手企業にとっては「M&A=経営手段、成長戦略」、売り手企業にとっては「M&A=事業承継対策、出口戦略」というポジティブなイメージへと変化しつつあります。

会社や事業を譲渡し、大手資本の傘下に入ることで、事業拡大を実現できる可能性が高まるかもしれませんし、社員の雇用維持や福利厚生の充実・待遇改善などの可能性も高まるかもしれません。また創業経営者にとっては、自社株式の現金化や代表連帯保証の解除などのメリットも考えられます。

M&Aが増加している理由③「新規事業、第二創業・起業としてのM&A」

新規事業の立ち上げや第二創業による経営の多角化、ゼロからの起業には、膨大な時間と労力、コストがかかります。どれだけの時間や労力をかけたとしても、新しい事業が成功するという保証はありません。

そのため、失敗するリスクを軽減するために、ゼロから事業を立ち上げるのではなく、M&Aによって既存の会社や事業を買うケースが増えています。成長戦略としてM&Aを考える経営者の方が増えてきたことも、近年M&Aが急増している理由のひとつです。

また、M&Aを資金使途とした融資に積極的な金融機関の存在も、M&A案件の増加を下支えしているでしょう。軌道に乗るかどうかわからない新規事業に融資するよりも、すでに事業基盤のできている事業に融資する方が、金融機関にとってもリスクが少ないと言えます。

M&Aが増加している理由④「スタートアップ・ベンチャー企業の出口戦略としてのM&A」

スタートアップ・ベンチャー起業家の多くが、IPO(株式公開)を目的として起業していた時代がありました。しかし、リーマンショックの影響でIPOの件数は落ち込み、最近は回復傾向にはあるものの、上場企業への道は狭き門であることから途中で断念することも少なくありません。

そんな中、IPO以外の出口戦略として、大手企業へのM&A(バイアウト、イグジット)を目的に起業するケースが増えてきました。アメリカでは、スタートアップ・ベンチャー企業の出口戦略としてM&Aが用いられることが多くあり、その影響を受けた日本のスタートアップ・ベンチャー企業の間で今後ますます盛んになるでしょう。ビジネスモデルやアイデアが優れていれば、一般的な企業価値算定結果を上回る譲渡金額がつくこともあります。

このように、M&Aのすそ野は広がりを見せており、中小企業にとってこれまで他人事だったM&Aが自分事になってきています。自身が買い手企業になるにせよ、売り手企業になるにせよ、M&Aという選択肢を視野に入れておくことは会社経営に役立つのではないでしょうか。

*1 参照:事業承継ガイドライン(中小企業庁 平成28年12月)
https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/2016/161205shoukei1.pdf

 


【著者プロフィール】

中島 宏明
1986年、埼玉県生まれ。2012年より、大手人材会社のアウトソーシングプロジェクトに参加。
プロジェクトが軌道に乗ったことから2014年に独立し、その後は主にフリーランスとして活動中。
2014年、一時インドネシア・バリ島へ移住し、その前後から暗号資産投資、不動産投資、事業投資を始める。
現在は、上場企業や会計事務所など複数の企業で経営戦略チームの一員としてM&Aや海外進出等に携わるほか、バリ島ではアパート開発と運営を行っている。

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