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店舗売却や事業譲渡という「小さなM&A」が中小企業社長に幸福を運ぶ

M&Aの定義には狭義と広義があり、狭義のM&Aとは「企業や事業の経営権を移転させること」です。広義のM&Aでは、経営権の移転前に資本提携や業務提携などの方法で協力関係を結ぶこともあります。M&Aと聞くと株式譲渡をイメージするかもしれませんが、事業譲渡や店舗売却もM&Aに該当します。

いわゆる「スモールM&A(小さなM&A)」と呼ばれるM&Aです。今回は、実際に店舗を売却(事業譲渡)した中小企業社長に匿名でインタビューを行いました。売却時の葛藤や売却後の変化とは…?

 

目次

店舗売却を決断した背景

スモールM&Aは三方よしの経営手法

「事業を売りたい」という本音を相談できる相手がいない

 

店舗売却を決断した背景

Sさんは、東北と関東の2か所を拠点に事業を行っていた中小企業社長。東北ではマッサージ店、便利屋サービス、印刷店を展開。関東では、それらの店舗運営のノウハウと経験を活かしてコンサルティング事業を行っていました。

今回のインタビューに該当するのは、東北に出店していたマッサージ店のM&A。Sさんはなぜ、マッサージ店の店舗売却(事業譲渡)を決断したのでしょうか。

「私がマッサージ店を売却したのは、2015年のことです。当時は東日本大震災の影響がまだ残っていて、復興需要で東北の一部の地域は経済的に潤っていました。月の半分を東北で、もう半分を関東でという2拠点生活をしていましたが、、やはり関東の方が情報量が多いですし、情報の質も違いました。関東を本拠点にしたい気持ちがありながらも、東北には家族と経営している店舗もあることから決断できずにいました。

マッサージ店の運営は、ほとんど妻に任せていて、もちろん私が東北にいるときは店舗に顔を出してマネジメントしていたのですが、不在の間は妻にやむなく任せていました。集客には困っていませんでしたから利益は出ていたのですが、妻の負担になっていたことと、正直マッサージ店事業に飽きている自分がいて。関東に出て、コンサルティングの仕事に集中したいというのが本音でした。

そんな悶々とした気持ちを抱えているときに、友人の紹介でM&Aアドバイザーの方と出会い、その人が『買い手が現れた時が売り時』という話をしていて。その言葉がきっかけになって、店舗売却の話を進めることを決めました。

M&Aというと、会社ごと売却するのが前提と思い込んでいたのですが、店舗や事業単位でも売却できると教えてもらいました。それなら、マッサージ店と便利屋サービス、印刷店をそれぞれ別の会社や人に譲渡しても良いわけですから、1事業ずつ売却していこうと決断できました」

Sさんは、事業単位で譲渡するスモールM&Aという選択肢を知ったことで、本音では集中したかったコンサルティング事業に自分の時間を割ける可能性を見出すことができました。

 

スモールM&Aは三方よしの経営手法

マッサージ店をはじめ、便利屋サービスや印刷店の店舗売却を決断したSさんは、M&Aアドバイザーと仲介契約を結び、必要な書類の準備に取り掛かりました。財務諸表をまとめて、M&Aアドバイザーに店名をふせたノンネームシートと案件概要書を作成してもらうと、すぐに買い手候補が現れたと言います。

「M&Aアドバイザーの方が慣れていて、必要な書類や資料をすぐにリスト化してくれました。妻が事業ごとに損益計算書やキャッシュフロー計算書を作ってくれていたので、情報開示がスムーズにできました。書類がそろってからM&Aアドバイザーが何社かにノンネームシートを見せて打診してくれて、1ヶ月ほどで買い手候補の方と面談になりました。

案件概要書をつくっているときに、M&Aアドバイザーから譲渡希望金額を確認されたのですが、『正直、高いです。適正価格は、その半分ですね。ご自分が買い手側だったら、その値段で買いますか? 』と言われてハッとしました。ゼロから立ち上げた店舗だったので愛着もあって、ついつい高く設定していたのですが、冷静に第三者視点で見てくれるアドバイザーの必要性を感じました。それで、すぐに譲渡希望金額を訂正しました。

M&Aのプロセスで苦労したのは、働いてくれているスタッフにいつ、どう伝えるかでした。幸い、買い手の方が『1年くらいはアドバイザー的に残ってほしい』と言ってくださったので、しばらくは改装費を出資してくれた新オーナーとのオーナー2名体制ということにして、私は新しいオーナーがスタッフと信頼関係を築けるように努めました。1年が過ぎた頃に、アドバイザーとしても私は抜けて完全に事業譲渡しました。

M&Aって、ハゲタカファンドなど敵対的買収のイメージが強かったのですが、スモールM&Aではそんなことはなく、買い手側と売り手側が協力し合ってより良い方向性を探っていくやり取りが多かったですね。

『三方よし』という言葉がありますが、当時体験したスモールM&Aは、まさにそれでした。スタッフやお客様、買い手側、売り手側みんながより良くなるように協力しながら話を進めることができました」

「事業を売りたい」という本音を相談できる相手がいない

買い手にも恵まれ、スムーズにスモールM&Aを進めることができたSさん。事業譲渡が完了したとき、どのような気持ちだったのでしょうか。

「正直なところ、ほっとしました。大人数ではなかったのですが、利益は出てたとはいえ、毎月給与や報酬を払い続けられるかという不安は少しありましたし、私が不在の間、妻に負担をかけていることもプレッシャーでした。今では、妻は子育てと趣味に集中できていますし、私もコンサルティングの仕事に集中できています。生活拠点を関東に移すことができて、本当に良かったです。店舗単位・事業単位でも売却できることを知らなければ、今でも東北で事業を続けていたかもしれません。

マッサージ店も便利屋サービスも印刷店も、最初は好きで始めた事業でしたが、いつしか飽きが来てプレッシャーになっていました。

『本当は飽きた』とか『事業を売りたい』なんて本音を相談できる相手って、私のような中小企業社長にはいないんですよ。融資してくれている銀行や金融機関には相談できませんし、顧問税理士や社労士の先生にも相談できません。もちろん、スタッフにも家族にも相談できない。社長仲間には、見栄もあって相談しにくい。

そんなとき、M&Aアドバイザーのような人が身近にいてくれたら、視野が広がりますし、事業を託したいと思える買い手の方に出会えるかもしれない。私の場合、運良く友人が紹介してくれましたが、そんなケースばかりではないと思います。

もしもあのまま事業を続けていたら、特にマッサージ店は今回の新型コロナの影響を受けていたでしょうし、そうでなくても社長が事業に飽きていたらいずれは売上も下がってきていたと思います。一人でも多くの中小企業社長に、『事業売却という選択肢もある』ということを知ってもらいたいですね」

インタビューでSさんは、事業売却の経験を楽しそうに語ってくれました。今回のSさんのケースのように、小さなM&Aは複数の事業を展開する中小企業の経営者にとって、柔軟な企業経営を実現する選択肢になり得るでしょう。

 

 


【著者プロフィール】

中島 宏明
1986年、埼玉県生まれ。2012年より、大手人材会社のアウトソーシングプロジェクトに参加。
プロジェクトが軌道に乗ったことから2014年に独立し、その後は主にフリーランスとして活動中。
2014年、一時インドネシア・バリ島へ移住し、その前後から暗号資産投資、不動産投資、事業投資を始める。
現在は、上場企業や会計事務所など複数の企業で経営戦略チームの一員としてM&Aや海外進出等に携わるほか、バリ島ではアパート開発と運営を行っている。

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