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大人のなりたい職業ランキング1位 Webライターって本当はどんな仕事?

コロナ禍でテレワークが急速に拡大し、従業員の柔軟な時間管理や移動時間の削減が可能になりました。それに伴い、兼業・副業の定着が進むとみられています。*1:p.2、5

とはいえ、コロナ感染のリスクを避け、隙間時間を有効に使うためにも、対面での副業は避けたいところ。
その点、テレワークで本業をしながらでも取り組める在宅ワークは魅力です。

先日、「大人のなりたい職業ランキング」で1位に輝き話題になったWebライターもそのひとつ。でも、そのニュースに接して思わずのけぞったライターも多いのではないでしょうか。
筆者もその1人です。

こ、これが憧れの職業なの?

ブランド物のバッグにタブレットを滑りこませ、おしゃれなカフェへ。そこで物憂げにモニターに向かう知的な女性・・・、そんなイメージとは対極にあるオシゴトです。

朝起きた時点で既に原稿のことを考えている。パジャマのままデスクに直行なんてことはざら。それから寝るまで、いえ夢の中でさえ、とにかく四六時中、原稿のことが頭から離れない。副業とはいえ、隙間時間どころじゃありません。
いわば、アタマと10本指に特化した、24時間営業の肉体労働者です。

もっとも、そのランキングを発表したウェブサイトをみると、なりたい職業にはバラつきがあり、Webライターを挙げた人は1,231人の回答者中たった56人、全体の4.5%にすぎません。*2 また、回答者の約6割が30代の女性。
なるほど、そういうことなんですね。

とはいえ、1位は1位。Webライターに関心をお持ちの方がいらっしゃるのは確かなようです。

筆者のライター歴はわずか3年弱、まだまだ駆け出しです。それでもこれまで200本を超える記事を書かせていただき、最近は編集やディレクションのお仕事にも少しずつ取り組ませていただけるようになりました。

本記事では、筆者の拙い経験からみえてきた、Webライターの「裏側」をシェアします。

 

重い扉を開けるには

まず、Webライターとして採用されるために一番必要なものはなんでしょうか。

■過去の「優れた」成果物は必須アイテム

Webライターの仕事を得るために必要なもの、それは学歴でも経歴でもなく、過去の成果物です。選考する側にしてみたら、それ以上の判断材料はありません。
そのクオリティーが高ければ、「一度書いていただきましょうか」ということになり、扉はきっと開くはず。

極端なことをいったら、その段階では履歴などどうでもいいといってもいいくらいです。世間的に通りがいい学歴や経歴は、特定の専門性が必要な記事の場合や実績がともなってこそ付加価値になり得ますが、そうでない限りあまり効力を発揮しません。むしろめったにない経験やユニークな履歴をもつ方のほうが希少価値があるというもの。

ちなみに、ライター歴の長さやそれまでの成果物の数も、必ずしも質を担保するものではないため、あまり重要視されません。
クオリティーの高い過去の成果物、それこそが決め手です。

では、質の高い成果物とは何でしょうか。
それは、
「“この人なら、当該メディアのニーズに適合した記事が書けそうだ”という期待値が高いもの」
に他なりません。
たとえライティング・スキルがあり、こなれた文章が書けたとしても、それと、メディア・ニーズに合ったものが書けることとは別問題です。

間違いなく言えるのは、自分の書きたいことを書きたいように書くのがライターの仕事ではないということです。メディアのニーズに応え、メディアの読者に貢献してなんぼの仕事なのです。

メディア毎に設定されている「レギュレーション」と呼ばれるものがあります。そこには、テーマ、読者層、文体、筆致、表記、エビデンス、タブー等々、守るべきルールがこと細かに定められています。
それを守って書いていただけそうかどうかは、採用選考の大切な観点です。

したがって、応募するときのポイントは、募集要項をよく読み、そのメディア・ニーズに応える記事が書けるかどうかを見極めることです。いくらその仕事がやりたくても、それが叶わなければ、せっかく開いた扉はすぐに閉じられてしまうかもしれません。

■「成果物ゼロ、畑違い」でも、もしかしたら・・・

そういう意味では、筆者の場合はレアケースでした。
そもそも応募する記事の分野は畑違いのエコロジー。しかも、Webライターとしての経験はゼロ。Web上でリリースされた成果物といえば、本業に役立つかもしれないと思って2、3編書いてみた、大学入試用小論文のモデル文だけだったのですから。
「ないよりはマシかも」と、そのうちの1編を苦し紛れに添付してみたものの、それで芳しいお返事が返ってくるわけがありません。

選考にあたってくださった編集長(ディレクター)はさぞかし戸惑われたことでしょう。丁寧な表現ながら、「ご専門が違いますので・・・」という趣旨のメールが送られてきました。暗に断られているのでしょうが、門前払いというわけでもなさそうだと勝手に解釈し、わずかな可能性にかけてみることにしました。

なかなか開かない重い扉こそこじ開けたくなるもの。それにハードルが高いのはそれだけクオリティーにこだわっている証拠です。おそらくきちんとした企業だろうと、むしろモチベーションが上がりました。

誰にだって初めての時があり、私にとってはこれがその時なのだから、過去の成果物が示せなくたって仕方ないではないか。腹を括ってぶつかっていこう。
そう決意し、その記事に必要なエビデンスを集め、ダメ元で「もしこの原稿を書かせていただけるのでしたら使いたいと思っているのですが、これでは不十分でしょうか」と食い下がりました。

 

「素人だから、いいんですよ」と編集長は言った

幸い目の前の扉は開きました。
でも、それはゴールではなくスタートです。継続的にオファーしていただけるかどうか、勝負はそこから。
では、ライターとしてのポテンシャルはどのようにして高めていったらいいのでしょうか。

■ライターって何だろう

ライターの仕事を始めて8か月ほど過ぎた頃、編集長のMさんからこんなメールが届きました。

「ご専門とかけ離れていますので、これまで控えておりましたが、こちらのメディアはいかがでしょうか。よろしくご検討くださいませ」

それはビジネス系のメディアでした。
「読者は経営幹部などアッパーミドル以上のビジネスパーソン。求められる筆致は筋肉質でエッジの利いたオピニオン」
・・・?

「Mさん、それはいくらなんでも無謀というものです。私、経営もビジネスも全くの素人です・・・」
しかし、それで引き下がるようなMさんではありません。

「横内さん、永平寺の貫首さんのところに、名だたる経営者が押しかけるのをご存知ですか」
「はい、どこかで聞いたような・・・」
「じゃあ、永平寺の貫首さんはビジネスの専門家でしょうか。違うでしょう? 誰が永平寺の貫首にマネジメント論なんか聞きたいでしょうか」
「ちょっと待ってください、Mさん。おっしゃる意味はわかりますが、私はそんなご大層な人間では・・・」
「いえいえ、横内さん、横内さんの専門性からその哲学や生き方を語って頂ければいいんです。そうすれば、必ずマネジメント層の心に届きますから」

こんなとき、編集長であるMさんの言葉は熱を帯び、こちらのツボをぐいぐいと攻めてきます。
「だって皆さん、これはメディアでもライターでもそうなんですが、自分の可能性や仕事の範囲を限定しすぎちゃうんですよ。どんなことでもそうなのですが、“掛け算が生み出す価値”ってスゴイんです。“違う分野・立場の専門性をお持ちの方のオピニオン”には強烈な価値があると私は思っています」
「はあ・・・」

ディレクターとして辣腕を振るうかたわら、トップライターとしても人の心に響く記事を提供し続け、熱烈なファンも多いMさんのことばには説得力があります。

確かにそうだ。仕事であれボランティアであれ趣味であれ、何かにのめりこみ打ち込んだ人間はなんらかの専門性を身につけている。ライターは、ある問題に対して、「自分の専門性や知見を発揮できる立場」からオピニオンを発信すればいいのだ・・・。

「それから、経験談や事例を通して、読者に新鮮な気づきや影響をもたらす。それもライターの仕事だと思っています。これが、今のところ私が辿りついた結論なんです。いかがでしょうか」
「・・・わかりました。失敗するかもしれませんが、思い切ってチャレンジしてみます」
「万が一失敗したら、私が責任を取ります。そんなことは心配なさらずに、どんどん攻めてください」

こうして、気づいてみると、就職、転職、金融、保険、ビジネス、広告、インターネット、ホテル、家電、エコロジー・・・、いつのまにか、さまざまな分野の20を超えるメディアに寄稿させていただいているではありませんか!

これがM編集長さんに教えていただいた「ライターのお仕事」の本質です。
そして、もうひとつ、筆者はこのエピソードを通して読者にシェアしたいことがあります。

■自己プロデュースってなんだろう

唐突ですが、山口百恵というスーパースターをご存知でしょうか。
昭和の時代に数々の大ヒットを飛ばし、トップアイドルに昇りつめながら、21歳の若さで
引退した伝説の歌手です。

彼女を育てたプロデューサーの酒井政利氏が語る逸話の中に印象的なものがあります。*3

彼女は意外にもデビュー曲がヒットしなかった。そこで2作目は清純なイメージから一転、「あなたが望むなら私何をされてもいいわ」
で始まる「青い果実」のリリースに踏み切った。その後、「青い性路線」と呼ばれるようになる一連の作品をリリースしたところ、全国のPTAからは非難が殺到した。

デビュー当時の彼女は、「なぜ自分がこのように刺激的な歌を歌わなくてはいけないのか」と戸惑っていたかもしれないと酒井氏は回想します。
しかし、山口百恵という人は、どんな提案でも「はい、わかりました」と静かに受け入れていた。
そうして、一作ごとに表現力を身につけ、大ヒットを連発した結果、トップアイドルの座についた。

山口百恵のこのような在り方に対して、「主体性がない」などという人はいないでしょう。プロデュースは信頼できるプロフェッショナルに任せる。それこそが彼女の自己プロデュースだったのではないでしょうか。

アーティストに限らず、現在は誰にとっても自己プロデュースが必要な時代だといわれます。
仕事をするためには「商品」としての自分を常にプロデュースし、アップデートしていかなければならない。

しかし、人は自分自身を客観的に見ることはできません。
それと同じように、ライターにとって自分の書いたものを客観視するのは大変難しいものです。筆者自身、自分の原稿がいいのか悪いのか全くわからず、提出した後はいつもおどおどしています。
また、たとえ客観的に見ることができたとしても、それは1人の人間の視点からにすぎません。

ならば、信頼できるプロフェッショナルに任せてみるのも1つの方法です。その人は少なくともライター本人より客観的に原稿を評価し、原稿の中から本人も気づかない可能性を発掘し引き出してくれるかもしれません。
M編集長さんがそうであったように。

そうしたパートナーシップを築くことはライターの成長にとって欠かせないと、感謝の気持ちとともに思うのです。
一方、編集者・ディレクターの立場からすると、ライターの成長はなによりの喜びです。

書くことは、自分の内面と向き合わなければならない孤独な行為です。
しかし、それを支えるパートナーシップ、心躍るコラボレーションがあることも、ぜひ皆さんにお伝えしたい。

「Webライターのお仕事」は他の仕事同様、生半可ではない厳しさもありますが、それでも続けていこうと思える魅力、魔力があるのです。
この記事を読んでくださったどなたかと、いつかその魅力をシェアできたら幸せです。

資料一覧

*1
日本総研(2020)「ポストコロナの日本経済 ~働き方と消費行動はどう変わるのか~」
https://www.jri.co.jp/MediaLibrary/file/report/researchreport/pdf/11988.pdf
*2
エベラル(2021)「YouTuber?エンジニア?令和時代の大人1231人のなりたい職業ランキングTOP10!」(2022年1月4日)
https://elabel.plan-b.co.jp/job-change/6423/
*3
婦人画報.jp「山口百恵をアイドルに。伝説のプロデューサー・酒井政利が明かす秘話「ひと夏の経験」「いい日旅立ち」…酒井政利が振り返るスターたちの素顔」(2021年1月30日)
https://fujinkoron.jp/articles/-/3267?

 

 


プロフィール
横内美保子(よこうち みほこ)
博士(文学)。元大学教授。大学における「ビジネス・ジャパニーズ」クラス、厚生労働省「外国人就労・定着支援研修」、文化庁「『生活者としての外国人』のための日本語教育事業」、セイコーエプソンにおける外国人社員研修、ボランティア日本語教室での活動などを通じ、外国人労働者への支援に取り組む。
Webライターとしては、主にエコロジー、ビジネス、社会問題に関連したテーマで執筆、関連企業に寄稿している。

Twitter:https://twitter.com/mibogon

 

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