人手不足が慢性化し、人材確保が大きな課題となっています。
特に中小企業では、「求める人材からの応募がない」、「採用してもすぐに辞めてしまう」など人材に関わる悩みを抱えるところが多いのではないでしょうか *1 P2。
一方、「第四次産業革命」による生産構造の変化とグローバル化の波は、早急な「経営改革」を要請しています。
このような時代のトレンドとして、現在、「経営改革」の中心軸が「人材戦略の変革」に移行しつつあります *2 P3。
こうした状況の中、企業が優秀な人材を獲得するためには、これまで人材プールの中核を成していた偏った属性(「生産年齢」、「日本人」、「男性」など)に限定することなく、多様な属性の人材に目を向ける必要があります。
そうした経営戦略として注目されているのがダイバ―シティです *2 PP4-5。
では、そもそもダイバ―シティのコンセプトとはどのようなものでしょうか。
そこにはどのような意義があるのでしょうか。
また、経営面でどのような効果があるのでしょうか。
そして、多様な人材を職場に迎え入れるにあたって、どのようなことに留意する必要があるのでしょうか。
目次
ダイバ―シティの定義
まず、ダイバ―シティの定義とはどのようなものでしょうか。
伝統的な定義は、「ジェンダー、⼈種・民族、年齢における違いのことを指す」(米国雇用機会均等法委員会(Equal Employment Opportunity Commission)による)というものでした。
しかし、近年、ヨーロッパのビジネスマンや研究者などにより、ダイバ―シティの対象や範囲が拡大し、そのコンセプトはより包括的なものになってきています *3 P2。
以下の図1は、ダイバ―シティの対象範囲のひろがりを表しています。
図1 ダイバ―シティの対象範囲のひろがり
出典(図1・図2・表1):*3 総務省(2018)「諸外国におけるダイバーシティの視点からの行政評価の取組に関する調査研究 報告書」(図1・2 P5、表1P6)
https://www.soumu.go.jp/main_content/000546724.pdf
図中の「表層の属性」として挙げられているのは、性別・家族構成、国籍、障害、年齢、LGBTQなど、比較的、目につきやすく、認知しやすい属性です。
これら表層の属性は具体的な人物像がイメージしやすいですね。
今後、ビジネス分野でこうした属性を多様化するためには、これまでマイノリティであった人々を職場に受け入れていくことが必要です。
ただし、これらの属性のいくつかは、1人の人間の中で重複している可能性があることにも留意する必要があります。
一方、「深層の属性」として挙げられているものは、個性や知識、教育、経験、価値観、スキルまでもを含むより包摂的なものです。
例えば、オランダの「社会問題・雇用省」の文献では、企業・組織における文化的多様性を次のように定義しています *3 P32。
多様性とは、通常、人々の互いに異なる全ての側面を意味する。性別・民族・年齢等の目に見える特徴に加え、性格・特性・仕事の仕方など目に見えない特徴も含まれる。
ここで気づくのは、マジョリティを含むすべての労働者を対象に、その深層の属性にも目を向け、多様な属性を掘り起こし、顕在化させていく必要性があるということです。
したがって、ダイバ―シティを実現させるためには、マイノリティの雇用拡大と同時に、すべての労働者を対象とした多様な属性の顕在化が必要となるでしょう。
ダイバ―シティのレベル深化
ダイバ―シティは以上のような属性の広がりとともに、そのレベルも深化しています。
下の図2は、ダイバ―シティのレベル深化を表しています。
図2 ダイバ―シティのレベル深化
まず、一番上の「同化レベル」は、マイノリティを一方的にマジョリティに順応させるという段階です。
次の「法対応レベル」は、法によって差別を禁止する段階です。
そして、最も深化が進んだ「多様性尊重レベル」では、多様性をありのままに受け入れ理解して、多様な人材の能力を経済活動にも活用し、競争力強化やイノベーションにつなげていくという段階です。
日本が現在、目指しているのは、まさにこの「多様性尊重」の段階です。
次に下の表1をご覧ください。
この表は、上でみたダイバ―シティの深化について、各事業分野でどのような政策がとられているのかについて、ヨーロッパの25都市での調査結果を整理したものです。
表1 ヨーロッパにおけるダイバシティのレベル深化と対応する政策
ただし、こうしたダイバ―シティの深化が一方向に進んでいくとは限りません。
表1の場合を例にとると、左側の「同化」から「多様性尊重」へとスムーズに、また不可逆的には移行しない場合もあるということにも留意する必要があります *3 P5。
経営戦略としてのダイバ―シティ
では、ダイバ―シティを経営戦略として位置づけるとはどのようなことでしょうか。
簡単にみてみましょう。
経済産業省「ダイバーシティ 2.0 検討会報告書 ~競争戦略としてのダイバーシティの実践に向けて~」 は、以下のような1文から始まっています *2 P2。
「ダイバーシティは、目的ではない。経営戦略を実行するための手段である。」
経済産業省の別の資料でも、ダイバーシティ経営においては、「社員の多様性を高めること自体が目的ではない」、「福利厚生やCSR(企業の社会的責任)の観点だけが目的ではない」と明記されています *1:p.4
では、ダイバ―シティ経営の目的とは、どのようなものでしょうか。
同資料では、以下のように説明しています*1:p.4 。
■ 経営戦略を実現するうえで不可欠な多様な人材を確保する
■ 確保した多様な人材が意欲的に仕事に取り組める職場風土や働き方の仕組みを整備する
■ 上の取り組みによって適材適所を実現し、その能力を最大限発揮させ、「経営上の成果」につなげる
次に、ダイバ―シティ経営の効果をみてみましょう。
同資料で提示している効果は以下の4つです *1:p.4。
『プロダクト・イノベーション』:対価を得る製品・サービス自体を新たに開発したり、改良を加えたりするもの
多様な人材が異なる分野の知識、経験、価値観を持ち寄ることで、「新しい発想」が生まれる。
『プロセス・イノベーション』:製品・サービスを開発、製造、販売するための手段を新たに開発したり、改良を加えたりするもの
多様な人材が能力を発揮できる働き方を追求することで、効率性や創造性が高まる。
『外的評価の向上』:優秀な人材の獲得、顧客満足度の向上、社会的認知度の向上など多様な人材を活用していること、およびそこから生まれる成果によって、顧客や市場などからの評価が高まる。
『職場内の効果』:社員のモチベーション向上や職場環境の改善など自身の能力を発揮できる環境が整備されることでモチベーションが高まり、また、働きがいのある職場に変化していく。
以上のように、政府が推進しようとしている経営戦略としてのダイバ―シティは、多様な人材の確保、およびそうした多様な人材が働きやすく能力を発揮しやすい職場を構築することが前提となっています。
ポテンシャルが高い子育て世代の女性
これまでお話ししたようなダイバ―シティのコンセプトに沿って考えれば、ダイバ―シティ経営で対象となるのは、「全ての労働者」だといえます。
ただ、これまでの流れから、特に注目され、雇用拡大が期待されているのは、先ほどお話ししたように、これまでビジネスにおいてマイノリティであった人々です。
ここからは、そのうち、雇用拡大のポテンシャルが高い、子育て世代の女性に焦点をあて、その雇用状況と彼女たちをアルバイト人材として採用する際のポイントについて簡単にみていきたいと思います。
まず、女性の就業希望者の内訳をみてみましょう(以下の図3)。
図3 女性の就業希望者の内訳(2017年)
出典:*4 内閣府男女共同参画局(2018)「平成30年版度男女共同白書(概要):女性の就業希望者」
http://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/h30/gaiyou/html/honpen/b1_s02.html
左側のグラフの青い折れ線に注目してください。
女性の就業状況に関して、しばしば話題に上るのが、「M字カーブ」です。
この名前の由来は、女性の結婚・出産時期にあたる年齢で折れ線の「谷」があらわれ、全体としてみるとM字に見えることによります。
この「谷」の部分の底上げをするのが長年の課題でした。
図3をみると、2017年時点で、ピーク時82.4%だった就業率が、「底」では74.2%に落ち込んでいることがわかります。
一方、2017年には262万人の女性が就業を希望していました。
図3の右側の円グラフをみると、就業を希望しているのにもかかわらず求職していない理由として最も割合が高かったのは「出産・育児のため」で35.6%、次いで「適当な仕事がありそうにない」が26.8%でした。
では、就職を希望している女性たちはどのような雇用形態を望んでいるのでしょうか。
最も割合が高いのは「非正規の職員・従業員」で、70.4%となっています。
したがって、M字カーブの谷にあたる年齢層の女性は、アルバイト人材として雇用拡大のポテンシャルが高い人たちだといえます。
次にこの時期に該当する主婦のアルバイト状況をみてみましょう。
ここでは、マイナビが2019年に行った「主婦アルバイト調査」 *5 の結果から、有益な情報をご紹介したいと思います。
まず、下の表2は、アルバイト探しをする際の情報源を表しています。
表2 主婦がアルバイト探しをする際の情報源
出典(表2・図4-図6):*5 マイナビ(2019)「主婦アルバイト調査」(2019年5月 株式会社マイナビ 社長室 リサーチ&マーケティング部 アルバイトリサーチチーム)(表2 P17、図4 P19、図5 P33、図6 P35)
https://www.mynavi.jp/wp-content/uploads/2019/05/%E3%80%90%E7%A2%BA%E5%AE%9A%E3%80%91%E4%B8%BB%E5%A9%A6%E3%81%AE%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%83%90%E3%82%A4%E3%83%88%E8%AA%BF%E6%9F%BB.pdf
表2でM字カーブの「谷」に当たるのは、① 「小学校入学前の子供がいる」と ② 「小学生の子供がいる」に該当する主婦だと考えていいでしょう。
① も ② も、情報源として最も割合が高いのは「ハローワーク」で約半数にあたりますが、① は「スマートフォンの求人アプリ」の割合が比較的高いという特徴がみられることから、求人の際のメディア選定に関しては注意が必要です。
次に、図4は、アルバイト探しをする際に絶対に必要な条件を表しています。
図4 アルバイト探しをする際に絶対に必要な条件
① と ② に注目すると、第1位は「シフトの融通がきく」で、「子育てへの理解があること」がそれに次いでいます。
子どもの年齢が低いほど、母親にとって子育てとアルバイトの両立は難しく、切実です。
以下の図5もそのような事情を反映しています。
図5 仕事をする上での悩み
図5は仕事をする上での悩みを表しています。
この図をみると、① と ② に該当する人の多くが「急な休みによる職場への罪悪感」を挙げています。
筆者にも以下のような経験があります。
■ 職場での大切な会議の最中に、学校から電話が掛かってきて、発熱した子どもを迎えにいかなければならなかったこと。
■ 上の子の水疱瘡が下の子に感染してしまい、長期間、身動きがとれなくなってしまったこと。
■ インフルエンザの流行で突然、学級閉鎖になってしまい、子どもを置いて家を空けることができなくなってしまったこと。
子どもは、急に熱を出したり、病気になったり、ケガをしたりしながら育ちます。
また、子どもがいると、幼稚園や学校の行事で仕事を休まなければならないこともあります。
複数の子どもがいれば、その頻度はより高まるでしょう。
そのようなとき、上司や同僚の理解を得ることができれば、その職場で仕事を続けていこうというモティベーションが確実にアップするでしょう。
また、こうした職場情報は、口コミによって共有され、さらなる人材獲得にもつながりやすいものです。
子育て期にある主婦をアルバイト人材として職場に迎え入れ、長く働いてもらうためには、以上のようなことに考慮する必要があるでしょう。
最後に、現在、アルバイトをしている主婦たちが、今後どのような雇用形態を望んでいるか、みてみましょう(以下の図6)。
図6 今後、望む雇用形態
全体としては「雇用形態にこだわりがない」の割合が最も高く46.0%、次いで「非正規社員として働きたい」が34.6%、「正社員として働きたい」は19.4%でしたが、① 小学校入学前の子供がいる主婦だけは「正社員として働きたい」が「非正規社員として働きたい」を上回っています。
このことから、場合によっては正社員に登用することも視野に入れ、長期雇用につながる職場整備をしていくことが必要だといえるでしょう。
多様な人々の多様な働き方
上でみたように、子育て期の主婦にはその属性に合った働き方があります。
それと同じように、他の属性をもつ人々にも、その属性にふさわしい働き方があります。
さまざまな効果が期待できる経営戦略としてのダイバ―シティは、表層の属性であれ深層の属性であれ、多様な属性を等しく尊重し、それぞれの属性をもつ人々が働きやすく能力を発揮しやすい仕組みづくりや職場整備をすることが前提です。
また、そのような働き方から、目に見えにくい深層の属性が顕在化し、それらの集合体が相乗効果を引き起こしてイノベーションにつながることも期待できます。
ダイバ―シティは、これからのビジネスに欠かせない人材戦略なのです。
*1
引用・参考)経済産業省(2019)「多様な個を活かす経営へ ~ダイバーシティ経営への第一歩~
ダイバーシティ経営診断シートの手引き」
https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/diversity/downloadfiles/tebiki.pdf
*2
引用・参考)経済産業省(2017)「ダイバーシティ 2.0 検討会報告書 ~競争戦略としてのダイバーシティの実践に向けて~」
https://www.meti.go.jp/press/2016/03/20170323001/20170323001-1.pdf
*3
引用・参考)総務省(2018)「諸外国におけるダイバーシティの視点からの行政評価の取組に関する調査研究 報告書」
https://www.soumu.go.jp/main_content/000546724.pdf
*4
引用)内閣府男女共同参画局(2018)「平成30年版度男女共同白書(概要):女性の就業希望者」
http://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/h30/gaiyou/html/honpen/b1_s02.html
*5
引用)マイナビ(2019)「主婦アルバイト調査」(2019年5月 株式会社マイナビ 社長室 リサーチ&マーケティング部 アルバイトリサーチチーム)
https://www.mynavi.jp/wp-content/uploads/2019/05/%E3%80%90%E7%A2%BA%E5%AE%9A%E3%80%91%E4%B8%BB%E5%A9%A6%E3%81%AE%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%83%90%E3%82%A4%E3%83%88%E8%AA%BF%E6%9F%BB.pdf
【筆者】
横内美保子(よこうち みほこ)
博士(文学)。元大学教授。大学における「ビジネス・ジャパニーズ」クラス、厚生労働省「外国人就労・定着支援研修」、文化庁「『生活者としての外国人』のための日本語教育事業」、セイコーエプソンにおける外国人社員研修、ボランティア日本語教室での活動などを通じ、外国人労働者への支援に取り組む。
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