アルバイト・パートの方が社会保険の加入対象になると、健康保険・厚生年金保険・雇用保険の各保険料負担が発生します。
そのため、社会保険の加入対象にならないように、労働時間をコントロールしている方もいらっしゃるでしょう。
増加するアルバイト・パートなどの短時間労働者を社会保険の対象とするため、2022年10月より、社会保険の適用範囲が拡大されます。
事業者は新規適用者への対応を進める必要があるほか、アルバイト・パートの方にとっては、今までの働き方を見直すきっかけになるかもしれません。
この機会に、アルバイト・パートに関する社会保険の基礎知識と、2022年10月以降のルールの変更点を押さえておきましょう。
目次
2022年10月・2024年10月施行|社会保険の適用拡大のポイント
社会保険への加入が必要な人は?
社会保険への加入が必要とされているのは、以下のいずれかに該当する方です。
●適用事業所に常勤する労働者等
「適用事業所」に常時使用される方は、社会保険に加入することが必須となります。なお、厚生年金保険は70歳以上の方の保険料徴収はありません。健康保険は75歳からは後期高齢者医療制度に移ります。労働者の方に加えて、法人の役員などについても、常勤であれば社会保険への加入が必要です。
適用事業所には、「強制適用事業所」と「任意適用事業所」の2種類があります。
①強制適用事業所
法人の事業所は、すべて強制適用事業所に当たります。
また、従業員が常時5人以上いる個人の事業所も、農林漁業や一部のサービス業(クリーニング業、飲食店、ビル清掃業等)を除いて、強制適用事業所に当たります。
②任意適用事業所
強制適用事業所ではない事業所も、従業員の半数以上が厚生年金保険等の適用事業所となることに同意し、事業主が申請して厚生労働大臣の認可を受けた場合には、社会保険の適用を受けることができます。
●特定適用事業所と常用的使用関係にある短時間労働者等
社会保険の適用事業所であっても、常勤ではない短時間労働者については、原則として社会保険の適用対象に含まれません。
ただし、
①特定適用事業所または任意特定適用事業所に該当すること
②短時間労働者の被保険者要件に該当すること
の2つを満たせば、短時間労働者も社会保険に加入する義務を負います。
現行の制度では、「特定適用事業所」「任意特定適用事業所」「短時間労働者の被保険者要件」は、それぞれ以下のとおりとなっています。
<特定適用事業所>
適用事業所であり、かつ被保険者(短時間労働者を除く)の総数が常時※500人を超える事業所
※1年間のうち、6か月以上
<任意特定適用事業所>
国・地方公共団体に属する事業所、および特定適用事業所以外で、労使合意に基づき、短時間労働者を健康保険・厚生年金保険の適用対象とする申出をした適用事業所
<短時間労働者の被保険者要件>
(a)週の所定労働時間が20時間以上であること
(b)雇用期間が1年以上見込まれること
(c)賃金の月額が88,000円以上であること
(d)学生でないこと
2022年10月・2024年10月施行|社会保険の適用拡大のポイント
アルバイト・パートなどの短時間労働者に対して、社会保険制度による保障を十分に及ぼすため、2022年10月と2024年10月の2回に分けて社会保険の適用範囲が拡大されます。
制度改正のポイントは、以下の2点です。
●改正ポイント①|特定適用事業所の範囲を段階的に拡大
2022年10月と2024年10月に、「特定適用事業所」の被保険者総数の要件が、以下のとおり2段階で変更されます。
<特定適用事業所の被保険者総数要件>
現行制度 | 500人超 |
---|---|
2022年10月~ | 100人超 |
2024年10月~ | 50人超 |
上記の変更により、一定の要件を満たすアルバイト・パートなどの短時間労働者を、社会保険に加入させなければならない事業所の数が大幅に増える見込みです。
●改正ポイント②|短時間労働者の雇用期間要件を緩和
さらに2022年10月の改正では、短時間労働者の被保険者要件のうち、「雇用期間が1年以上見込まれること」という要件が以下のとおり緩和されます。
<短時間労働者の被保険者要件>
現行制度 | 1年以上 |
---|---|
2022年10月~ | 2か月超 |
雇用期間が短いことを理由に社会保険に加入させていない従業員がいる場合には、取り扱いを見直す必要がないか確認しましょう。
社会保険の適用拡大に向けて、事業者側がとるべき対応
2022年10月に控えた社会保険の適用拡大に向けて、事業者は制度改正に備えた対応を進める必要があります。
●新たに特定適用事業所に該当するかどうかを確認する
短時間労働者を除く被保険者総数が101人~500人の適用事業所は2022年10月から、51人~100人の適用事業所は2024年10月から、それぞれ新たに特定適用事業所となります。
特定適用事業所は、一定の要件を満たす短時間労働者を社会保険に加入させる義務を負います。
そのため、新たに特定適用事業所となる場合には、新規加入対応が相当数発生する可能性があるので注意しましょう。
●新たに被保険者となるアルバイト・パートを把握する
新たに特定適用事業所となる場合はもちろんのこと、そうでない場合にも、短時間労働者の雇用期間要件が緩和されることに伴い、新たに社会保険の被保険者となるべきアルバイト・パートが発生する可能性があります。
2022年10月から実際に制度が改正される際、スムーズに対応できるように、新たに被保険者となるアルバイト・パートを把握しておきましょう。
●アルバイト・パートに制度変更の内容を説明する
今回の社会保険の適用拡大は、アルバイト・パートとして働く方にとっても、働き方を見直す機会となる重要な制度変更です。
新たに適用対象となるアルバイト・パートの方には、社内のイントラネットやメールなどを活用して、制度変更の内容が周知されるように努めましょう。
●社労士等によるアドバイスを無償で申込み可能
アルバイト・パートに対する制度変更の説明を行うに当たっては、社会保険労務士などの専門家によるアドバイスを無償で受けることができます。
専門家によるアドバイスをご希望の事業者の方は、以下の依頼届を記入したうえで、年金事務所に派遣を申し込みましょう。
参考:
短時間労働者に対する被用者保険の適用拡大に係る専門家派遣依頼届|日本年金機構
https://www.nenkin.go.jp/oshirase/topics/2021/0219.files/iraitodoke.pdf
まとめ
アルバイト・パートを含めて、従業員を正しく社会保険に加入させることは、事業者としての責務です。
制度変更の内容をきちんと把握して、加入対象となる従業員について漏れのないように手続きを行いましょう。
また、一部のアルバイト・パートの方は、今回の社会保険の適用拡大により、新たに社会保険へ加入しなければなりません。
特に、これまで配偶者や親などの扶養の範囲内で働いていた方は、新制度の下で社会保険に加入すべき義務が発生しないかを確認してください。
社会保険に関する制度変更は、事業者・労働者の両方に大きなインパクトをもたらします。
今後も不定期に制度変更が行われる可能性があるので、常に最新の情報を仕入れておきましょう。
参考:
社会保険適用拡大特設サイト|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/tekiyoukakudai/
阿部 由羅
ゆら総合法律事務所代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。専門はベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。