アルバイトのシフトは、あらかじめ時間数が決まっているケースが多いのですが、それを超過した場合には残業代が発生します。
新人研修や健康診断などを受けている時間帯については、労働時間に該当するかどうか正しく把握してない事業主の方もいらっしゃるかもしれません。
アルバイトとのトラブルを防ぐために、労働基準法のルールを正しく適用して、残業代の未払いが発生しないように努めましょう。
目次
賃金(残業代)が発生する「労働時間」の定義
会社がアルバイトを含む従業員に対して支払う賃金は、労働基準法上の「労働時間」について発生します。
最高裁の判例によって、労働基準法上の「労働時間」は、「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」と定義されています(最高裁平成12年3月9日)。
したがって、アルバイトの賃金(残業代)は、アルバイトが会社の指揮命令下に置かれている時間帯について発生し、それ以外の時間帯については発生しないというのが基本的な考え方です。
これって労働時間?アルバイトについてのケース別解説
アルバイトが入社したばかりの時期には、新人研修を受けたり、自宅でマニュアルを読み込んだりする時間が発生することが多いでしょう。
また、正社員などと同様に、アルバイトに対して健康診断を実施する会社もあります。
このような時間帯は、労働時間に該当し、アルバイトに対して賃金(残業代)を支払わなければならないのでしょうか。具体的に検討してみましょう。
●アルバイトの新人研修
新人研修については、労働時間に該当することがほとんどでしょう。
アルバイトに新人研修を受けさせる主な目的は、実際の業務のやり方を教えることにあるのが原則です。
そのため新人研修は、会社の指示の下で受講が義務付けられるのが一般的であり、その場合は、会社の指揮命令下にある時間帯として「労働時間」に該当します。
ただし、
・新人研修の内容がアルバイトの自己研鑽等を目的としている
・研修内容が業務と直接の関連性を持たない
・受講が完全にアルバイトの任意である
といった条件が揃っている場合には、例外的に「労働時間」に該当しないと解する余地があります。
●アルバイトが家でマニュアルを読む時間
アルバイトが会社で渡されたマニュアルを、自主的に家で読み込んで実際の業務に備えるケースもあるかと思います。
この家でマニュアルを読んでいる時間が「労働時間」に該当するかどうかは、ケースバイケースの判断となります。
一般に、労働者が自主的に残業している時間についても、会社がその残業を黙認している場合には、会社との指揮命令関係が認められて「労働時間」に当たる可能性があります。
会社がアルバイトにマニュアルの熟読を指示する場合、アルバイトはそのマニュアルを、勤務時間中に読むのが原則です。
したがって、家にマニュアルを持ち帰って読む行為は、客観的には「自主的な残業」と評価できます。
たとえば、
・マニュアルが勤務時間中に読める程度の分量である
・会社からもマニュアルは勤務時間中に読むよう指示されている
・マニュアルを読む時間が勤務時間中に確保されている
といった事情が存在する場合には、家でマニュアルを読むことについて会社が黙認しているとは評価できず、その時間は「労働時間」に当たらない可能性が高いでしょう。
これに対して、
・マニュアルの分量が多く、勤務時間中には読み切れない
・会社から「家でもマニュアルを読んでおくように」と指示されている
などの場合には、会社が家でマニュアルを読むことを黙認しており、その時間が「労働時間」に当たると評価される可能性があります。
●アルバイトが会社で受ける健康診断
会社がアルバイトを含む従業員に対して実施する健康診断には、「一般健康診断」と「特殊健康診断」の2種類があります。
一般健康診断:職種に関係なく、雇入れ時および年1回定期的に行われる健康診断
特殊健康診断:法定の有害業務に従事する従業員が受ける健康診断
一般健康診断は、業務と直接関連性がないため、受診している時間が当然に「労働時間」に該当するわけではありません。
ただし、労使間の協議によって、一般健康診断を所定労働時間内に行うものとし、賃金を支給する例も多いところです。
これに対して特殊健康診断は、業務の遂行に関して、従業員の健康を確保するために、当然に実施なければならないものです。
そのため、特殊健康診断を受診している時間は「労働時間」に該当し、賃金の支払いが必要となります。
アルバイトへの残業代の未払いを防ぐには?
アルバイトの残業代が未払いになっていると、アルバイトから残業代を請求されてトラブルに発展するおそれがあります。
また、労働基準監督署による勧告等が行われる可能性もあるので要注意です。
会社がアルバイトに支払うべき残業代の未払いを防ぐためには、以下の対策を組み合わせて実施することをお勧めいたします。
●現場でのシフト管理を徹底する
残業代の未払いを防ぐためには、そもそもアルバイトに残業をさせないようにすることが効果的です。
現場管理者が中心となって、退勤時刻になったらアルバイトに帰宅を促すなどして、シフト管理を徹底しましょう。
●アルバイトの働きぶりにつき、現場管理者に定期報告をさせる
経営者がアルバイトの残業実態をきちんと把握することも、残業代の未払いを防ぐためには大切です。
現場管理者との間で定期的にコミュニケーションをとり、アルバイトの働きぶりについて報告を受けましょう。
その際、過剰な残業が発生していることが分かった場合には、業務量の調整などを行うことをお勧めいたします。
●アルバイトに残業時間の申告を促す
アルバイト本人に直接質問したり、定期的に残業時間を申告させたりして、残業時間の把握に努める方法も有力です。
残業時間を申告しやすい雰囲気を作ったり、残業を事前申告制としたりすることも考えられるでしょう。
●タイムカードなどを導入する
アルバイトの出退勤時刻を厳密に管理するためには、タイムカードなどによって機械的な記録を行うことがもっとも効果的です。
ただしタイムカードだけでは、アルバイトの持ち帰り残業などを把握することができません。
そのため、現場管理者やアルバイト本人からの報告を受ける方法と併用して、網羅的な残業時間の把握に努めましょう。
まとめ
アルバイトの新人研修は、原則として労働時間に該当し、家でマニュアルを読む時間や健康診断を受けている時間も、労働時間に該当する場合があります。
アルバイトの労働時間の把握漏れが生じると、未払い残業代を巡って、アルバイトとの間でトラブルを生じることになりかねません。
事業主の方は、タイムカードや現場管理者・アルバイト本人からの報告などを基にして、残業時間を漏れなく把握し、残業の未払いが生じないように努めましょう。
【著者プロフィール】
阿部 由羅
ゆら総合法律事務所代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。
https://abeyura.com/
https://twitter.com/abeyuralaw
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