働き方改革の一環である「同一労働同一賃金」の義務化が、いよいよ2020年4月から始まります。これは、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間における「不合理な待遇差」を禁止する制度で、基本給や賞与はもちろん、各種手当や福利厚生、教育訓練なども対象となっています。企業側では、制度のスタートまでにどのような対応が必要になるのでしょうか? 制度の概要や、ガイドラインをもとに解説していきます。
目次
「同一労働同一賃金」制度とは?
同一労働同一賃金の制度は、非正規雇用労働者を雇用している全企業が対象となります。まずは、その目的について紹介します。
■目的
急速な少子高齢化によって労働力人口の減少が進む日本では、2019年11月時点の有効求人倍率(季節調整値)が1.57倍まで上昇しています*1。その一方で、多様な働き方で仕事に従事する非正規雇用労働者の割合は、市場の労働力不足を補う形で増え続け、2014年以降は雇用者労働者全体の37%を超えています*2。
しかしながら、このような非正規雇用労働者は、同じ仕事内容の正規雇用労働者より給料や手当が少ない、新人研修が受けられないなど、非正規という雇用形態だけを理由に、正規雇用労働者との間に待遇差があるケースが珍しくありません。こうした待遇差は、非正規雇用労働者のモラール(士気)を低下させ、労働生産性を落とすだけでなく、退職の原因となる可能性もあります。
そこで、同一企業内で働く多様な雇用形態の人がそれぞれの待遇に納得して働き続けることができるよう、「正規雇用労働者(無期雇用フルタイム労働者)と非正規雇用労働者(有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者)の間の不合理な待遇差の解消」を目指す「同一労働同一賃金」の制度が導入されることになったのです。
出典:厚生労働省「一般職業紹介状況(職業安定業務統計)」*3を加工
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/114-1b.html
■制度の内容*4
・正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間の不合理な待遇差を禁止
同一企業で業務内容と責任の程度が同じであれば、正規雇用労働者と非正規雇用労働者間のあらゆる待遇について、不合理な待遇差をつけることが禁止されています。「あらゆる待遇」の中には、基本給や賞与をはじめ、各種手当や教育訓練なども含まれます。
・労働者に対する待遇面についての説明義務を強化
制度の施行後は、正規雇用労働者との待遇差に関する内容や理由について、非正規雇用の労働者が事業主へ説明を求めることができるようになります。これによって求めを受けた事業主は、明確な回答をおこなわなければなりません。
・行政による履行確保措置*5および裁判外紛争解決手続(行政ADR*6)の整備
制度の施行後は、全ての非正規雇用労働者が履行確保措置の対象となります。また、都道府県労働局による無料・非公開の紛争解決手続きを行えるようになるため、非正規雇用労働者は、裁判を行わずに事業主との紛争を解決できる手段が増えます。
これらは、2020年4月1日から大企業へ義務化されますが、中小企業への適用は2021年4月1日からとなります。(ただし、派遣労働者への対応についてはいずれも2020年4月1日から)
■違反した場合の罰則
同一労働同一賃金のルールに違反した場合の罰則などは設けられていないため、期限までに取り組みが進んでいないことに対してペナルティを受けることはありません。ただし、不合理な待遇を理由に労働者から訴えられた場合、高額な損害賠償金が発生するリスクは高まるでしょう。罰則がないからといって安易に考えるのではなく、企業の将来のために積極的に取り組むことが大切です。
同一労働同一賃金ガイドラインの概要について
同一労働同一賃金が義務化されるにあたり、どのような待遇差が不合理に当たるのかを示す基準として、「同一労働同一賃金ガイドライン」が策定されています。適切な対応をおこなうために、詳しい内容を確認しておきましょう。
■対象となる労働者
同一労働同一賃金の対象となるのは、パートタイム労働者と有期雇用労働者、派遣労働者といった非正規雇用労働者であり、正規雇用労働者(無期雇用フルタイム労働者)は、対象となりません。ここで注意しておきたいのは、2018年4月以降に実質スタートした無期転換ルール(労働契約法18条)によって、契約社員から無期転換した無期雇用フルタイム労働者への対応です。これらの人は、契約社員時の待遇のまま契約期間のみを無期化されていることも少なくありませんが、雇用形態は正規雇用労働者(無期雇用フルタイム労働者)とみなされるため、制度の直接的な対象とはならないのです。しかしながら、非正規雇用労働者の待遇が見直された後、この無期転換した労働者にだけ不合理な待遇差が残ってしまっている場合は、労働者側から訴えられる可能性も考えられます。他の労働者との待遇のバランスを考えながら対処していく必要があるでしょう。
■対象となる項目*7
同一労働同一賃金に照らして不合理に当たる可能性があるのは、基本給や賞与、各種手当、福利厚生、教育訓練などです。主な項目は以下のとおりです。出典:厚生労働省「働き方改革特設サイト 支援のご案内 同一労働同一賃金」*4を加工
https://www.mhlw.go.jp/hatarakikata/same.html
企業が押さえておきたいポイント
同一労働同一賃金の制度へ対応するためには、不合理な待遇差を洗い出し、その差に合理的な理由を定めなくてはなりません。しかし、一体どのようなことから進めれば良いのか、悩む方も多いのではないでしょうか。そのような方のために、制度へ対応するためのポイントを紹介します。
①自社の労働者の雇用形態をしっかりと把握する
労働者間の不合理な格差をなくすためには、まず自社でどのような雇用形態の人々が働いているのかを把握しなければなりません。正規雇用労働者と非正規雇用労働者の現状確認を行い、非正規雇用労働者がいる場合はその人数も明確にしましょう。
②就業規則を見直し、各規定の理由を明確化する
労働者間の不合理な待遇差をなくすためには、就業規則を見直すことが大切です。規則が長年改定されていない場合は、待遇付与の具体的な基準が書かれていない、書かれていてもなぜその基準になっているのかを誰も知らない……といったケースもあるようです。そのような古い基準は改訂し、労働者へ合理的な説明ができるように準備しておかなくてはなりません。通常の業務をこなしながら膨大な就業規則を改訂するのはなかなか大変なものです。雇用する労働者の人数が多い場合や、雇用形態が多様な場合には3か月程度かかるケースもあるので、なるべく早めに取り掛かるようにしましょう。
③自社に合った対応を検討する
労働者間の不合理な待遇差をなくす方法は、必ずしも1つではありません。どのような対策が必要になるかは、企業の規模や業種、職種などによって異なるため、自社に合ったものを検討しましょう。例えば、アルバイトと正社員の業務が区別しにくい飲食店などでは、正規雇用労働者の基本給をベースに時給単価を算出し、パートタイム労働者の給料を定めるといったケースが存在します。ただし、主な調理(盛り付け以外など)や、スタッフの教育、クレーム対応などの業務は正社員だけが行う規定になっており、それらに手当が支給される場合は、合理的な待遇差として認められるため、給与に差が生じても問題ないと考えられます。そのほか、製造業界の場合は実務経験や能力(資格)の有無、大規模な会社の場合は転勤の有無、営業職の場合はノルマ達成度などによって差をつけた結果、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間に差が生じるケースが発生することは認められます。このように、客観的に見て合理的な理由が示されていれば、全く同じ待遇に統一する必要はないため、自社に合う対策方法を考えることが大切です。
④対象となる人数を把握し、人件費を計算する
就業規則を改定する前には、追加で必要となる人件費をしっかりと計算しておくことも大切です。というのも、対象となる非正規雇用労働者が多い場合は、手当を数百円ずつ上げるだけで思わぬ金額に膨れ上がるケースもあるでしょう。
例)フルタイムで働く非正規雇用労働者が20人いる会社で、正規労働者と同一の賃金を支払うために非正規雇用労働者の時給を1,500円から2,000円に上げる場合
<時給>1,500円→2,000円 500円のUP
・非正規雇用労働者一人当たりに追加で必要となる人件費
<1日あたりの増加額> 500円×8時間=4,000円
<1か月あたりの増加額> 4,000円×20日=80,000円
<1か月あたりの人件費変化額>80,000円×20人=1,600,000円 →毎月1,600,000円も人件費が増えることに!
このような負担が増えると、企業の経営や存続に影響を及ぼすことも考えられます。一度引き上げた待遇を引き下げることはなかなか難しく、労働者の士気にも影響を及ぼすことが予想されるので、事前にしっかりと試算しておきましょう。
まとめ
同一労働同一賃金は、働き方改革の一環としてメディアでも多く取り上げられています。2020年4月1日(中小企業の場合は2021年4月1日)以降に労働者間の不合理な待遇差が残っていると、訴訟を起こされた場合に多額の支払いを命じられるリスクが高まりますので、早めに自社の就業規則を見直しましょう。労働者の待遇が充実した企業であることは、優秀な人財を確保する上でとても大切なことです。また、新たに労働者を募集する上でも大きなアピールポイントになるでしょう。
※1 厚生労働省「一般職業紹介状況(2019年11月分)」https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000212893_00027.html
※2 総務省統計局「労働力調査 2018年平均(速報)」https://www.stat.go.jp/data/roudou/sokuhou/nen/dt/pdf/index1.pdf
※3 参考:厚生労働省「一般職業紹介状況(職業安定業務統計)」https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/114-1b.html
※4 参考:厚生労働省「働き方改革特設サイト 支援のご案内 同一労働同一賃金」https://www.mhlw.go.jp/hatarakikata/same.html
※5 行政が事業主に対して報告徴収や助言、指導等を行うこと
※6 ADR=事業主と労働者の紛争を裁判をせずに解決する手続き
※7 厚生労働省「パートタイム・有期雇用労働法対応のための手順書」https://www.mhlw.go.jp/content/000540732.pdf
「同一労働同一賃金ガイドライン」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000190591.html
<取材協力・監修>
溝手社会保険労務士事務所
https://moshparty26.wixsite.com/mizotesroffice
社会保険労務士 溝手 康暖(みぞて やすはる)氏
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