働き方の多様化が進む日本では、非正規雇用労働者における労働環境の改善が課題となっています。国による働き方改革が進められている中、非正規雇用労働者に対する社会保険の適用拡大や、労働時間の延長を検討している企業も多いのではないでしょうか。今回は、そのような際に活用できる「キャリアアップ助成金」の「選択的適用拡大導入時処遇改善コース」と「短時間労働者労働時間延長コース」について詳しく紹介します。
目次
「キャリアアップ助成金」とは?
キャリアアップ助成金は、非正規雇用労働者の雇用形態や賃金規定、福利厚生などを改善した事業主に対して、国から一定の助成金が支給される制度です。現在の日本では、非正規雇用労働者の待遇が正規雇用労働者より手厚くないケースが珍しくなく、こうした待遇差は非正規雇用労働者のモラールの低下や、退職の原因になりかねません。そこで、企業内における非正規雇用労働者のキャリアアップを促すべく、本制度が設けられました。
■制度の概要
キャリアアップ助成金には、7つのコースが存在します。まずは、コースの種類や、助成対象となるための要件、制度の特徴などを紹介します。
・コースの種類
キャリアアップ助成金で設定されているコースは、以下の7種類です。
① 正社員化コース
② 賃金規定等改定コース
③ 健康診断制度コース
④ 賃金規定等共通化コース
⑤ 諸手当制度共通化コース
⑥ 選択的適用拡大導入時処遇改善コース
⑦ 短時間労働者労働時間延長コース
なお、助成制度を利用するためには全コースに共通する「支給対象事業主の要件」を満たさなければなりません。また、企業の規模や労働生産性の伸び率によっては、助成額を多く受け取れるケースもあります。
⑥選択的適用拡大導入時処遇改善コースについて
続いて、各コースの具体的な内容を見ていきましょう。まずは、選択的適用拡大導入時処遇改善コースについて紹介します。
■コースの概要と要件
選択的適用拡大導入時処遇改善コースは、対象となる非正規雇用労働者を労使合意に基づく「社会保険の適用拡大」によって新たに被保険者とし、さらに基本給を増額した場合に受けられる助成です。
■対象となる労働者・事業主
選択的適用拡大導入時処遇改善コースの助成対象となるためには、労働者、事業主それぞれが一定の条件を満たしていなければなりません。
【労働者側の条件】
・支給対象事業主に雇用されている有期契約労働者等であること
・社会保険の適用を拡大した上で、基本給を増額した日の前日から過去3か月以上継続して雇用されていたこと
・社会保険の適用を拡大した上で、基本給を増額した日の前日から過去3か月間、社会保険の適用要件を満たしていなかったこと
・事業主または取締役の3親等以内の親族ではないこと
・支給申請日において離職していないこと
【事業主側の条件】
・労使合意に基づいて社会保険の適用拡大の措置を実施していること
・新たに社会保険の被保険者とした非正規雇用労働者の基本給を増額し、かつ、定額で支給されている諸手当を減額していないこと
・新たに社会保険の被保険者とした非正規雇用労働者の基本給を、社会保険の適用拡大前の基本給と比べて3%以上増額していること
・新たに社会保険の被保険者となった非正規雇用労働者を措置適用後6か月以上継続して雇用し、増額後の賃金6か月分を支給していること
・社会保険の適用拡大以降、新たに社会保険の被保険者とした非正規雇用労働者を雇用保険および社会保険の被保険者として適用させていること
・社会保険加入状況と基本給を明確にした雇用契約書等を作成、交付していること
・生産性要件を満たした場合の支給額を申請する場合は、生産性要件を満たしていること
■助成金の支給額
選択的適用拡大導入時処遇改善コースの助成額は、基本給の増額割合によって次のように変化します(2020年3月31日までの暫定措置)。対象となる非正規雇用労働者が複数で、基本給の増額割合がそれぞれ異なる場合は、最も低い増額割合の支給額が適用されます。なお、支給申請の上限回数は1事業所につき1回のみ、支給申請上限人数は45人までとなっています。*1出典:厚生労働省「キャリアアップ助成金のご案内」を加工 https://www.mhlw.go.jp/content/11650000/000616643.pdf
■申請の流れ
選択的適用拡大導入時処遇改善コースを申請する場合、次のような順序で準備を進める必要があります。
①キャリアアップ計画の作成、提出
②労使合意に基づく社会保険の適用拡大措置により、対象となる非正規雇用労働者を新たに被保険者とし、基本給を増額
③増額した賃金を6か月分支払った日の翌日から2か月以内に助成金支給を申請
④審査、支給決定
⑦短時間労働者労働時間延長コースについて
続いて、短時間労働者労働時間延長コースについて紹介します。
■コースの概要と要件
短時間労働者労働時間延長コースは、対象となる非正規雇用労働者の週所定労働時間を延長した場合に受けられる助成です。具体的には、「週所定労働時間を5時間以上延長した場合」もしくは、「1時間以上5時間未満延長するとともに、手取り収入が減少しないように賃金に関する処遇の改善を図った場合」に申請できます。賃金に関する処遇の改善については、キャリアアップ助成金の『賃金規定等改定コース』もしくは『選択的適用拡大導入時処遇改善コース』の要件を満たす必要があるため、これらのコースより申請のハードルは高いですが、その分助成額も高く設定されています。また、それぞれのコースの要件を満たす限り、コースごとに助成金を申請することもできます。賃金と合わせて労働時間の延長も実施できるのであれば、こちらのコースを申請すると良いでしょう。
■対象となる労働者・事業主
短時間労働者労働時間延長コースの対象となるために必要となる、労働者、事業主それぞれの条件は、以下の通りです。
【労働者側の条件】
・①〜⑤のいずれかに該当していること
①週所定労働時間を5時間以上延長した日の前日から過去6か月以上継続して有期契約労働者等として雇用された者
②週所定労働時間を1時間以上2時間未満延長した日の前日から過去6か月以上継続して有期契約労働者等として雇用された者であり、かつ週所定労働時間の延長後の基本給が延長前より13%以上昇給している者
③週所定労働時間を2時間以上3時間未満延長した日の前日から過去6か月以上継続して有期契約労働者等として雇用された者であり、かつ週所定労働時間の延長後の基本給が延長前より8%以上昇給している者
④週所定労働時間を3時間以上4時間未満延長した日の前日から過去6か月以上継続して有期契約労働者等として雇用された者であり、かつ週所定労働時間の延長後の基本給が延長前より3%以上昇給している者
⑤週所定労働時間を4時間以上5時間未満延長した日の前日から過去6か月以上継続して有期契約労働者等として雇用された者であり、かつ週所定労働時間の延長後の基本給が延長前より2%以上昇給している者
・支給対象事業主に雇用されている有期契約労働者等であること
・週所定労働時間を延長した日の前日から過去6か月間、社会保険の適用要件を満たしていなかったこと
・事業主または取締役の3親等以内の親族ではないこと
・支給申請日において離職していないこと
【事業主側の条件】
・雇用する有期契約労働者等について、「週所定労働時間を5時間以上延長」または「週所定労働時間を1時間以上5時間未満延長するとともに、『賃金規定等改定コース』もしくは『選択的適用拡大導入時処遇改善コース』の実施による処遇の改善」を図っていること
・週所定労働時間を延長した日以降の期間について、当該労働者を雇用保険および社会保険の被保険者として適用させていること
・新たに社会保険の被保険者となった非正規雇用労働者を延長後6か月以上継続して雇用し、増額後の賃金6か月分を支給していること
・週所定労働時間および社会保険加入状況と基本給を明確にした雇用契約書等を作成、交付していること
・生産性要件を満たした場合の支給額を申請する場合は、生産性要件を満たしていること
■助成金の支給額
短時間労働者労働時間延長コースの助成額は、以下の通りです。支給申請の上限人数は2020年3月31日まで緩和されており、1年につき1事業所当たり45人までとなっています。
・支給額例*1
週所定労働時間を5時間以上延長した場合
延長後6か月の週所定労働時間と、延長前6か月の週当たりの平均実労働時間の差が5時間以上である場合、以下の支給額が支払われます。なお、2020年3月31日までは、支給額が増額されています。
出典:厚生労働省「キャリアアップ助成金のご案内」を加工 https://www.mhlw.go.jp/content/11650000/000616643.pdf
手取り収入が減少しないように、週所定労働時間を1時間以上5時間未満延長するとともに、賃金に関する処遇の改善を図った場合
延長後6か月の週所定労働時間と、延長前6か月の週当たりの平均実労働時間の差が、1時間以上5時間未満である場合は、以下の支給額となります。この助成制度は、2020年3月31日までの暫定措置となっています。
なお、収入が減少していないかどうかの目安として、以下の基本給の上昇率を満たしていれば、手取り収入が減少していないとみなされます。
・週所定労働時間の延長時間数が「1時間以上2時間未満」の場合、13%以上昇給
・週所定労働時間の延長時間数が「2時間以上3時間未満」の場合、8%以上昇給
・週所定労働時間の延長時間数が「3時間以上4時間未満」の場合、3%以上昇給
・週所定労働時間の延長時間数が「4時間以上5時間未満」の場合、2%以上昇給
■申請の流れ
短時間労働者労働時間延長コースを申請する場合、次のような順序で準備を進めましょう。
①キャリアアップ計画の作成、提出
②週所定労働時間の延長を実施
③週所定労働時間の延長後6か月分の賃金を支払った後、最終の支払い日の翌日から2か月以内に助成金支給を申請
④審査、支給決定
まとめ
キャリアアップ助成金には今回ご紹介したように、賃金や手当を正社員と一律化していなくても、非正規雇用労働者に対する待遇改善の度合いによって助成が受けられるコースが存在します。ただし、労働時間を延長するコースの実施は、扶養内で働きたい非正規雇用労働者にとっては離職理由になりかねないなど、考慮が必要となる点もあります。どのコースが自社により適しているのかを考えた上で、申請を検討してくださいね。今回ご紹介した「選択的適用拡大導入時処遇改善コース」「短時間労働者労働時間延長コース」以外の5コースについては、他の記事で詳しく紹介しているので、ぜひそちらもチェックしてみてください。
<参考>
※1厚生労働省「キャリアアップ助成金のご案内」
https://www.mhlw.go.jp/content/11650000/000616643.pdf
<取材協力・監修>
溝手社会保険労務士事務所
https://moshparty26.wixsite.com/mizotesroffice
社会保険労務士 溝手 康暖(みぞて やすはる)氏
この記事を読んだ人におすすめ!
【キャリアアップ助成金解説①】正社員化コース・賃金規定等改定コース解説
【キャリアアップ助成金解説②】 健康診断制度コース・賃金規定等共通化コース・諸手当制度共通化コース
マイナビバイト掲載のご依頼や採用に関するお悩み、お気軽にご連絡ください!
「マイナビバイトの掲載料金が知りたい」「掲載の流れを知りたい」とお考えの採用担当者様は、ぜひ以下よりお問い合わせください。
マイナビバイトでは、求人掲載をお考えの方だけでなく、アルバイト・パート採用に関するお悩みをお持ちの方からのご相談も歓迎しております。私たちは、応募から採用・定着までをしっかり伴走し、貴社の課題解決に寄り添います。
マイナビバイトに問い合わせる(無料)
電話番号:0120-887-515(受付時間 9:30~18:00)
さらに、料金表・サービスの概要・掲載プラン・機能紹介などを詳しくまとめたサービス資料もご用意しています。
「まずは資料を見てみたい」という方は、下記リンクから無料でダウンロードいただけます。
マイナビバイトは、貴社の採用活動を全力でサポートいたします。ぜひこの機会にお問い合わせください。