2020年4月から始まった同一労働同一賃金。(中小企業は2021年4月~)正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間にある、不合理な待遇差を禁止する制度です。パート・アルバイトを含む非正規のスタッフを雇用する企業・店舗側が、格差是正に向けてさまざまな対策をおこなっています。そもそも、なぜ同一労働同一賃金の制度が実施されるのでしょうか? その背景と解決すべき課題を押さえておきましょう。
同一労働同一賃金制度の概要は、こちらをご覧ください。
目次
正規雇用と非正規雇用の推移
同一労働同一賃金が施行される理由の一つに、「非正規雇用労働者の増加」があります。その背景を総務省が公表するデータをもとに詳しく解説します。
出典:1999年までは総務省「労働力調査(特別調査)」(2月調査)、
2004年以降は「労働力調査(詳細集計)」(年平均)を加工
https://www.stat.go.jp/data/roudou/index.html
こちらは、正規雇用と非正規雇用者労働者の推移・割合をまとめたグラフです。
この結果を見ると、「非正規雇用」・「非正規雇用の割合」は年々増加傾向にあることがわかります。1984年から2019年の「非正規雇用」は、604万人から2,165万人へ急増しています。「非正規雇用の割合」は、15.3%から38.3%と、およそ35年で非正規雇用労働者・割合が約2倍以上増えています。
その一方で「正規雇用労働者」は、2014年以降から2019年まで若干の増加傾向が見られますが、どの年代を見ても大きな変動なく安定した推移になっています。このように、正規雇用・非正規雇用といった労働市場全体の人数が増えても、正規雇用ではなく非正規雇用だけが増加する背景があり同一労働同一賃金の施策が実施された要因の一つだと考えられます。
次は、非正規雇用の増加がもたらす影響と、同一労働同一賃金が実施された要因をさらに詳しく解説します。
非正規雇用は10人に1人が不本意に働いている?
非正規雇用として働く理由に、正規雇用の仕事がないために非正規雇用が不本意である人が多いことがわかりました。要因や背景を解説します。
出典:総務省「2019年 労働力調査(詳細集計)」(年平均)
https://www.stat.go.jp/data/roudou/index.html
こちらは、不本意に非正規雇用として働いている労働者の割合を年齢別にわけた表です。この結果を見ると、現職の雇用形態(非正規)についた主な理由が「正規の職員・従業員の仕事がないから」と回答した労働者が全体で11.6%に及んでおり、およそ10人に1人が不本意に非正規雇用として働いている結果だとわかります。
非正規雇用に不本意だと思う要因には、他にも非正規雇用の課題として挙げられる賃金格差の問題などがあります。*1 今後、非正規雇用の労働者が増加する一方で、賃金格差の改善が進まないと、日本の経済・社会構造全体を歪めてしまう危険性があると考えられています。非正規労働者の生活の安定や購買力を向上させ、経済全体の底上げを目指すためにも、不合理な待遇差の是正が必要とされているのです。非正規雇用における不合理な格差問題などの解決を目的に、同一労働同一賃金の制度が実施されました。
次章では、正規と非正規雇用の賃金格差について詳しく解説します。
正規と非正規雇用の賃金格差
非正規雇用労働者が不本意だと思う賃金格差について、実際にどれくらいの差があるのでしょうか? 労働者の各属性【正規雇用/非正規雇用/正規雇用(短時間)/非正規雇用(短時間)】の賃金カーブ(時給ベース)が得られました。項目ごとに詳細を解説していきます。
出典:厚生労働省「賃金構造基本統計調査」(平成30年)
1)賃金は平成30年6月分の所定内給与額
2)一般労働者の平均賃金は、所定内給与額を所定内実労働時間数で除した値
3)一般労働者:常用労働者のうち「短時間労働者」以外の者
4)短時間労働者:同一事業者の一般の労働者より1日の所定労働時間が短い又は1週の所定労働日数が少ない労働者
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/chinginkouzou.html
平均賃金(時給ベース)としては、一般労働者(常用労働者のうち短時間労働者以外)の正規雇用労働者は平均賃金が1,963円に対して、非正規雇用労働者は1,590円で373円の差があるとわかります。また、短時間労働者の正規雇用労働者は平均賃金が1,301円に対して、非正規雇用労働者は1,107円で194円の差がある結果になりました。
さらに年齢別でみると55~59歳が最も格差が大きく、正規雇用の2,440円と非正規雇用の1,273円と比べ、その差は1,167円までひらいています。実労働内容が同じであっても雇用形態の違いで賃金格差がある場合は、不合理な賃金・待遇差だとみなされます。雇用形態が異なることを理由とした不合理な賃金・待遇差の解消を目的に、同一労働同一賃金の考えが強化されたと言えるでしょう。
まとめ
同一労働同一賃金の制度が実施される背景と解決すべき課題について紹介しました。まず背景として非正規雇用労働者の増加があげられます。しかし、非正規雇用で働く方のおよそ10人に1人は、正規雇用で働けないことを理由に、不本意に働く方が多い現状です。
この非正規雇用において、雇用の不安定性や、不合理な賃金・待遇差が課題と言えるでしょう。同一労働同一賃金では、実労働が同じであっても雇用形態を理由とした格差の是正・解消を目的に実施されます。正規雇用・非正規雇用の賃金・待遇面に問題がないか、今一度、自社の状況をチェックしましょう。
<参考>
※1:厚生労働省 (「非正規雇用」の現状と課題)
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11650000-Shokugyouanteikyokuhakenyukiroudoutaisakubu/0000120286.pdf
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