人手不足が深刻な昨今、どの業界においても働き手の確保が重要な課題です。若年層に絞った採用活動が厳しくなっているだけでなく、2021年4月には「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」の一部が改正され、雇用主は70歳までの就業機会を確保するよう努力義務が課せられました。
「人生100年時代」といわれる現代においては、40~50代のミドルシニアや60代以上のシニア世代のアルバイトも貴重な戦力となりえます。とはいえ、ミドルシニア以上の世代の場合、年齢に伴う健康や体力の衰えなどによる、勤務中のリスクがあるのも事実。さまざまな要因を考慮して採用をためらってしまう現場もあるでしょう。ではどのようにすれば、採用側もミドルシニアのアルバイトの方も安心して働ける環境を整えることができるのでしょうか。
今回は、ミドルシニアのアルバイト採用の現状や雇用するメリットを紹介します。また、厚生労働省の「エイジフレンドリーガイドライン」(高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン)をもとに、ミドルシニアを採用するリスクと備えておくべき労災対策、先進企業の実例についても詳しく解説します。
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目次
ミドルシニアのアルバイト採用の現状
ミドルシニア層がもたらすメリット
勤務日数・平均勤務時間が長め
10~20代と比較して早期離職経験率が低い
学びなおし(リスキリング)実施率が過去最大
労災とは何か
業務災害と通勤災害の違い
労災が発生してしまった場合の影響
ミドルシニア層以上の雇用者増加による労災発生率
労災対策の重要性
ミドルシニアを雇う際の労災対策
まとめ
ミドルシニアのアルバイト採用の現状
ミドルシニア層のアルバイトの状況を知るため、マイナビで実施したアンケート調査「ミドルシニア/シニア層のアルバイト調査(2024年)」から、「経済的にゆとりがあるか」という調査項目の回答結果を見てみましょう。
引用)マイナビ「ミドルシニア/シニア層のアルバイト調査(2024年)」図1
現在アルバイトとして就業しているミドルシニア、シニア層のうち、経済的に「あまりゆとりがない」「全くゆとりがない」と回答した方は、ミドルシニア層で66.2%、シニア層で48.2%でした。前者だと過半数、後者でも約半数を占める方が、経済的な理由によりアルバイト就労を実施していることがうかがえます。
また、平均年収額と希望年収額には平均して約24.1万円の差があり、実際にアルバイトをしている方でも「今より収入を増やしたい」と考えていることが分かります。
引用)マイナビ「ミドルシニア/シニア層のアルバイト調査(2024年)」図2
ミドルシニア層がもたらすメリット
ミドルシニア層をアルバイトとして採用することには、若手のアルバイトと比較してメリットもあります。マイナビで実施した「アルバイト就業者調査(2024年)」における「就業実態一覧」の結果をご覧ください。
引用)マイナビ「アルバイト就業者調査(2024年)」P.6
この内容から、平均勤務日数と勤務時間が若年層より比較的長いことや早期離職経験率が低いこと、2つ以上アルバイトをしている掛け持ち率が低いことなど、3つのメリットが読み解けます。それぞれ詳しく説明します。
勤務日数・平均勤務時間が長め
10代、20代の平均勤務日数が3.0~3.8日、平均勤務時間が4.5~5.5時間であるのに対し、40代、50代では前者が4.1~4.2日、後者が5.5~5.6時間と、より長く勤務している実態があります。掛け持ち率は10代、20代では20.5~23.9%とおよそ5人に1人はアルバイトの掛け持ちをしているのに対し、40代、50代では10.0~11.4%と10人に1人程度しか掛け持ちをしている人がいません。そのため、ミドルシニア世代のアルバイトの方が、シフト組みや勤務調整をしやすい傾向があるといえそうです。
10~20代と比較して早期離職経験率が低い
早期離職経験率は、10代、20代では平均13.4~15.0%の人が直近3年間に離職しているのに対し、40代、50代では6.0~6.6%と約半数以下にとどまります。
これは、年齢に伴って仕事探しが難しくなることや、若年層と比較するとライフステージが変化しにくく、安定して長く働きたいと考える人が多いことにも関係しているでしょう。
このことから、早期離職率が低いミドルシニア世代は、離職率の低下による採用コストの削減やスタッフの定着率向上への寄与が期待できます。
学びなおし(リスキリング)実施率が過去最大
マイナビの調査によると、ミドルシニア層・シニア層の学びなおし(リスキリング)実施率は19.3%でした。また「まだ取り組んではいないものの、必要性を感じている」と回答した人も、全体の43.4%に上りました。
学びなおしが必要だと思う理由としては「仕事の幅を広げたい」「収入の確保」「将来への不安」「現在の仕事に生かす」などが多く挙げられていました。ミドルシニア層・シニア層は特に、自身のスキルを向上させることで担当できる仕事の種類を増やしたり、給料アップにつなげたり、業務の選択肢を広げたりしたいという考えを持つケースが多く、リスキリングに意欲的な人が増えている様子がうかがえます。
引用)マイナビ「ミドルシニア/シニア層のアルバイト調査(2024年)」P.13
こうした意欲のあるミドルシニア・シニア層をアルバイトとして採用し、企業内でも積極的にリスキリングの取り組みや働きかけを行っていくことで、企業のさらなる利益につながっていく可能性があります。
ただ、最初に記載した通り、年齢的な理由からミドルシニア・シニア層の労災が増えていることも事実です。
労災とは何か
そもそも労災とは「労働災害」の略称です。正社員・アルバイトといった勤務形態にかかわらず、労働に関連する状況において被るけがや病気などが含まれます。
勤務中に事故に遭ったり、疾病にかかったりした場合などは、労災と認定される可能性が高いです。また、通勤中に負傷した場合なども、労災と認定されるケースがあります。
「労働者災害補償保険」(労災保険)は、労働者を雇う事業主に加入義務がある保険。パート・アルバイトを含め1人以上雇用するのであれば、たとえ1日だけであっても加入しなければならない強制保険です。
労災の対象となる具体例としては、建設現場での事故、工場での機械による負傷、オフィスでの過労による疾患、または通勤中の交通事故などが挙げられます。さらに、近年では、過労死や職場のストレスによる精神的な疾患の労災も増加しています。
業務災害と通勤災害の違い
労災保険の適用対象となるのは、業務災害と通勤災害の2種類があります。いずれも労災保険の適用対象ですが、発生する場面や状況が異なります。
業務災害とは、業務上の事由による労働者の負傷、疾病、障害又は死亡(以下「傷病等」という)のことを指します。労働者が職場での作業中や仕事に関連した行動をしている最中に生じる傷病等が該当します。
一方、通勤災害とは、労働者が就業場所間の移動中などに発生した、事故などによる傷病等を指します。仕事を開始するために自宅から職場まで通勤したり、仕事を終えて自宅に帰ったりする途中などで発生する災害が対象です。
例えば、工場などでの作業中に発生した機械によるけがや、飲食店などでの火傷、勤務中の転倒による骨折、上司からのハラスメントによる精神障害の発症などは「業務災害」にあたります。一方、通勤中の電車・バスでの事故は「通勤災害」という扱いです。ただし、業務終了後に飲み屋に行ってふらふらになるくらい酔っ払った労働者が、その帰りに怪我をした場合、飲み屋に入った時点で通勤経路からの逸脱・中断となってしまい、労災として認定されないこともあります。
労災が発生してしまった場合の影響
万が一労災が発生してしまった場合、第一に、被災者の救護や指定病院への搬送、救急車の手配、被災者家族への連絡といった緊急対応が必要になります。
重大な労災が発生した場合には、警察や所轄の労働基準監督署にも通報し、今後のとるべき措置についての指示を仰ぐことも必要になります。また、警察や労働基準監督署による現場検証や事情聴取が行われることもあります。
それ以外に、労働基準監督署により、勤務実態や安全対策などについての立ち入り調査が行われることもあります。
これらの対応を行う際は、業務が一時的に停止したり、再発防止策を講じるために業務が遅延したりすることがあります。さらに、労働基準監督署の調査後に法律違反があれば是正勧告や指導票の交付がなされ、これに基づく是正や報告も必要になります。
このように、さまざまな対応が強いられることもありますので、職場の混乱が避けられず、他のスタッフのモチベーションの低下や精神的な負担となってしまう可能性もあります。
また、死亡した場合や後遺症が残る重大な事故の場合、報道による企業イメージ・評判への影響のほか、これに伴う株価の下落や採用への影響などがあることも考慮しなければなりません。
ミドルシニア層以上の雇用者増加による労災発生率
厚生労働省の調査によれば、令和5(2023)年の雇用者6,076万人のうち、60歳以上の雇用者は1,138万人で約18.7%にあたります。平成15(2003)年以降、60歳以上の雇用者は年々増加傾向を示しています。
引用)厚生労働省 労働基準局 安全衛生部安全課「令和5年 高年齢労働者の労働災害発生状況」P.2
労働災害による死傷者数のグラフを見ると、2003年から2023年までで、全体の死傷者数は11~14万人未満で推移しており、大きな変化はみられません。その一方で、60歳以上が占める割合は2023年では29.3%にのぼり、2003年と比較すると約2倍近くにまで増えていることが分かります。
つまり、シニア層の労働災害を未然に防ぐことは多くの企業の課題であり、全体の労働災害を減らす鍵にもなります。
労災対策の重要性
労災が発生した場合、治療にかかる医療費は労災保険から支払われます。しかしながら、業務上必要な安全対策を企業が怠ったと判断され、安全配慮義務違反や注意義務違反に問われた場合には、労災保険での給付以外に多額の損害賠償が必要となるケースもあります。また、労働安全衛生法違反や業務上過失致死傷罪などの刑事罰に問われるリスクがあり、業種によっては行政処分や入札の指名停止処分を受けるリスクも考慮しなければなりません。
また、重篤な労災ではなくても、労働者がけがや疾病で休業を余儀なくされると、その期間の労働力の喪失、他の従業員へのしわ寄せなど職場への影響は大きくなります。
年齢別にみた労働災害の発生率(死傷年千人率)は30~34歳で最も低く、その後年齢に伴って上昇傾向がみられます。男女別では30代と比較して60歳以上の男性は約2倍、女性は約4倍とリスクが高まる傾向があります。
引用)厚生労働省 労働基準局 安全衛生部安全課「令和5年 高年齢労働者の労働災害発生状況」P.3
なお、休業見込み期間は年齢と比例して長期化する傾向があります。労災を未然に防ぐことはどの年代においても必要ですが、とりわけミドルシニア・シニア世代を雇用する場合には、年齢に合った安全対策や健康管理の対策を講じていくことが重要です。
ミドルシニアを雇う際の労災対策
ミドルシニア・シニア世代の労働災害として多いものには、墜落や転落、転倒による骨折、動作の反動・無理な動作による事故があります。
引用)厚生労働省「令和5年 高年齢労働者の労働災害発生状況」P.4
ミドルシニア・シニア層がアルバイトをしている経済的な背景を考慮すると、実際に勤務を開始してからも多少の体調不良を申告せずに勤務してしまったり、体調面の不安があっても仕事がなくなることを恐れて相談しなかったりするというケースがあるかもしれません。
そのような些細な不調も勤務中の大きな事故につながってしまう可能性があるため、注意が必要です。では、ミドルシニア・シニア層の安全面や健康面に配慮するため、企業はどのような対策を行うことが必要なのでしょうか。
エイジフレンドリーガイドラインに基づいた対策
2020年に厚生労働省は「エイジフレンドリーガイドライン(高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン)」を策定しています。これは、高齢者を雇用する(今後雇用する場合も含む)事業者と労働者自身に求められる取り組みを、具体的に示したものです。本ガイドラインには、事業者が「安全衛生管理体制の確立」「職場環境の改善」「高年齢労働者の健康や体力の状況の把握」「高年齢労働者の健康や体力の状況に応じた対応」「安全衛生教育」について明記されています。これらを参考に、職場環境や安全対策を作っていくことが重要になります。また、国や関係団体等による支援も活用して、実施可能な労働災害防止対策に積極的に取り組めるよう、必要な情報が掲載されています。本ガイドラインを参考に、自社でどのような安全対策が行えるのか検討しましょう。
予防対策 | 具体例 |
身体機能を補う 設備・装置の導入 | ・照明を明るくする ・階段の手すり設置や段差を小さくする ・作業台の高さの調整 ・通気性の良い作業服や水分補給の推奨で熱中症予防 ・防滑靴の導入 ・標識等の注意喚起 ・水分・油分など転倒原因となるものの速やかな除去を徹底する など |
メンタルへルス対策 | ストレスチェックの実施、カウンセラーの設置など |
健康維持と体調管理 | 作業前の体調チェック、無理をしない勤務形態や勤務時間(短時間勤務、隔日勤務、交替制勤務等)環境づくり |
運動習慣、食習慣等の生活習慣の見直し | 健康診断の実施、保健や生活指導等の実施 体力チェックにより適切な作業への配置換え |
体力づくりの自発的な取組の促進 | 定期的な運動習慣の取り組み 体力づくりを促進する働きかけ |
参考)厚生労働省「エイジフレンドリーガイドライン(高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン)」より抜粋して作成
まとめ
ミドルシニア層のアルバイトの活用は、スタッフの定着率向上や人手不足の解消の面から、企業にとって大きなメリットです。年齢に伴うリスクを雇用側・企業側の双方が認識し、安全第一の対策をとって労災を減らす意識が求められています。
働くミドルシニア世代は自己過信せず、無理な作業や危険な作業を避け、安全策をとって業務にあたることが大切です。そのために、企業には作業手順の改善や機器の導入、若年層スタッフとの連携などの設備面・環境面を整えることが求められています。
このような安全対策は、ミドルシニア層だけでなく同じ職場で勤務する全てのスタッフの安全にも有益であり、長い目でみて企業の継続的な成長に貢献することでしょう。
今後、ミドルシニア世代のアルバイト採用をご検討中の採用ご担当者様は「マイナビミドルシニア」をぜひご活用ください。
監修者情報
弁護士法人C-ens法律事務所代表/弁護士
森崎 秀昭 氏
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経歴
2005年に立教大学法学部法学科を卒業後、2007年10月に司法試験に合格。司法研修所や都内企業法務系法律事務所などでの勤務を経て、2014年3月にはC-ens法律事務所を設立し、代表弁護士となる。個人向け業務の他、法人向け業務として企業顧問契約や人事労務サービス、コンサルティングサービスの提供などを行っている。また、特にスポーツ・エンターテインメント業界、IT業界の仕事を得意としており、経営者が実際に判断できるように、現場の従業員が行動できるようにという、現場レベルでの対応についてまでアドバイスやサポートを行っている。
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