人材育成・マネジメント
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アフターコロナを生き抜く為に経営者が知っておきたい雇用維持対策 「一時帰休」の活用法

多くの企業やビジネスにダメージが及んでいる、新型コロナウイルス騒動。
倒産や失業者の増加を食い止めるため、政府や自治体が資金繰り支援策を講じ、労働者に対する休業補償の基準を緩和するなど、各種対応に奔走する日々です。
しかし、手続きの煩雑さや入金までに時間がかかることがネックとなり、後手に回っている感が否めません。

企業としても、経営方針の修正や経費の見直しなど、コロナ禍を乗り切る方法を模索しています。
なかでも、営業自粛を要請された地域や業種では、人件費の削減に苦慮しています。
最速のコストカットの方法といえば解雇ですが、パンデミック後の企業経営を考えると、この方法はナンセンスといえます。
そのため、多くの企業が「労働者を休業させる」ことで、人件費の抑制を図っています。

 

目次

一時帰休とは

海外での「一時帰休」と「一時解雇(レイオフ)」は一般的?

一時帰休で支払う休業手当は「助成金」とセット

アフターコロナを見据えた雇用維持が重要

一時帰休とは

長引く自粛要請などにより経営が困難となり、労働者を一時的に休業(以下、「一時帰休」といいます)させる企業が増加しています。
一時帰休は法律上
「使用者の責に帰すべき事由による休業(労基法第26条)」
にあたり、労働者に休業はさせるものの、雇用関係は継続されます。
そのため、平均賃金の60/100以上の休業手当を支払わなければなりません(同法同条)。

平均賃金の算定方法は、原則、
「平均賃金を算出すべき事由の発生した日以前3ヶ月間に、その労働者に対し支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で除した金額」
となります⋆1。
実際の計算の流れは図1のようになります。


図1:厚生労働省/大阪労働局(平均賃金の計算)平均賃金の算定方法
https://jsite.mhlw.go.jp/osaka-roudoukyoku/var/rev0/0109/4772/280823-1.pdf

しかし、アルバイトなど労働日数に変動がある場合は、上記原則の「総日数」を「労働日数」と置き換えて算出した金額の60%が最低保障となります(図2)。

図2:厚生労働省/大阪労働局(平均賃金の計算)平均賃金の算定方法
https://jsite.mhlw.go.jp/osaka-roudoukyoku/var/rev0/0109/4772/280823-1.pdf

そして、算定された平均賃金×休業日数×60/100で得られた金額が「休業手当」となります。

本来、雇用契約が成立すると、
「労働者は労働に従事し、使用者はこれに対して報酬を与える(民法第623条)」
という、ノーワーク・ノーペイが原則となります。
しかし、労働に従事しない一時帰休期間にも、賃金(休業手当)を支払うということは、労働者の最低限の生活を保障する目的があります。

労働者を解雇するのではなく、一時帰休で雇用を維持させることは、重要な経営資源である「ヒト」の確保が目的です。
アフターコロナでどのような組織、ビジネスを構築するのか、その明暗を分けるのは「ヒト」といっても過言ではありません。

そのためにも、解雇ではなく一時帰休で雇用の維持を行うことは、企業の未来を左右する経営判断となるでしょう。

海外での「一時帰休」と「一時解雇(レイオフ)」は一般的?

実際、「一時帰休」という言葉を知っている人、さらに意味を知っているという人は、少ないかもしれません。
日本では聞きなれない一時帰休ですが、海外では意外と一般的に行われています。

筆者の顧問先のカナダ企業は、3月から一時帰休に入っています。
CEOはこの休業期間について、
「新型コロナウイルスのパンデミックが収束した際に、社員に忙しく働いてもらうためのリフレッシュ期間に充てる」
と考えています。

日本では、一時帰休は「解雇手前の苦肉の策」という、ネガティブなイメージになりがちですが、カナダ人CEOの非常に前向きな発言に、驚きつつも感銘を受けました。
一時帰休の頻度が多い、カナダならではの考え方でもあるでしょう。

カナダでは、一時帰休と似た制度で「一時解雇」があります。
「Layoff(レイオフ)」と呼ばれるこの制度は、「再雇用を前提とした一時解雇」を意味します。
製造業で工場閉鎖に伴い労働者をレイオフ、M&Aで買収された側の企業の労働者をレイオフ、ダウンサイジングの目的でレイオフなど、企業側の都合で一時解雇をする場合がほとんどです。
また、再雇用が前提のため、企業の経営状況が改善された際には、元に戻ることができます。

海外企業は人員削減にシビアです。
業績悪化を知ると、だれもがレイオフを覚悟します。
そして、レイオフを告げられた労働者は、比較的冷静に受け止め、早期に次のキャリアへ進みます。
この点は、日本における「当然の労働者保護」の感覚と大きな隔たりがあります。

 

一時帰休で支払う休業手当は「助成金」とセット

話を日本に戻します。
厚生労働省は一時帰休について、
「地震や災害などの不可抗力による場合を除き、資材が集まらなかったために作業が出来なかった場合や、機械の故障により休業せざるをえなかった場合など、会社都合による休業*2」
という見解を示しています。

新型コロナウイルスによる休業が「使用者の責に帰すべき事由」なのかどうか、個人的には疑問を感じています。
しかし、今後の事業再開を考えると雇用の維持は必要なため、一時帰休はやむを得ないでしょう。
そんなとき、「雇用調整助成金」の活用が有効です。

雇用調整助成金は、景気の変動、産業構造の変化その他の経済上の理由により、事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が、一時的な雇用調整(休業、教育訓練または出向)を実施することによって、従業員の雇用を維持した場合に助成される制度です*3。

過去には、東日本大震災やリーマンショック時に、雇用調整助成金の認知度が上がりました。
そして今回、度重なる特例措置の拡充により、申請書類や算定方法が大幅に簡略化されました(図3)。


図3:厚生労働省/雇用調整助成金ガイドブック(簡易版)p1
https://www.mhlw.go.jp/content/000625731.pdf

さらに令和2年5月1日時点の状況では、長期にわたる休業が予想されるなか、支払能力に乏しい企業へ配慮するかたちで、緊急対応期間中の特例が発表されました*4。

おもな特例措置は2点で、一つは「一定要件のもと、休業手当全体の助成率を100%にする」です。
一定要件に該当しない場合でも、支払率が60%を超える部分の助成率を100%とするなど、労働者の生活のさらなる安定確保が図られました(図4)。


図4:厚生労働省/雇用調整助成金の特例を更に拡充します(R2.5.1発表)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/pageL07.html

ただし、現行では労働者1人あたり8,330円/日が上限のため、必ずしも「支払額の100%の助成」とはならない可能性があるので、注意が必要です。

もう一つは「生産指標の比較対象となる月の要件の緩和」です。
これまで、雇用調整助成金の計画届を提出する月の前月の生産指標(売上高または生産量等の事業活動を示す指標)と、前年同月の生産指標とを比較していました。
それが今回の緩和で、
「前年同月と適切な比較ができない場合は、前々年同月や、前年同月から12か月のうち適切な1か月との比較」
が可能となりました*4。

また、過去の雇用調整助成金は「雇用保険被保険者の休業」が要件でしたが、今回のコロナでは、雇用保険被保険者ではない労働者(週20時間未満の労働時間で働く人や学生)でも、休業手当が支払われていれば、助成の対象となります(緊急雇用安定助成金)。

ただし、この制度はさらに以下のような、新たな措置が発表される予定です。
「助成額と平均賃金額の算定方法の大幅な簡略化」
「休業等計画届の提出不要」
随時、状況確認のうえ、手続きを進める必要があるのでご注意ください。

 

アフターコロナを見据えた雇用維持が重要

経営資源の有効活用、そして適切な投資により、企業は成長します。
先にも触れました、最も重要な経営資源である「ヒト」の管理と投資は、とくに長期的な視点で検討する必要があります。

労働者の募集、採用、育成、定着までに費やす時間、資金、労力を鑑みると、いま在籍する労働者の雇用を維持することは、アフターコロナのスタートに大きく影響します。
そのためにも、一時帰休による雇用継続は必要不可欠です。

しかし、一時帰休中の休業手当を支払うには、手元のキャッシュが必要です。
加えて、雇用調整助成金が受給できるまでに、数か月から半年程度かかる可能性があります。
それまでの運転資金を確保するためにも、日本政策金融公庫や商工中金、民間金融機関による実質無利子無担保融資の利用なども、併せて検討するといいでしょう。

人的資源の確保、つまり、現状での雇用を維持し続けるためにも、一時帰休と雇用調整助成金をセットで活用し、アフターコロナの新たな企業活動に備えましょう。

*1参考:厚生労働省/大阪労働局(平均賃金の計算)
https://jsite.mhlw.go.jp/osaka-roudoukyoku/var/rev0/0109/4772/280823-1.pdf
*2参考:厚生労働省/労働基準法に関するQ&A(賃金)
https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/faq_kijyunhou_26.html
*3参考:厚生労働省/雇用調整助成金(概要)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/pageL07.html
*4参考:厚生労働省雇用調整助成金の特例措置を実施します
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_11128.html

 

特定社会保険労務士
浦辺里香 (うらべりか)
早稲田大学卒業後、日本財団、東京中日スポーツ新聞で勤務。社労士試験に合格後、事務所を開業し独立。その翌年、紛争解決手続代理業務試験に合格し、特定付記。

 

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