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コロナ禍が促進したサラリーマンの意外な副業|事業主も押さえたい様々なプラス効果とは

2020年前半は、新型コロナウイルスという未曾有の事態に翻弄され倒産や失業が相次ぎました。
しかし徐々にではありますが、新たな変化、新たな働き方もみえ始めています。

筆者は社労士(社会保険労務士)をしていますが、職業柄、多くの事業主や労働者と接する毎日を過ごしています。
その中で興味深い流れとして感じるのは「副業」を巡る変化についてです。

ネット上で仕事を受発注する「クラウドソーシング」大手のランサーズが2020年7~8月に行った調査によると、同社サイトで副業をする人のうち約3割が、「新型コロナ感染拡大が始まった2月以降に副業を始めた」と回答しました*1。

政府肝煎りの「働き方改革」で副業・兼業の促進が示されたこともあり、より多くの企業が副業解禁の方向へ進んでいる現れと言えるでしょう。

実際、大幅な収入アップにつながる副業を開始した人もいます。
「DX(デジタルトランスフォーメーション)プランナー」を副業として始めた、ある30代の会社員は、コロナ禍で在宅勤務となったことをきっかけに往復3時間の通勤時間を副業に充てました。
社内でDXプロジェクトに携わった経験をきっかけに始めたこの副業、収入は実に、月に約20万円にもなるそうです*2。

皮肉にも、働き方改革を大きく後押しするきっかけにもなったコロナ禍とビジネスパーソンのあり方。
今回はこの副業・兼業について、筆者の顧問先で経験したリアルな事例を紹介し、本業もプライベートも充実させる働き方について考えていきたいと思います。

目次

コロナの影響による「やむを得ない副業」

コロナの影響により「念願の夢が叶った副業」

事業主からの「副業のすすめ」

副業を理由に懲戒処分をする際の注意点

コロナの影響による「やむを得ない副業」

営業自粛要請の影響もあり、経営縮小を余儀なくされた顧問先のある飲食店のお話です。
雇用の維持に努める事業主は、雇用調整助成金など国からの補助を受けながら懸命に、労働者の賃金保障を続けました。

しかし、そんな現実を目の当たりにした労働者から、
「妻が仕事をクビになったので、僕がその分も働かないといけなくなった」
「社長の負担にならないよう、別の仕事も考えたい」
など、副業を希望する声が増えました。

副業については、具体的には「就業規則」に沿って判断するのが原則です。
就業規則は企業で働く上でのルールブックのことで、常時10人以上の労働者を使用する場合は使用者(事業主)が労働基準監督署へ届け出る義務があります(労働基準法第89条)。

ところが、届出は義務でも作成までは義務付けられていないため、10人未満の小さな企業では就業規則が存在しない場合もあります。
とは言えルールが明確であるほうが望ましいため、未作成の企業は早急に検討されることをお勧めします。

就業規則で「副業禁止」が規定されている場合、コロナ禍におけるやむを得ない副業に関しても禁止せざるを得ないため、まずは顧問先の就業規則のチェックに取り掛かりました。
そして該当条項について見直し、労働者の副業・兼業を認める内容に改めました。

副業は、現在の業務に支障が出ない範囲で認めるのが原則です。
そうは言うものの、生活を維持するために副業が必要不可欠な場合、労働時間が増加し身体的・精神的に負担となるケースも見られます。

また副業時の注意点として、メインの職場での労働時間と副業での労働時間を通算する必要があり、一日8時間週40時間の法定労働時間を超える場合は割増賃金の支払が必要です。
この時間管理は現実的に難しく、正確な労働時間の把握について課題が残るのが現状です。

しかし労働時間を通算しないケースもあります。
それは副業が「雇用」ではない場合、つまり、個人事業主やフリーランスとして副業をする場合は労働時間の通算はありません。

このような自営業による副業に関して、労働者と事業主の双方がwin-winとなった例があります。

コロナの影響により「念願の夢が叶った副業」

介護事業所で働くAさんの母は手相やタロット、四柱推命で収入を得ています。
幼いころから母の指導により四柱推命を学んだXさんは、いつか母のように人々に人生のヒントを与える仕事がしたいと考えていました。

勤務先はコロナ禍で利用者が減り、勤務シフトにも影響が出るなか、Xさんは思い切って副業の申し出をしました。
「こんな時だからこそ、人々の役に立ちたいし前へ進みたいんです」
彼女の強い意志を感じた社長は、無理のない範囲で副業を認めました。

Xさんの四柱推命はオンラインで行います。
勤務時間外に自宅でパソコンを使って鑑定するため、時間的負担や身体的負担もありません。

これまでも四柱推命やタロットを独学で学んでいた彼女は趣味が実益につながったことを喜び、鑑定の回数をこなすほどに自信をつけました。

介護業務と四柱推命との二本柱で新たな人生を切り拓くこととなったXさんを、社長も誇らしく思います。
「利用者からの評判も良いし、なんだか自信がついたみたいだね」
まさに会社も労働者も双方が望む結果となりました。

別の顧問先での話です。
Yさんは、プラモデルやジオラマ製作が趣味の土木作業員。
コロナの影響で現場作業が中止になるなど収入が減少する反面、自分の時間が増えました。
その時間を使って製作したプラモデルを大手玩具メーカーの展示会へ出典したことがきっかけで、なんと、プロモデラーのオファーを受けました。

嬉しい反面、副業禁止の会社に対してどのように承諾を得るべきか、昔かたぎの社長と膝を突き合わせて面談を行いました。
「俺も昔はプラモデルを作るのが上手いと言われた口だ、やれるところまでやってみろ」
社長の思わぬ後押しを受け、Yさんはプロモデラーという新たなキャリアをスタートさせました。

本職である土木作業員としての業務遂行、そして空き時間を使ってプラモデルを作るというダブルキャリアについてYさんは、
「夢が叶いました。社長への恩に報いるためにも、仕事は絶対に続けます」
と、気持ちの良い笑顔で答えてくれました。

 

事業主からの「副業のすすめ」

最後に、事業主から副業を勧めた珍しいケースを紹介します。
飲食店Zでは、希望するスタッフを「オンラインフードデリバリーサービス」に登録し、配送サービスの副業を提案しました。

これには理由があります。
自社の食事をデリバリーするにあたり、どのような課題があるのか、どのようなメリット・デメリットがあるのかを調査する目的で、スタッフの自薦により実現したものです。

また、将来独立を考えるシェフから、
「自分自身のノウハウ蓄積として、是非とも経験してみたい」
という熱い要望に応える形でもありました。

コロナの影響で労働時間が短縮されたことを逆手に取り、自社の関連事業となるフードデリバリーの副業を提案ーー

なかなか思いつくことではありません。
そして、そこで得られた経験やアイデアを今後の参考とする、一歩先を行く考えを打ち出した社長には脱帽です。

このように、これまでの副業とはまったく異なる「新たな副業」というキャリアの築き方が、新型コロナウイルスによって導き出されたのではないかと感じます。

 

副業を理由に懲戒処分をする際の注意点

副業・兼業はこれからのキャリア形成の主流となる働き方ではありますが、企業側として注意すべき点があります。

先述のとおり、副業の許可や禁止は就業規則に沿って判断することとなります。
そして就業規則に副業禁止の規定がある場合、形式的には副業を行ったことによる懲戒処分は可能ですが、「懲戒解雇」となると話は別です。

労働契約法第16条では、
「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」
と定めています。

有名な判例で、運送会社で勤務する労働者が行った副業に対して会社が懲戒解雇を言い渡したところ、その解雇は無効とされた「十和田運輸事件/東京地判平成13年6月5日」があります。

この判決のポイントは、
「原則として就業規則等の規定を前提として行う懲戒解雇であり、当該会社には周知された就業規則がなかったことから、従業員を懲戒処分はできなかったというべき」
とされ、懲戒解雇は無効とされました。

また、副業の回数が1、2回程度にすぎなかったこと、副業による会社の業務への具体的な支障はなかったこと、会社が黙認しているとの認識があったことなどから、労働者が職務専念義務に違反し、あるいは会社との信頼関係を破綻したとまではいうことができないとして、普通解雇としてみた場合でも無効であるとされました。

このように、副業禁止規定に反しただけでは解雇は認められず、
「会社の企業秩序を乱し、会社に対する労務の提供に格別の支障を来たす程度のものであることを要する(国際タクシー事件/福岡地判昭和59年1月20日)」
と考えられるため、形式上の違反だけでは労働契約法第16条で定める「解雇権の濫用」とされ、解雇は無効となるでしょう。

さらに別の観点から、
「労働者の心身の健康の確保やゆとりある生活の実現のために、法定労働時間が定められている」
という趣旨を踏まえると、副業・兼業を認めたがゆえに長時間労働とならないよう、事業主側が留意する必要もあります。

副業・兼業によるメリットを生かすためにも、企業の方針や運用についてこの機会に検討されてはいかがでしょうか。

 

 

 

*1参考:日本経済新聞電子版/コロナ下の副業ブーム 相次ぐ解禁、副業人材募る企業もhttps://www.nikkei.com/article/DGXMZO65479880W0A021C2000000
ランサーズ/在宅勤務推奨時における副業・複業者のサービス利用状況調査
https://www.lancers.co.jp/news/pr/19878/

*2参考:日経ビジネスオンライン/鍵は「リモート副業」コロナ禍で年収を240万円アップさせる方法
https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00215/121500008/

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浦辺里香(うらべりか)特定社会保険労務士、ブラジリアン柔術紫帯。
2020ヨーロピアン柔術選手権青帯フェザー級、無差別級優勝。
「活字離れのリハビリに、ちょうどいいコラム」を毎日公開中
https://uraberica.com

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