小売店・飲食店などの店舗や、商品の製造などを営む事業者にとっては、顧客のクレームに対し、どのように対応するのかが大きな問題の一つになります。
クレーム対応の際には、コスト・リターンの意識を持ち、事業者にとってメリットのある、被害を最小限に食い止められる選択肢をとることが大切です。
今回は、事業者が顧客からクレームを受けた際にとるべき対応について、法的な観点を踏まえつつ解説します。
目次
クレーム対応の方針を決める際の主な着眼点
「顧客のクレームには真摯に対応すべき」という言説は、常に正しいとは限りません。
事業者にとっては、真摯に対応する価値のあるクレームとそうでないクレームがあり、それぞれを見極めて適切に対応することが大切です。
顧客からのクレームが真摯に対応する価値のあるものかどうかは、主に以下の着眼点を意識して判断するとよいでしょう。
●クレーム顧客を繋ぎ留めたいかどうか
クレームを寄せてくる顧客が、事業主にとってどの程度重要な顧客であるかという点は、クレーム対応の方針決定において無視できない要素でしょう。
総売上に占める割合・付き合いの長さ・取引(来店)の頻度などを考慮して、その顧客を繋ぎ留めておく必要性が高いと判断すれば、できる限り顧客の言い分に配慮してクレーム対応を行うべきです。
逆に、そこまで重要ではない顧客については、正当なクレームには真摯に対応しつつ、要求が過剰になってきた場合には早めに見切りをつけることが合理的でしょう。
●他の顧客に対する波及効果
特定の顧客に対するクレーム対応は、時として他の顧客(または潜在顧客)に対して何らかの印象を与える可能性があります。
たとえば、クレーム対応を店舗の現場で行った場合には、現場にいた周囲の顧客が、クレーム対応の様子を観察しています。
また、近年ではSNSが普及していますので、クレーム対応の様子がSNSを通じて拡散され、幅広い顧客の知るところとなるケースも考えられるでしょう。
事業主がクレーム対応を行う際には、このようなクレームの主体以外の顧客(または潜在顧客)に対して与える印象も意識する必要があります。
その際大切になるのは、客観的に見てクレームに合理性があるかどうかを判断し、その判断に見合った対応を適切に行うことです。
クレームについて直接の当事者ではない顧客(または潜在顧客)からすると、正当なクレームを真摯に聞き入れ、業務の改善を図る事業者の姿勢は、ユーザーとして信頼に値します。
反対に、理不尽なクレームについては安易に受け入れず、毅然として対応する姿勢を見せることも、周囲の顧客(または潜在顧客)の信頼に繋がり得るでしょう。
クレーム対応の際、当事者ではない顧客(または潜在顧客)に対する波及効果を適切にコントロールするには、合理的なクレームとそうでないクレームの見極めが大切です。
●事業者が法的責任を負うかどうか
顧客から寄せられたクレームの内容が、事業者に損害賠償義務などの法的責任を生じさせかねない場合には、いっそう真摯にクレーム対応を行わなければなりません。
たとえば以下のような場合には、事業者に重大な法的責任が発生する可能性があります。
・商品等の不具合に起因して、顧客の生命、身体、財産に損害が生じている場合
・商品に共通して用いられる仕様に欠陥がある場合(リコールに発展する可能性あり)
・食品の衛生管理に不備が発覚した場合(潜在的な健康被害のリスクあり)
・他社の知的財産権を侵害している可能性がある場合
など
こうしたケースでは、直接のクレーム対応に加えて、法的責任を最小限に食い止めるための善後策と、再発防止対策を急ぎ検討することが大切です。
正当なクレームへの対処法
顧客のクレームが正当と思われる場合には、まず顧客に対して真摯な謝罪を行い、顧客が被った損害を回復するように努めましょう。
問題となった商品の返品・交換等に加えて、顧客が支出せざるを得なかった費用等についても、必要に応じて補償を行います。
また、問題の再発防止策を講じ、その内容を顧客に説明することも重要です。
特にクレームが重大である場合には、事案の概要と再発防止策の内容をホームページなどで公表し、誠実な顧客対応の姿勢を外部に表明することが、顧客全体の信頼回復に繋がります。
その一方で、たとえクレームが正当なものであっても、事業者が無制限に責任を負うべきということではありません。
基本的には法律に則って責任範囲を明確化しつつ、クレームの円滑な解決という観点からプラスアルファを許容するという姿勢が合理的でしょう。
事業者の責任範囲を適切に見極めることは難しいので、必要に応じて弁護士などにアドバイスを求めることも有効です。
理不尽・悪質なクレーマーへの対処法
クレームが理不尽・悪質であると考えられる場合、毅然とした態度でクレーマー顧客の要求を拒否しなければなりません。
具体的には、以下の各点に留意して対応しましょう。
●権限ある責任者が対応する
クレーマー顧客を増長させないためには、事業者として一貫した態度でクレームに対処することがポイントになります。
特に店舗等の場合、顧客に対して最初に接するのは現場スタッフであることが大半です。
しかし、クレームについて判断権限を持たない従業員では、対応に一貫性を欠き、後でクレーマー顧客から揚げ足をとられることにもなりかねません。
そのため、理不尽・悪質なクレーマー顧客であると判断した場合には、その時点で権限ある責任者に対応を引き継ぎましょう。
●要求を拒否する旨を明確に伝える
理不尽・悪質なクレーマー顧客は、事業者にとって繋ぎ留める必要のない顧客であり、他の顧客に対しても迷惑を与えかねない存在です。
速やかにクレーム対応を完結させ、日々の業務に注力するためにも、クレーマー顧客の要求は毅然として明確に拒否しましょう。
「善処します」「お詫び申し上げます」など、事業者の責任を認めたと受け取られかねない言葉は用いずに、きっぱり「対応いたしかねます」と断ることが大切です。
あまりにも要求がしつこい場合には、顧問弁護士から文書を送付するなどの対応も考えられます。
●悪質なケースでは威力業務妨害罪・不退去罪での告訴も検討
クレーマー顧客の要求があまりにも過剰な場合、「威力業務妨害罪」(刑法234条)での告訴も検討すべきです。
たとえば、クレーマー顧客が以下のような行動に出た場合は、威力業務妨害罪が成立する可能性があります。
・他の顧客が居合わせている場所で、大声で文句を言う
・従業員に掴みかかる、その場にある物を蹴り飛ばすなどの暴力を振るう
また、クレーマー顧客に対して帰るように伝えても帰らない場合には、「不退去罪」(刑法130条後段)が成立します。
実際には、上記の威力業務妨害罪・不退去罪で告訴する旨をクレーマー顧客に伝えると、理不尽・悪質なクレームが止まるケースも多いです。
万が一、それでも理不尽・悪質なクレームが続くようであれば、警察と連携して対応してください。
まとめ
クレーム対応は基本的に生産性がなく、事業者にとってブレーキになってしまいますが、ある程度事業規模が拡大すれば、避けては通れない問題です。
今後の事業の成長・安定を目指すためにも、事業者内部でクレーム対応の体制整備を行い、ぜひ悪質なクレーマー顧客への抵抗力を備えてください。
阿部 由羅
ゆら総合法律事務所代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。専門はベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。
https://abeyura.com/
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