常に人と接することが避けられない接客業において、新型コロナウイルス対策は従業員を守るためにも、また、クラスターの発生源にならないためにも、優先的に取り組まなくてはならない課題です。
接客業の業務内容によってとるべき予防策は若干異なりますが、いずれの業種でも欠かせないのが手指を清潔に保つことです。
職場で取り組むべき感染拡大防止策
・手洗いや手指消毒
・咳エチケット
・従業員同士の距離確保
・事業場の換気励行
・複数人が触る箇所の消毒
・発熱等の症状がみられる従業員の出勤自粛
など参考)厚生労働省「報道・広報>報道発表資料>2020年5月>職場における新型コロナウイルス感染症への感染予防、健康管理の強化について、経済団体などに協力を依頼しました>【別添】5月14日付け職場における新型コロナウイルス感染症への感染予防、健康管理の強化について」*1を参考に筆者作成
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_11306.html
https://www.mhlw.go.jp/content/11302000/000630690.pdf
新型コロナウイルスの感染予防には、ハンドソープなどによる手洗いやアルコール消毒が重要であることがわかっています。
しかし、正しい方法で手指の洗浄や消毒を行わなければ、十分な効果が期待できません。
むしろ「やったつもり」になってしまうことで、感染拡大を招く危険性があります。
そこで今回は、手指の洗浄やアルコール消毒がなぜ感染予防に効果があるかを解説した上で、正しい手指洗浄の手順や消毒用アルコールの使い方を説明します。
さらに、新型コロナウイルスに対する効果が話題となっている次亜塩素酸水の有効性や、誤解の多い使用方法についても取り上げます。
目次
石けんやアルコールはウイルスを包む「膜」を破壊します
新型コロナウイルスやインフルエンザウイルスは、エンベロープと呼ばれる膜で覆われています。
この膜は主に脂質でできているため、油分を分解するもの、つまりハンドソープなどに含まれている界面活性剤や手指消毒用のアルコールで簡単に破壊できます。
そしてエンベロープを破壊されたウイルスは感染力を失い、死滅します。
このようなことから、新型コロナウイルスやインフルエンザウイルスの対策として、石けんなどによる手洗いやアルコール消毒が強くすすめられるのです。
ただし、エンベロープを持たないウイルス(ノロウイルスなど)は、アルコールで消毒しても死滅させることはできません。
界面活性剤もまたノロウイルスなどには効果が期待できませんが、手洗いをすることでウイルスを手指から離れやすくすることはできます*2。
引用)感染症学雑誌 第80巻 第 5 号「Norovirus の代替指標として Feline Calicivirus を用いた 手洗いによるウイルス除去効果の検討」*3を参考に作成
http://journal.kansensho.or.jp/Disp?pdf=0800050496.pdf
感染予防は正しい手洗い・消毒から
では、正しい手洗い方法とアルコール消毒の手順を解説します。
・正しい手洗い方法
手洗い前には、洗い残しを防ぐために時計や指輪は外しておきます。また、爪は短く切り、汚れが入りにくいようにします。
手洗いは手のひら側から始めますが、洗い残しが出やすい手の甲・指先・指の間・親指を順に意識しながら洗います。とくに、手の甲側の親指部分は洗い残してしまうことが多いので、注意してください*4。
また、最後に手首も忘れずに洗います。露出の多い夏場は、ひじ部分まで洗ってもよいでしょう。なお、2度洗いすると、洗い残しが少なくなります。
すすぎは、流水で行います。
水をためて手をすすぐと、汚れが再付着するおそれがあるからです。
最後は、ペーパータオルでしっかり水分をとります。
ペーパータオルがない場合は清潔なタオルでも良いですが、使いまわしは避けます。
蛇口レバーは、使用後のペーパータオルを使って閉めると手を汚さずにすみます。
引用)首相官邸「新型コロナウイルスへの備え」*5
https://www.kantei.go.jp/jp/headline/kansensho/coronavirus.html
なお、手に水分が残っていると、ウイルスや汚れがつきやすくなるだけではなく、手荒れの原因になります。
手が荒れると石けんやアルコールが傷口に入り痛みが生じるので、手洗い・消毒が不十分になる可能性があります。
また、傷部分からウイルスが侵入するおそれもあるので、水分はていねいにふき取るようにしましょう。
・アルコール消毒の方法
アルコール消毒は、手のひらをお椀状にしてアルコールをとり、指先を消毒してから各部位に擦り込んでいきます。
擦り込む順番は、指先が最初に来ることを除けば、手洗いと同じです。
十分な量を擦り込むため、ポンプはしっかり押し切るようにしましょう。
引用)
厚生労働省「政策について>分野別の政策一覧>他分野の取り組み>災害>平成30年7月豪雨について>感染症の予防について(平成30年7月豪雨)>参考資料>流水で手洗いできない場合の手指消毒について」*4
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000212515_00001.html
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000334134.pdf
なお、コロナウイルス対策としては、60%以上のアルコール濃度が推奨されています*6。
アルコール消毒前に手を洗った場合、水分をしっかりふき取っておかないとアルコール濃度が低くなり、十分な効果が得られなくなります。注意しましょう。
人への使用はNG!次亜塩素酸水の適切な使用方法
次亜塩素酸水は「酸性電解水」とも呼ばれ、食品などの消毒にも使われています。
しかし、人体へ使用した場合の安全性・有効性については十分に確認されておらず、食品に使った場合であっても、最終的には完成前に除去しなければならないとされています*7。
次亜塩素酸水は、その強い殺菌力から新型コロナウイルス対策に有効であるともいわれていますが、2020年5月29日の経済産業省の発表では
「検証試験が継続中であり、まだ結論は出ていない*8」
とされています。
また、次亜塩素酸水を手指の消毒に用いたり、空気中に噴霧したりすることが原因と考えられる健康被害も報告されています*9-13。
このようなことから、次亜塩素酸水の使用は物品の消毒に限定し、あくまで一般の除菌の範囲にとどめるべきです。
なお、次亜塩素酸水とよく混同されがちなものとして「次亜塩素酸ナトリウム水溶液」があります。
次亜塩素酸水ナトリウムは家庭用漂白剤などに含まれる成分で、新型コロナウイルス対策として有効であることがわかっています*8。市販の次亜塩素酸水ナトリウムを含む塩素系漂白剤の濃度は5%程度なので、使用する際には濃度が0.1%程度になるように希釈して用います*6。
ただし、次亜塩素酸ナトリウム水溶液も、人体への使用はできません。
吸ったり目に入ったりすると健康被害が生じる恐れがあるので、空気中への噴霧も厳禁です*7。
また、脱色作用があるので、使用時の服装や使用場所には注意しましょう。
ちなみに、次亜塩素酸ナトリウム水溶液を水で薄めても、次亜塩素酸水を作ることはできません。
次亜塩素酸水は、電気分解などで得られる酸性の液体で、アルカリ性の次亜塩素酸ナトリウム水溶液とはまったく別のものです*8。
新型コロナウイルス対策は、目に見えないウイルスとの戦いともいえます。
しかし、正しい手洗いやアルコール消毒、あるいは適切な消毒剤の使用で感染拡大を阻止することは可能です。
その一方で、誤った情報をもとにウイルス対策を行うと、予防効果が得られないだけではなく健康被害などが生じる危険性があります。
除菌や消毒目的で使用するものに関しては、使用方法をしっかり確認して企業全体で情報を共有するようにしましょう。
そして、不明点・疑わしい点がある場合はメーカーに直接問い合わせるなどして、明確な回答が得られない場合は使用を控えるようにしましょう。
参考文献・参考サイト
*1
参考)厚生労働省「報道・広報>報道発表資料>2020年5月>職場における新型コロナウイルス感染症への感染予防、健康管理の強化について、経済団体などに協力を依頼しました>【別添】5月14日付け職場における新型コロナウイルス感染症への感染予防、健康管理の強化について」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_11306.html
https://www.mhlw.go.jp/content/11302000/000630690.pdf p8
*2
参考)
厚生労働省「政策について>分野別の一覧>健康・医療>食品>食中毒>ノロウイルスに関するQ&A> Q16手洗いはどのようにすればいいのですか?」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuchu/kanren/yobou/040204-1.html
*3
引用)
感染症学雑誌 第80巻 第 5 号「Norovirus の代替指標として Feline Calicivirus を用いた 手洗いによるウイルス除去効果の検討」 http://journal.kansensho.or.jp/Disp?pdf=0800050496.pdf
*4
参考)
厚生労働省「政策について>分野別の政策一覧>他分野の取り組み>災害>平成30年7月豪雨について>感染症の予防について(平成30年7月豪雨)>参考資料>流水で手洗いできない場合の手指消毒について」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000212515_00001.html
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000334134.pdf
*5
引用)
首相官邸「新型コロナウイルスへの備え」
https://www.kantei.go.jp/jp/headline/kansensho/coronavirus.html
*6
参考)
厚生労働省「政策について>分野別の政策一覧>健康・医療>健康>感染症情報>新型コロナウイルス感染症について>新型コロナウイルスに関するQ&A(医療機関・検査機関の方向け)>問23 70%以下のエタノールを新型コロナウイルスの消毒に用いることは可能ですか。」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00004.html
*7
参考)
独立行政法人 国民生活センター「注目情報>発表情報>除菌や消毒をうたった商品について正しく知っていますか?-新型コロナウイルスに関連して->[報告書本文]除菌や消毒をうたった商品について正しく知っていますか?-新型コロナウイルスに関連して-」
http://www.kokusen.go.jp/news/data/n-20200515_2.html
http://www.kokusen.go.jp/pdf/n-20200515_2.pdf p3-4
*8
参考)
経済産業省「ニュースリリース>ニュースリリースアーカイブ>2020年度5月一覧>新型コロナウイルスに有効な界面活性剤を公表します(第二弾)>よくあるお問い合わせ」
https://www.meti.go.jp/press/2020/05/20200529005/20200529005.html
*9
参考)
事故情報データバンクシステム「事故情報詳細> ID:0000376264」
http://www.jikojoho.go.jp/ai_national/search/detail.do?id=0000376264
*10
参考)
事故情報データバンクシステム「事故情報詳細>ID:0000373274」
http://www.jikojoho.go.jp/ai_national/search/detail.do?id=0000373274
*11
参考)
事故情報データバンクシステム「事故情報詳細> ID:0000375898」
http://www.jikojoho.go.jp/ai_national/search/detail.do?id=0000375898
*12
参考)
事故情報データバンクシステム「事故情報詳細> ID:0000376724」
http://www.jikojoho.go.jp/ai_national/search/detail.do?id=0000376724
*13
参考)
事故情報データバンクシステム「事故情報詳細> ID:0000377258」
http://www.jikojoho.go.jp/ai_national/search/detail.do?id=0000377258
著者:中西 真理
公立大学薬学部卒。薬剤師。薬学修士。医薬品卸にて一般の方や医療従事者向けの情報作成に従事。その後、調剤薬局に勤務。現在は、フリーライターとして主に病気や薬に関する記事を執筆。
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