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「ビジネスと人権」に関する行動計画とは 外国人労働者の活用と共生を再確認しよう

現在のウイズコロナ時代、その後のアフターコロナ時代に、外国人労働者とのよりよい共生を実現させるにはどうしたらいいのでしょうか。
折しも外務省は2020年10月16日、“「ビジネスと人権」に関する行動計画”を発表しました。「人権」という観点からこの問題を捉え直し、彼らとの共生のあり方を考えてみましょう。

目次

外国人労働者の増加と効果

今なぜ「ビジネスと人権」なのか

「行動計画」と外国人労働者との共生

おわりに

外国人労働者の増加と効果

本題に入る前に、外国人労働者の状況を簡単に押さえておきたいと思います。

少子高齢化による人手不足を背景に、コロナ禍の影響を受ける前の2019年までは、外国人労働者数は増加の一途を辿っていました(図1)。


図1 在留資格別外国人労働者数の推移(2019年10月末時点)
出典:*1 厚生労働省(2020)「外国人雇用状況」の届出状況まとめ【本文】」 p.2
https://www.mhlw.go.jp/content/11655000/000590310.pdf

2019年10月末時点で外国人労働者数は約165万9千人で、過去最高を記録しています *1:p.1。

貴重な労働力を提供している外国人労働者ですが、彼らを雇用することによる文化的多様性が、業績アップの確率を高めることが指摘されています(図2)。


図2 外国人労働者によってもたらされる業績アップ
出典:*2 経済産業省(2019)経済産業政策局「事務局説明資料 (議題:SDGsとESGの社会的(Social)側面)」 p.37
https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/sdgs_esg/pdf/004_03_00.pdf

図2の2本のバーは、外国社員を含む割合が下位25%に含まれる企業(グレー)と上位25%に含まれる企業(赤)を表しています。また、それぞれのバーの上のパーセンテージは、それらの企業の業績が業種平均を超える可能性を表しています。このグラフから、外国人を多く雇用している企業は、業種平均よりもすぐれた業績を達成する確率が高いことがわかります。

このように、外国人労働者を雇用することは、魅力的な選択といえるでしょう。

ただ、少なくとも筆者の周辺ではコロナ禍で職を失った外国人が多く、また入国制限によって外国人労働者の流入が滞っています。コロナ後にも外国人が日本での労働を担う人材となり続けるかどうか、それは日本と日本人の今後にかかっているのではないでしょうか。

では、どうしたら彼らとのよりよい共生を実現させることができるのでしょうか。

今なぜ「ビジネスと人権」なのか

ここでは、“「ビジネスと人権」に関する行動計画”(以下、「行動計画」)が策定された背景についてみていきたいと思います。

~「ビジネスと人権に関する指導原則」~
国連には「人権理事会(Human Rights Council)」という機関があります。
これは、「人権と基本的自由の促進と擁護に責任を持つ」政府間機関です *3。

2008年、人権理事会に多国籍企業と人権に関する「保護、尊重及び救済の枠組み」が提出されました *4。
この枠組みは、企業活動が人権に与える影響に関して、以下の3つの柱を明確に示しています。

人権を守る国家の義務
人権を尊重する企業の責任
救済措置へのアクセス

この枠組みを運用するために、2011年の第17回人権理事会に提出され、関連の決議において支持されたのが、「ビジネスと人権に関する指導原則」です。

~行動計画の作成~
「ビジネスと人権に関する指導原則」の策定に伴って、専門家で構成される作業部会が設立されました。
この作業部会は、ビジネスと人権に関する指導原則を普及させ、実行するための行動計画作成を各国に奨励しています。

これを受け、各国は行動計画の策定に着手し、2013年から、イギリス、イタリア、オランダ、ノルウェー、アメリカ、ドイツ、フランスなどを含む20か国以上が既に行動計画を公表しています。

2015年のG7エルマウ・サミット首脳宣言でも、2017年のG20ハンブルク・サミット首脳宣言でも、「ビジネスと人権に関する国別行動計画」を構築することが求められました。

日本もこうした流れを受け、2020年10月、企業活動における人権尊重の促進を図るため、「ビジネスと人権」に関する行動計画を策定しました。

~ビジネスと外国人労働者~
これまでも人権に関するさまざまな取組がありました。その中で、外国人労働者に関連するものを中心に簡単にご紹介します。

世界人権宣言:1948年に第3回国連総会で採択
「人権の歴史において重要な地位を占めている」といわれている *5
国際人権規約:1966年に第21回国連総会で採択、1976年に発効。日本は1979年に批准
世界人権宣言の内容を条約化したもの *6

人種差別撤廃条約:1965年に第20回国連総会で採択、1969年に発効。日本は1995年に加入 *7
すべての移住労働者とその家族の権利の保護に関する国際条約:1990年に国連総会で採択、2003年に発効 *8
民族的または種族的、宗教的および言語的少数者に属する者の権利に関する宣言:1992年に国連総会で採択 *9

現在、出生国や市民権がある国とは異なる国で生活し働いている人々は、世界で約2億4,400万人以上いるといわれています *8。
その多くは、「国籍のない国で、有給の活動に従事する予定か従事している」移民労働者です。

グローバリゼーションがこうした移動を加速させ、それに伴い、各国でさまざまな問題が顕在化してきました。
こうした状況の下、国家や企業の義務・責任をより明確にする必要性が認識されるようになってきました。
行動計画の背景には、こうした状況があります。

 

「行動計画」と外国人労働者との共生

「行動計画」は企業における人権尊重の促進を図るために策定されたもので、国の義務についても明確に示されています。

この行動計画は4章に分かれていますが、第2章には6項目の「横断的事項」が掲げられています*10-1:p.2。
そのうち、外国人材に関する2項目についてみていきたいと思います。
その際、外国人材の動向と課題についても考えていきます。

~外国人労働者・外国人技能実習生の権利の保護・尊重~
ひとつ目は、「労働」です。

労働
ディーセント・ワークの促進
ハラスメント対策の強化
労働者の権利の保護・尊重(外国人労働者、外国人技能実習生等を含む)

このディーセント・ワークとは、「働きがいのある人間らしい仕事」を指し *10-2:p.12、この行動計画のキーワードになっています。

この項目をもう少し具体的にみていきましょう *10-2:p.11。
次の文末の【  】内は、管轄の官公庁です。

外国人を雇用する事業主に対する労働法令の遵守と意識啓発を図ること 【厚生労働省】
外国人労働者のために、都道府県労働局、ハローワーク、労働基準監督署では、多言語による対応を引き続き実施すること 【厚生労働省】
技能実習生に関するさまざまな取組をすること 【法務省、外務省、厚生労働省】

このうち、3点目の技能実習生に関しては、2017年施行の新たな制度のもと、以下のことに努めるよう求めています。
 

 ・技能実習生に対する人権侵害への監督・罰則化の強化を図ること
 ・技能実習生が母語で相談・申請できる窓口の設置
 ・ジェンダー的観点を取り入れること
 ・改善策を着実に実施し、技能実習生の失踪防止に努めること

ここで、技能実習生を巡る課題について押さえておきましょう。


図3 技能実習生の在留状況
出典:*11 厚生労働省(2020)法務省 出入国在留管理庁・厚生労働省 人材開発統括官「外国人技能実習制度について」 p.6
https://www.mhlw.go.jp/content/000684846.pdf

図3のように、技能実習生は年々、増加しています。

技能実習制度は、
「国際貢献のため、開発途上国等の外国人を日本で一定期間(最長5年間)の間に限って受け入れ、海外へ技能を移転する制度」
です *11;p.5。

技能実習生は、入国直後に講習を受けた後、雇用関係の下、労働関係法令等などが適用されています。

つまり、国際貢献が目的でありながら労働者としての側面ももちますが、「実習生」であるため、賃金は安く抑えられています。
そのねじれ構造から、これまでさまざまな問題が生じてきました。

そこで、以下の2点を目的に、2017年に新たな「技能実習生制度」が施行されています。

開発途上地域等の経済発展を担う「人づくり」に協力するという制度趣旨を徹底する
管理監督体制を強化するとともに,技能実習生の保護等を図る

ただ、新たな制度はまだ施行されたばかりで、それが適正に運用されていくためには関係者の努力が必要です。

また、コロナ禍によって、技能実習生の危うい立場が露わになりました。
業種によっては解雇される技能実習生が相次ぎ、国も特別措置を講じて雇用維持や再就職支援に努めています *12。
それでも、職を失い、帰国を希望している技能実習生がのに、出入国制限のために帰国することも困難という状況も生じてしまいました。

これまで農業、漁業、建設、製造業などさまざまな分野でその産業の一部を担ってきた技能実習生の人権を尊重するために、受入れ企業と国のより一層の努力が求められます。

~外国人材の受入れ・共生~
2つめは、「外国人材の受入れ・共生」です。

外国人材の受入れ・共生
共生社会実現に向けた外国人材の受入れ環境整備の充実・推進

冒頭でみたように、日本で就労する外国人は増加しています。
外国人の孤立を防ぎ、日本社会の構成員として受け入れていくという視点に立ち、 外国人が日本人と共生していく必要があります *10-2:pp.17-18 。

そこで、国は2018年に「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策 」(以下、「総合的対応策」)を策定し、翌2019年には「外国人材の受入れ・共生 のための総合的対応策の充実について」を取りまとめました。
さらに、2020年7月には、「総合的対応策」を改訂しています *13:p.1。

今後は、「ビジネスと人権」に関連する取組とともに、改訂された「総合的対応策」を実施・推進していくことが記されています【内閣官房、内閣府、警察庁、金融庁、消費者庁、公正取引委員会、 総務省、法務省、外務省、財務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、 国土交通省】

この「総合的対応策」にはさまざまな取組が盛り込まれていますが、その中のひとつが日本語教育の推進です。

2019年6月、日本語教育を推進することを目的として「日本語教育推進法」が公布、施行されました。
この中で、事業主は、雇用する外国人やその家族に対して、仕事や生活に必要な日本語を習得するための学習の機会の提供、支援に努めることが求められています *14:p.3。

筆者は、長年、日本語教育や日本語学習支援に携わってきましたが、ボランティア日本語教室や就労支援の現場で出会う外国人には、10年、20年、日本に住んでいても、ひらがなの読み書きもできず、日本語学習が初めてという人も珍しくありません。

それだけに、学習機会を得て、「本当に楽しい」と、毎回、欠かさず遠くから教室に通い、日本語を学ぶことで自身の世界を広げていく多くの外国人に接してきました。

日本での生活の質を高め、自己実現をするためには、日本語能力は大きな力になります。
国が学習機会の創出をはじめ、さまざまな施策を講じ始めています。
外国人が近くにいたら、自分にできる形でサポートする―そんな姿勢が大切ではないでしょうか。

おわりに

上述したことは、外国人労働者との共生を考える上で必要なことのほんの一部にすぎません。
外国人労働者を人権という視点から捉えると、「外国人労働者=労働力」ではないことに気づきます。

外国人労働者は私たちと同じ社会を生きる生活者として、私たちのすぐそばにいる隣人です。
そうした意識をもって共生社会を築いていきましょう。

*1
厚生労働省(2019)「『外国人雇用状況』の届出状況まとめ【本文】」 (2019年10月末現在)
https://www.mhlw.go.jp/content/11655000/000590310.pdf
*2
経済産業省(2019)経済産業政策局「事務局説明資料 (議題:SDGsとESGの社会的(Social)側面)」 (2019年2月)
https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/sdgs_esg/pdf/004_03_00.pdf
*3
国際連合広報センター「人権理事会」
https://www.unic.or.jp/activities/humanrights/hr_bodies/hr_council/
*4
外務省(2020)「人権外交 ビジネスと人権」
https://www.mofa.go.jp/mofaj/fp/hr_ha/page22_001608.html
*5
外務省「世界人権宣言の作成及び採択の経緯」
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/udhr/1a_001.html
*6
外務省「国際人権規約」
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kiyaku/index.html
*7
外務省「人種差別撤廃条約(あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約)」
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/jinshu/index.html
*8
国際連合広報センター「移住労働者」
https://www.unic.or.jp/activities/humanrights/discrimination/migrants/
*9
国際連合広報センター「少数者の権利」
https://www.unic.or.jp/activities/humanrights/discrimination/minority/
*10-1
外務省(2020)「『ビジネスと人権』に関する行動計画(概要)」
https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100104258.pdf
*10-2
外務省(2020)ビジネスと人権に関する行動計画に係る関係府省庁連絡会議「『ビジネスと人権』に 関する行動計画 (2020-2025)」
https://www.mofa.go.jp/files/100104121.pdf
*11
厚生労働省(2020)法務省 出入国在留管理庁・厚生労働省 人材開発統括官「外国人技能実習制度について」
https://www.mhlw.go.jp/content/000684846.pdf
*12
厚生労働省(2020)「外国人技能実習制度について>トピックス 重要なお知らせ」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/jinzaikaihatsu/global_cooperation/index.html
*13
法務省(2020)「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策(令和2年度改訂) 」
http://www.moj.go.jp/content/001323661.pdf
*14
文化庁(2020)「日本語教育の推進に関する施策を総合的かつ効果的に推進するための基本的な方針」 (2020年6月23日 閣議決定)
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunka_gyosei/shokan_horei/other/suishin_houritsu/pdf/92327601_02.pdf

プロフィール

 

 

横内美保子(よこうち みほこ)
博士(文学)。元大学教授。大学における「ビジネス・ジャパニーズ」クラス、厚生労働省「外国人就労・定着支援研修」、文化庁「『生活者としての外国人』のための日本語教育事業」、セイコーエプソンにおける外国人社員研修、ボランティア日本語教室での活動などを通じ、外国人労働者への支援に取り組む。

 

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