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「メイドインジャパンだから売れる?」アジア進出企業の失敗から学ぶ、海外進出のイロハ

少子化の影響で、日本の人口が一億人を切る日がやってくると言われています。
今後、人口の減少スピードは加速し、毎年80万人から100万人の日本人がいなくなる未来がやって来るのです。(*1)

国民が高齢化し、消費者が減っていくことが確実な未来の中、国内では内需が縮小傾向に向かっており、ものを買う人の絶対数が減少することは、避けられないでしょう。

 

目次

ものづくりをしている企業が海外に進出中

1.「ジャパンブランドなら売れるでしょ」という思い込み

2.海外の人と日本人の好みが同じだという思い込み

3.現地の文化を知らないままに販売してしまう危険性

短期的な視点で利益を出そうとすると難しい

 

ものづくりをしている企業が海外に進出中

そんな中、ものづくりをしている企業には、海外での販路を視野に入れるところが出てきています。

この傾向は政府も認識しており、「外需を取り込み経済成長につなげる必要がある」として、 「日本のコンテンツ、ファッション、日本食、地域産品、観光等で海外展開 やインバウンドの強化に取り組む」ためにクールジャパン機構を作り、後押しをしています。(*2)
今まで海外に縁がなかった地方メーカーなどが海外進出を始めているのです。

ところがこの海外進出、言うほど簡単ではありません。
私自身はマレーシアに住んでおり、パンデミック前までは、仕事で企業の進出をお手伝いしたり、メディアとして現地のトレンドについて取材してきました。

ASEANの中心にあり、イスラム教のマレー系、華人、インド系と少数民族が住むマレーシアは、ある意味テストマーケティングの場所として選ばれてきた経緯があります。
2014年、クールジャパン機構が出資し、日本製品を前面に打ち出した店舗「ISETAN the Japan Store」を首都クアラルンプールに作り、話題になりました。(*3)

しかし現地で見ていると、どの企業もまず、陥りがちな罠があります。

1.「ジャパンブランドなら売れるでしょ」という思い込み
2.海外の人と日本人の好みが同じだという思い込み
3.現地の文化を知らないままに販売してしまう危険性

です。
今回はこの罠を、順番に解説します。

1.「ジャパンブランドなら売れるでしょ」という思い込み

日本企業は、「メイドインジャパンだから売れるでしょ」と思っている。しかしそのままでは売れないーー2019年1月、マレーシアで行われた、内閣府のクールジャパンビジネスセミナーで出た厳しい声です。私は現場を取材しましたので、少しご紹介します。
日本でヒットしたものがそのまま売れるか? というと実はかなり様相が違います。

日本製品を海外に出すと、関税や輸送費などの関係でどうしても割高になってしまいます。
東南アジアにも中間層が増え、可処分所得額の多い人が増えているのは事実ですが、それだけで戦えるほど、市場は簡単ではありません。富裕層ほどお金の使い方に慎重だという考え方をする人もいます。

現地の日本人ビジネスパーソンは、日本旅行者に日本のものが売れるため、日本人は勘違いしがちだと指摘しています。
「日本でヒットしたものを相手方のマーケットで売るのはまったく別の話。ローカルマーケットを熟知する目利きの存在なしで、マレーシアでものを売るのはチャレンジングだ」という声が出ていました。
このように、まずはローカルマーケットを知る必要があります。そのためには、ローカルのスタッフを巻き込むことが非常に重要です。

 

2.海外の人と日本人の好みが同じだという思い込み

日本国内しか見ていないと、「海外でも好みは同じだろう」とつい思い込んでしまいますが、実はこれは相当異なります。
マレーシアには大きく三民族と少数民族が暮らしていますが、それぞれの好みもまた異なります。こんな声もありました。

日本企業がついやってしまうのは、日本人目線での商品情報やこだわりを発信して終わりということ。ここを現地の人目線で、現地の人の言葉遣いや表現で実施する。日本人は真面目で体裁を整えることを優先し、きっちりした文法で編集するが、するとバズらない。巻き込みが非常に重要だ。ーーー

日本人好みの配色や細かい蘊蓄、文字は、現地の人からはそっぽを向かれることが多いのです。

 

「例えば、日本人は商品の由来とか開発秘話とか、文字を読むのが大好きで、パンフレットは文字ばかりとなる。現地では文字はあまり読まれないため、商品の良さは伝わらない」

「製品名や、商品の色とかパッケージとかを変更する必要がある。(日本で人気のある)ナチュラル、素朴な色は人気なく、派手な色が好き。そこでリブランディング費用がかかる。日本はこのパッケージには理由あって、と変えたくないというギャップがある」

これは私自身も現地インフルエンサーとのマーケティング活動をしていてつくづく感じたことです。人の集め方から、おもてなしの方法、パンフレットの作り方、色使い、文字の配置まで、全て日本流のままだと大体失敗します。
いっそのこと、指揮とアイデア出しの段階をローカルのスタッフに丸ごと任せた方がうまくいくことが多いのです。

 

3.現地の文化を知らないままに販売してしまう危険性

もう一つ危険なことが、現地の文化を知らないまま販売してしまうことです。
日本流が、宗教などで大きく問題になることがあるのです。

例えば、シンガポールで、イスラム教の人にうっかり豚革製品が使われているものを販売し、返金要求が起きたことがあります(*4) 。
マレーシアでも、日本企業がイスラム教の従業員に豚革を触らせてしまったことがありました。

こうした事件は一度拡散すると、企業のイメージ低下にもつながってしまいます。
日本人だけでいくら会議しても、こうした落とし穴に気づけないので、防ぐのが難しいのです。

海外にものを売る場合には、「マーケティング対象に合わせた現地スタッフをできるだけ初期から巻き込むこと」「日本人『だけ』でやらないこと」も重要になっていくのです。

 

短期的な視点で利益を出そうとすると難しい

さらに、経済産業省の令和3年のレポートで挙げている課題は以下です。

・事業化まで時間がかかり、 軌道に乗るまで不確定要素が多い
・海外販路の開拓が必要になるが、 販路の構築自体は収益性が高くない
・波及効果は大きいが、事業主体や出資者の収益として現れにくい
(*5)

つまり、目先の補助金など、短期的な利益にとらわれず、長期的な視点で動くことーーも必要になっていくかもしれません。

以上見てきたように、一筋縄ではいかない日本企業の海外進出。お勧めは、過去の事例をよく調べ、現地に足を運び、ローカルの人々の力を借りること。進出がうまくいくかどうかは、地元とどう協力するかーーにかかっていると言えるでしょう。

 

(*1)Yahooニュース
日本人「一億人割れ」の危機 「勝ち組国」から学ぶこと
https://news.yahoo.co.jp/articles/ff9bf05fd3f138bfc5d8de4108c90edc210eb4d1

(*2)経済産業省
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/mono/creative/2110CoolJapanFundr1.pdf

(*3)PR Times 日本の優れたモノ・コト・サービスを世界へお届けする新業態のスペシャリティストアISETAN The Japan Store Kuala Lumpu クアラルンプールにオープン
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000322.000008372.html

(*4)靴の裏当てに豚革、女性イスラム教徒が払戻し要求
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/41070

(*5)経済産業省
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/mono/creative/2110CoolJapanFundr1.pdf p1

 

 


【著者プロフィール】

のもときょうこ 

早稲田大学法学部卒業。損保会社を経て95年アスキー入社。雑誌「MacPower」「ASAhIパソコン」「アサヒカメラ」編集者、「マレーシアマガジン」編集長などを歴任。著書に「日本人には『やめる練習』が足りていない」(集英社)「いいね!フェイスブック」(朝日新聞出版)ほか。編集に松井博氏「僕がアップルで学んだこと」ほか。

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