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眠くなる薬は何がある?従業員への必要な配慮は?車の運転など安全確保の考え方を薬剤師が解説

医薬品には、眠気の副作用を持つものが数多くあります。
また、薬の服用による体調変化で、眠気を感じることも少なくありません。糖尿病治療薬による低血糖、腸の蠕動運動をおさえる薬による目のしょぼつきなど、その事例は様々です。

しかし、眠気は業務に支障をおよぼすだけではありません。場合によっては、重大な事故をまねく危険性もあります。

例えば、身近な例としては交通事故があります。医薬品による交通事故は多数発生しており、死亡例も報告されています*1。

参考)J-STAGE「日本交通科学学会誌>巻号一覧>16巻1号>有害事象自発報告データベース(JADER)からみた医薬品による交通事故」P.47-48*1を参考に筆者作成
https://www.jstage.jst.go.jp/browse/jcts/16/1/_contents/-char/ja
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcts/16/1/16_46/_pdf/-char/ja

そこで今回は、医薬品による眠気の副作用に焦点を絞り、服用に注意が必要な成分例を市販薬・処方薬に分けて解説します。眠気を生じにくい市販薬の選び方や、眠気が生じやすい薬を飲んでいる人に必要なサポートにもふれますので、ぜひ参考にしてください。

目次

使用中に危険をともなう作業をしてはいけない薬の例

眠気をおさえる工夫と必要なサポート体制

薬は健康維持に欠かせないもの!排除ではなく共存を目指して

使用中に危険をともなう作業をしてはいけない薬の例

まず、眠気などの副作用が生じるおそれのある薬の例を市販薬・処方薬に分けて紹介します。
もっとも、下表は一部の例にすぎません。薬を使用する際には添付文書などをしっかり確認し、不安点・疑問点がある場合は医師・薬剤師に相談してください。

服用後に危険をともなう作業をしてはいけない市販薬の例

薬の種類 注意すべき成分 問題となる副作用
解熱鎮痛薬 ブロムワレリル尿素・アリルイソプロピルアセチル尿素など 眠気
風邪薬 (くしゃみ・鼻水の薬) 抗ヒスタミン薬(クロルフェニラミンマレイン酸・クレマスチンフマル酸・ジフェンヒドラミン塩酸塩など) 眠気
風邪薬 (咳止めの薬) ジヒドロコデインリン酸塩・デキストロメトルファン臭化水素酸塩水和物・ ノスカピンなど 眠気
抗アレルギー薬 抗ヒスタミン薬(クロルフェニラミンマレイン酸・クレマスチンフマル酸・ジフェンヒドラミン塩酸塩など) 眠気
鼻炎薬 抗ヒスタミン薬・ベラドンナエキスなど 眠気 目のかすみやまぶしさを「眠気」と感じる場合もあり
鼻炎用点鼻薬 フマル酸ケトチフェン 眠気
胃痛・腹痛をおさえる薬 臭化水素酸スコポラミンなど 眠気 目のかすみやまぶしさを「眠気」と感じる場合もあり
下痢止め 塩酸ロペラミド・ロートエキスなど 目のかすみやまぶしさを「眠気」と感じる場合もあり
痔疾用飲み薬 抗ヒスタミン薬 眠気
筋肉のコリをほぐす薬 メトカルバモール・クロルゾキサゾンなど 眠気
乗り物の酔い止め薬 塩酸メクリジン・臭化水素酸スコポラミンなど 眠気 目のかすみやまぶしさを「眠気」と感じる場合もあり
催眠鎮静薬 塩酸ジフェンヒドラミン 眠気・だるさ
薬用酒 アルコール成分 飲酒と同じ状態になるため運転禁止

参考)独立行政法人 医薬品運転禁止医療機器総合機構「安全対策業務>患者・一般の方からの相談窓口>くすり相談窓口>くすりQ&A>表1.使用中は運転等をしてはいけない一般用医薬品・要指導医薬品の例」*2を参考に筆者作成
https://www.pmda.go.jp/safety/consultation-for-patients/on-drugs/qa/0023.html

 

服用後に危険をともなう作業をしてはいけない処方薬の例

薬の種類・作用・治療対象となる病気や症状など 注意すべき成分 問題となる副作用
解熱鎮痛・抗炎症薬 インドメタシン 眠気、めまい、ふらつき感など
皮膚のかゆみ・アレルギー症状などに対する薬 ベンゾジアゼピン系成分・ベンゾジアゼピン類似薬(トリアゾラム・ブロチゾラム・エスタゾラム・ゾルピデム・ゾピクロンなど 眠気、注意力・集中力・反射運動能力などの低下
睡眠薬 ジヒドロコデインリン酸塩・デキストロメトルファン臭化水素酸塩水和物・ ノスカピンなど 眠気
抗不安薬 ベンゾジアゼピン系成分(エチゾラム・ジアゼパム・メキサゾラムなど) 眠気、注意力・集中力・反射運動能力などの低下
筋肉のコリをほぐす薬 チザニジン塩酸塩・エチゾラムなど 眠気、注意力・集中力・反射運動能力などの低下
てんかんの発作抑制、三叉神経痛など カルバマゼピン 眠気、注意力・集中力・反射運動能力などの低下
アルツハイマー型認知症 ドネペジル塩酸塩 意識障害、めまい、眠気など
パーキンソン病 タリペキソール 前兆のない突発的睡眠(前触れなく突然寝てしまう)、傾眠(すぐに寝てしまう)、注意力・集中力・反射機能などの低下、ふらつき、めまい、立ちくらみなど
パーキンソン病 ロピニロール・プラミペキソール 突発的睡眠、傾眠など
抗真菌薬(カビに対する治療薬) ボリコナゾール 眠気 、目のかすみやまぶしさを「眠気」と感じる場合もあり
乗り物の酔い止め薬 塩酸メクリジン・臭化水素酸スコポラミンなど 視覚障害、 目のかすみやまぶしさを「眠気」と感じる場合もあり
禁煙補助薬 バレニクリン酒石酸塩 めまい、傾眠、意識障害(意識レベルの低下、意識消失)など
糖尿病 SU薬(グリメピリド・グリベンクラミド・グリクラジドなど)、速効型インスリン分泌促進薬(ナテグリニド・ミチグリニド・レパグリニド)、インスリン注射など 低血糖にともなう眠気、意識消失など

参考)独立行政法人 医薬品医療機器総合機構「安全対策業務>患者・一般の方からの相談窓口>くすり相談窓口>くすりQ&A>表2.使用中は運転等をしてはいけない医療用医薬品の例」*3を参考に筆者作成
https://www.pmda.go.jp/safety/consultation-for-patients/on-drugs/qa/0024.html

なお、眠気の副作用が生じる可能性のある市販薬は、添付文書中に車の運転や高所での作業などを行わないように注意が記載されています。
また、処方薬の場合は、薬と一緒に渡されるしおりやお薬手帳に注意書きが記載されていたり、医師や薬剤師から口頭で注意をうながされたりします。

これらの指示を無視して危険をともなう作業をすると、重大な事故が生じるおそれがあります。飲み慣れている薬でも体調によっては眠気が生じる場合があるため、必ず指示を守ってください。

眠気をおさえる工夫と必要なサポート体制

治療上、やむを得ず眠気が生じる可能性のある薬を使用する場合は、どのようなことに注意すればよいのでしょうか。まず、薬の服用者が眠気をおさえるためにできることを考えてみましょう。

・眠気をおさえる工夫(服用者ができること)
市販薬を使用する際は、眠くなりにくい薬を選択しましょう。
もっとも、数ある市販薬のなかから眠くなりにくい薬を選ぶのは非常に難しいことです。不安がある場合は、生活背景や仕事の内容も含めて薬剤師や登録販売者に相談し、適切な薬を選んでもらいましょう。

以下に、眠くなりにくい薬の選び方を表にまとめます。

風邪薬(全般) 総合感冒薬は避ける。
熱の薬・鼻症状の薬・咳止めの薬を別々に用意して、症状に応じて使い分けする。
風邪薬(熱)・解熱鎮痛薬 ブロムワレリル尿素・アリルイソプロピルアセチル尿素などを含まないものを選ぶ。
風邪薬(鼻症状) 漢方薬を選ぶ。
症状によっては、眠気の出にくい成分の点鼻薬でも対応可能。
風邪薬(咳止め) 漢方薬を選ぶ。
風邪薬(のどの痛み・はれ) トラネキサム酸やグリチルリチン酸を主成分とするものを選ぶ。
アズレンスルホン酸を含むうがい薬やトローチを選ぶ。
アレルギー性鼻炎薬 比較的眠気の出にくいフェキソフェナジン塩酸塩やロラタジンを主成分とするものを選ぶ。
胃痛・腹痛をおさえる薬 臭化水素酸スコポラミンなどを含まないものを選ぶ。
下痢止め 塩酸ロペラミド・ロートエキスを含まないものを選ぶ。
痔疾用薬 飲み薬ではなく、塗り薬で対応する。
筋肉のコリをほぐす薬 ビタミンB群を主成分とするものを選ぶ。
痛みをともなう場合は、貼り薬・塗り薬を併用。
乗り物の酔い止め薬 カフェイン配合のものを選ぶ。ただし、眠気を避けることは難しい。

 

処方薬の場合は、業務内容やライフパターンなどを医師に相談しましょう。眠くなりにくい薬に変更されたり、服用量・服用時間が変更になったりする場合もあります。医師に直接言いにくい場合は、薬剤師を通じて連絡してもらうのもよいでしょう。

ただし、勝手に服用量や服用時間をかえるのはいけません。薬を正しく服用しないことで、かえって危険な状態になることがあります。
例えば、血糖値を下げる薬は、使用タイミングがずれると低血糖を起こすことがあります。また、抗てんかん薬は、血中濃度が低下するとてんかん発作を起こすおそれがあります。

処方薬は、病気の治療のために処方されるものです。眠気を避けることよりも、治療を優先するようにしましょう。

・眠気の出やすい薬を飲んでいる人に対するサポート
次は、眠気の出やすい薬を飲んでいる人に対する職場でのサポート体制についてです。

・シフトの変更
シフトの都合で規則正しい生活が送れなくなると、薬を飲む時間が不安定になって副作用の発現につながる場合があります。長期的な治療が必要な場合は、出勤・退勤時間が大きくずれないシフトを組み、できれば日勤のみのシフトにすることを提案します。

・健康状態の把握
従業員には定期的に健康診断を受けてもらい、情報を共有しましょう。もっとも、自分の病気や服用薬を他人に知られたくない人も多いと思われます。あらかじめ個人情報に関する社内ルールを徹底したうえで、担当者と1対1で面接する機会を設けるようにしましょう。

・担当エリアや移動手段への配慮
眠気の出やすい薬を使用している人が営業職の場合は、車での移動が不要なエリアを担当させてください。都市部であれば、公共交通機関の利用も考慮しましょう。

・フォロー体制の強化
配送業など車の使用が避けられない業種の場合は、乗車前の健康チェックを徹底してください。人員に余裕がある場合は、交代要員を同乗させるのも方法の一つです。同乗が無理であっても、万が一の場合に備えたフォロー体制の拡充は必要です。眠気がある場合・体調が悪い場合に無理をさせないようにしましょう。

・体調の変化を報告しやすい環境づくり
体調の変化を自己申告しやすい環境づくりも大切です。電話や書面での報告だけではなく、メールやLINEなどのコミュニケーションツールを利用した報告にも臨機応変に対応しましょう。これは、プライバシー保護の観点からも重要です。

 

薬は健康維持に欠かせないもの!排除ではなく共存を目指して

薬は、健康の維持に欠かせないものです。特に慢性疾患の薬は、自己判断で服用を中止すると病気の症状が悪化するだけではなく、重大な事故をまねくおそれもあります。
また、薬によっては処方の変更が難しく、副作用が避けられない場合もあります。だからといって、薬を飲んでいる人を排除するのは社会的にみても大きな損失です。

病気になること・薬を飲むことは、けっして特別なことではありません。むしろ当たり前のこととしてとらえ、病気や薬、副作用とうまく付き合う方法を探っていきましょう。

健康状態が良くなれば、薬の減量や変更が考慮される場合もあります。職場全体で薬を飲んでいる人をサポートして、だれもが働きやすい環境づくりを目指しましょう。

 

 

参考文献・参考サイト
*1
参考)J-STAGE「日本交通科学学会誌>巻号一覧>16巻1号>有害事象自発報告データベース(JADER)からみた医薬品による交通事故」P.47-48
https://www.jstage.jst.go.jp/browse/jcts/16/1/_contents/-char/ja
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcts/16/1/16_46/_pdf/-char/ja
*2
参考)独立行政法人 医薬品医療機器総合機構「安全対策業務>患者・一般の方からの相談窓口>くすり相談窓口>くすりQ&A>表1.使用中は運転等をしてはいけない一般用医薬品・要指導医薬品の例」
https://www.pmda.go.jp/safety/consultation-for-patients/on-drugs/qa/0023.html
*3
参考)独立行政法人 医薬品医療機器総合機構「安全対策業務>患者・一般の方からの相談窓口>くすり相談窓口>くすりQ&A>表2.使用中は運転等をしてはいけない医療用医薬品の例」
https://www.pmda.go.jp/safety/consultation-for-patients/on-drugs/qa/0024.html

 

著者:中西 真理
公立大学薬学部卒。薬剤師。薬学修士。医薬品卸にて一般の方や医療従事者向けの情報作成に従事。その後、調剤薬局に勤務。現在は、フリーライターとして主に病気や薬に関する記事を執筆。

 

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