採用面接
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アルバイトの志望動機、どう書く?どう評価する?|ユニークな志望動機を書いた男性の場合

履歴書には志望動機欄があります。
アルバイトやパートの応募者はそこに何を書くべきでしょうか。
あるいは採用担当者は、そこに書かれている志望動機から何を読み取るべきでしょうか。

筆者は以前、ユニークな履歴書に出会った経験があります。
あまりのユニークさにどう解釈したものかと頭を抱えましたが、その経験は思いがけず大切な学びにつながりました。
その経験をシェアしたいと思います。

目次

こんな履歴書が送られてきた

志望動機の謎が解けた

ユニークな志望動機は逸材の証?

こんな履歴書が送られてきた

それはこんな履歴書でした。

学歴:京都大学卒業
職歴:予備校講師を2年間、その後ビル清掃員のアルバイトを2年半
アピールポイント:わかりません

「???」
思わず写真に目をやると、そこに写っているのは日焼けした短髪の青年。
笑うでもなく硬い表情でもない。
いわばニュートラルな表情です。
写真から彼の内面を探るのは諦めて、履歴欄に目を戻しました。

高偏差値大学出身の彼が教育関係の仕事に就いたのは頷ける。
でも、そこからビルの清掃員に転職したのは、なぜ?
ビルの清掃員が知的な仕事ではないという意味ではありません。
予備校から清掃員への道筋が全く見えてこないのです。
アピールポイントを書かない人も初めて。
雇ってもらいたかったら、ふつう何か書くんじゃないのか・・・。

更なる混乱を招いたのが志望動機でした。

収入が必要です。
私は単純作業も清掃も好きです。
なぜなら、どちらも苦手だからです。
これらの仕事は私に向いていると思います。

収入が必要だなんてそのまんまではないか。
こんなふうに書いてきた人は初めてだ。
苦手だから好きってどういう意味だろう?
それは、「向いている」と断言できるほどの根拠なのだろうか。

履歴書を前に、人事担当者たちは頭を抱えました。
そこは、当時、筆者の家族が経営していた電子機器製造業の会社。
募集していたのは、不良品の解体と作業所の清掃をしてくれるパート従業員でした。

「会うだけ会ってみるか。採用するかどうか決めるのはそれからでも遅くない」
責任者がそう呟くと、残りの3人も頷きました。
「会って話してみなきゃ、何がなんだかわかりませんもんね」
「そうそう。こういう履歴書を書くって一体どういう人なんでしょうか。会ってみたい気がします」
「意外と逸材だったりして」
「単なる変人かもしれませんけどね」

志望動機の謎が解けた

3日後、面接にやってきたAさんは、長身痩躯の青年でした。
奇をてらう様子は全くなく、きかれたことに淡々と答える。
自然体で正直―そんな印象でした。

話をきくうちに、彼の事情がだんだんわかってきました。

「大学の友だちには大企業や官庁で働いている人が多いのですが、わたしは大きな組織には合わないと思います。周りの動きについていけないんです」

たとえば、大学の授業でワークショップをしたとき、教員からタスクが伝えられると、クラスメイトたちは、
「あ、こういうことすればいいんだね。じゃ、この手順で話し合うのはどう?」
「そうだね、出た意見をこのソフトを使って、こんなふうにまとめればいいんじゃない?」
「じゃ、検討事項をピックアップするところから始めよう」
・・・と、どんどん作業を進めていく。

一方、彼はといえば、
「このタスクでは何を求められているのだろう」
「このタスクにはどんな意味があるのだろう」
「このタスクの結果を、どこに結びつけていくのだろう」
・・・と、タスク自体についてさまざまなことを考えてしまい、気づくと他のメンバーに遅れをとって、すっかり置いていかれてしまっていた。

「大きな組織で働いたら、お荷物になってしまうと思うんです。なにかにつけて考え込んでしまうので、生産性は低いですよね。わたしのような人間はきっと歓迎されませんし、わたしもそういうところでは働けないと思います」

「予備校の講師になったのは、当面は自分の特性が生かせると思ったからです。
専門科目には自信がありましたし、大学受験の経験も生かせると思いました。
学生時代に家庭教師の仕事をしていて、教えることには向いているのではないかとも思っていました。実際、仕事はうまくいっていたと思います」

でも、予備校講師の仕事をずっと続けるつもりはもともとなかったと彼は言います。
自分が本当にやりたいのはこの仕事ではない―そのことは始めからわかっていました。
でも、大学卒業までに本当にやりたいことをみつけることはできなかった。
自分が本当にやりたいことは何なのか。
予備校で働いているうちにそうした疑問が次第に膨れ上がっていきました。

「講師の仕事をしながら模索することも考えましたが、わたしは器用ではありません。貯金も少しあったので、思い切って予備校を辞めて、いろいろチャレンジする時間を確保したいと思いました」

予備校を辞めて清掃の仕事を選んだのは、もともと清掃が好きだったから。
「でも、苦手なんですよね?」
履歴書で志望動機を確認しながら質問すると、
「はい。苦手だから好きなんです。考えたくなくても、どうしても考えてしまう―わたしにはそんな癖があります。ふと気がつくと、考えている。それが問題なんです。
大切なことについて集中して考えるために、1日に数時間は考えない時間が必要だと思いました」

「そうなんですね・・・。それで、それと清掃の関係は?」
「はい、わたしは清掃が苦手なんですが、大切な作業だと考えています。ですから、やるからにはきちんとやりたいと思っています。
それで、清掃中は清掃に集中します。すると、その間は他のことは何も考えなくてすむ。
清掃はわたしにとって欠かせないものなんです」

ところが、清掃の仕事をしていた大手スーパーの店舗が閉店することになり、職を失ってしまった。

「そうですか。それで、本当にやりたいことはみつかったんですか」
「はい、今は炭焼きをライフワークにしたいと考えています」

家の近くに大学の農学部があって、通りかかる度になんとなく気になっていた。
ある日、その建物にさしかかったとき、突然、閃いた。
そうだ、森林について勉強してみよう!

そこで、農学部の聴講生にしてもらい、勉強を始めた。
そのうちその土地に伝わる古くからの炭焼きに関心を抱くようになり、地元の炭焼き職人に弟子入りした。
でも、炭焼きは奥が深く、難しい。

「炭焼きで食べていけるようになるには、もう少し時間がかかりそうです。それで、それまでは時間の融通がきくパートで働くのが最適だと判断しました。
しかも、職種が単純作業と清掃なのはわたしにとって最適なんです」
「そういうことだったんですね」

「自己アピールについてなんですが・・・」
「ああ・・・。書いたとおり、何をアピールすればいいかわかりませんでした。
自己アピールって何なのか、考えれば考えるほどわからなくなってしまったんです。
わたしはこの仕事に向いていると思いますし、この仕事をさせていただきたいと思っています。
でも、わたし以上にこの仕事に向いている人もきっといるでしょう。
それは、実際に仕事をしてみなければわからないことですし、その評価をするのもわたしではありません。
何をどうアピールすればいいのか、本当にわからなかったんです」

彼の話には妙な説得力がありました。

 

ユニークな志望動機は逸材の証?

~彼の働きぶり~
自然体で素朴で正直。
ことばを飾らず、率直に語る。
その姿勢から彼の誠実な人柄が伝わってきました。
確かに、履歴書と同様、彼自身もユニークな人です。
でも、彼との対話から、それも彼の魅力だと思えてきました。

全員一致で採用決定です。

彼の働きぶりは予想以上でした。
不良品解体の仕事では、独創的な手順を編み出し、それを担当者間でシェアすることによって、生産性を大幅にアップさせました。
ベテラン従業員にとっては当たり前になってしまい見過ごしていたこと、業界で常識とされていたことに対しても、彼ならではの斬新な視点をもって目を向け、問題点を掘り起こした結果です。
それを糸口にして、現場の作業手順の見直しが進み、それぞれの従業員が生き生きと当事者意識をもって仕事に取り組むという好循環が生まれました。

清掃も徹底していました。
清掃を雑用と考えず、他の仕事と同様、大切な仕事として真摯に取り組む彼の姿勢は、他の清掃担当者にもいい刺激となり、職場全体の仕事に対する意識が変わっていくのが見て取れました。

優れた人材がたった1人職場に加わることで、これほど職場が変わるものなのか―そう感嘆する周囲とは対照的に、彼自身には特別なことをしたという意識はないらしく、称賛のことばには全く無頓着。いつも変わらぬ自然体で飄々と働いていました。

~この経験からみえてくること~
アルバイトやパートの履歴書はどのような意味をもつのでしょうか。
そもそも応募者に志望動機や自己アピールを書いてもらう意味はどこにあるのでしょうか。

それぞれの応募者がその職を得たいと思うのには、それなりの理由や都合があります。
たとえば、将来に備えて貯金をしたい、もう少し自由に使えるお金がほしい、もっとゆとりのある生活がしたい、本当にしたいことをやるために食べるだけの収入がほしい・・・。

「収入が必要です」
Aさんはそう書きました。
そんなふうに書く人に会ったのは初めてでしたが、考えてみればそれこそが偽らざる志望動機。それをそのまま書くのは、当然といえば当然です。

でも、もっとカッコいい理由をつけて、体裁よく書くのが「常識」。
自己アピールも同じです。
採用につながりそうなことを探して、熱意をこめてアピールしているという姿勢を示す。
採用担当者もそれを承知の上で履歴書を読む。
それは暗黙の「儀式」といってもいいかもしれません。

「自分をよく見せ、採用担当者に好感を抱いてもらう。そして、そのことによって就活を有利に運ぼうとする」
応募者にとって、こうした方向性から逃れるのはリスクを伴います。
それで、定型に従って、採用担当者に受け入れてもらえそうな無難な書き方をする。
採用担当者も無意識にそのような履歴書を期待しています。
でも、そのように書かれた志望動機から応募者の本質がみえてくるでしょうか。

Aさんは、誰にもおもねることなく、正直に志望動機を書きました。
一方で、わからないことを無理に書くことはしませんでした。
その行為は、当たり前のことでありながら、今の就活文化の文脈では「非常識」と捉えられます。
そんな履歴書を書いたAさんが優れた人材だったのは、果たして偶然だったのでしょうか。

履歴書とは何か、そこに何を書くのかあるいは書かないのか、そこから何を読み取るのか―。
Aさんの事例はそれらに対して新たな視点と答えを提供してくれているのではないでしょうか。

 

著者
横内美保子(よこうち みほこ)
博士(文学)。元大学教授。大学における「ビジネス・ジャパニーズ」クラス、厚生労働省「外国人就労・定着支援研修」、文化庁「『生活者としての外国人』のための日本語教育事業」、セイコーエプソンにおける外国人社員研修、ボランティア日本語教室での活動などを通じ、外国人労働者への支援に取り組む。
Webライターとしては、主にエコロジー、ビジネス、社会問題に関連したテーマで執筆、関連企業に寄稿している。

Twitter:https://twitter.com/mibogon

 

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