日本は災害大国です。
それにもかかわらず、防災に対する企業の意識が高いとは言えないようです。
地震だけでなく、集中豪雨の激化や台風など毎年どこかで大規模災害と、長期にわたって日常生活を失う被害が出ています。
また、「いつどこで起きてもおかしくない」というほどに、過去災害に見舞われていなかった地域でも発災が見られることに注意しなければなりません。
備えの不足が悲劇を招くことは誰もが承知していますが、実際の行動に移せないのは「何から始めて良いかわからない」という理由が多いようです。
そこで今回は、基礎知識のおさらいをしていきましょう。
目次
企業防災の基本その③インフラ停止への備え(電気、交通、通信)
企業防災への意識の低さと経済損失
中小企業白書によると、日本での自然災害の発生件数は増加傾向にあります(図1)。
図1 日本での大規模自然災害発生状況(出所:2019年版「中小企業白書」中小企業庁)
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2019/PDF/chusho/05Hakusyo_part3_chap2_web.pdf p398
図1で示されている「自然災害災害発生件数」とは、「死者10人以上」「被災者100人以上」「緊急事態宣言の発令」「国際援助の要請」のいずれかに該当するものがカウントされていますので、大規模災害の件数とも言えます。
その一方で、自然災害への備えに具体的に取り組んでいる企業の割合は半数に満たないのが現状です(図2)。
図2 自然災害への備え(出所:2019年版「中小企業白書」中小企業庁)
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2019/PDF/chusho/05Hakusyo_part3_chap2_web.pdf p419
「異常気象」を肌で感じている人は多いかもしれません。
テレビなどの報道で集中豪雨による河川の氾濫が頻発していること、台風がこれまでにないようなコースをたどること、「かつてない規模」「数十年に一度」という言葉をよく聞くことでしょう。
しかし言葉だけで実感するのは難しく、どこかで「他人事」「自分たちは大丈夫」だと思っている節があるのが実際のところではないでしょうか。
ただ、被災してからでは遅いのは明白です。
自然災害による損失は大きなものです。
2019年の秋に相次いで襲来した台風15号・19号では、関東地方を中心に非常に甚大な被害が発生したことは、記憶に新しい人も多いでしょう。
いまだに自宅の再建ができていいない世帯も多く残っています。
そして2020年に入ってからも、大型台風で九州地方には大きな被害が出ました。
日本から「被災地」がなくなることがないのが現状です。
とはいえ「何から始めていいのかわからない」という意見は多数です(図3)。
図3 自然災害への備えに取り組んでいない理由(出所:2019年版「中小企業白書」中小企業庁)
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2019/PDF/chusho/05Hakusyo_part3_chap2_web.pdf p431
情報が多すぎることもあり、やらなければならないことを複雑に感じてしまっていると思いますので、「基本的な考え方」を、用意すべき順に見ていきましょう。
企業防災の基本その① ハザードマップと避難経路
まず、「何から始めて良いかわからない」という企業の多くは、「ハザードマップ」を見たことがないという現状があります(図4)。
同時に、これが「何から始めて良いかわからない」最大の理由でもあります。
図4 ハザードマップ確認状況(出所:2019年版「中小企業白書」中小企業庁)
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2019/PDF/chusho/05Hakusyo_part3_chap2_web.pdf p432
「防災」についてピンと来ないのは、結局のところ「どんな災害に備えるべきか」がわからないために、的を射たものにならないからです。
国土交通省が公表しているハザードマップは、地域の場所や地形に基づいて、どのような災害リスクが高い土地に自分たちが住んでいるかを把握できるものです。
津波のリスクが高い地域とそうでない地域、河川に近い地域とそうでない地域では災害に対する備えが異なります。まず、自社がどんな場所に立地しているのかを知るのが第一歩です。
まず、下のリンクで確認してみましょう。市町村名で検索すると、各自治体のハザードマップのサイトなどへのリンクがわかります。
ハザードマップ ポータルサイト:https://disaportal.gsi.go.jp/
各種類のハザードマップを市役所などから入手して、わかりやすいところに掲示しておきましょう。
近隣の避難所も書き込み、避難経路を設定しておきましょう。川に近づかない方法や、高いところに逃げる「垂直避難」についても経路を確保しておきましょう。
洪水や津波の可能性がある地域でテナントビル内にオフィスがある場合、屋上をどのような形で開放するかビルオーナーと話し合うのも有効です。
災害が起きてからオーナーが駆けつけたのでは遅いので、何かの対策を取っておきたいところです。
企業防災の基本その② 最優先すべき人命保護
その上で最優先に考えるのは当然、人命です。
2011年に発生した東日本大震災では、多くの人の尊い命が失われました。
「あれは未曾有の津波であって自分の地元は海沿いではない」という理屈は、近年の日本での自然災害を見るともはや成り立ちません。
内陸部であっても、豪雨被害で土砂に飲み込まれる事例が多く発生しています。
また、洪水で避難中に流される人も少なくありません。
また、台風などで自宅が崩壊した従業員を平気で自宅に返すのか、という視点もあります。
人命保護は災害への備えの最低ラインです。
具体的に見ていきましょう。
まず、食糧備蓄の目安です。これは災害の種類に問わず、知っておかなければなりません。
最低必要な非常食の備蓄は「3日分」です(図6)。
図6 必要な備蓄の例(出所:「もしもの災害に備える」農林水産省)
https://www.maff.go.jp/j/pr/aff/1909/spe1_01.html
ただしこれは最低ラインです。
というのは大規模地震の時、支援物資が届くまでにはどのくらいの時間がかかるでしょうか。
大都市などでは、避難者の数に対応できる支援物資が届くのは「1週間後」程度というのが答えです。熊本地震の際の統計があります(図7)。
図7 熊本地震での食糧供給状況(出所:「もしもの災害に備える」農林水産省)
https://www.maff.go.jp/j/pr/aff/1909/spe1_01.html
なお、飲料水に関しては、通常の商品よりも5年やそれ以上の長期保存用のものがあります。
非常食に関しても、賞味期限が近づいたら希望者に配布し、入れ替えるのが有効な手段です。
近くにコンビニエンスストアがあるからその時調達できるだろう、と考えてはいけません。
災害時は小売店も被災者となり、通常営業ができるとは限りませんし、周辺の勤め人や住民が同じことを考えると、多くの人が店に押し寄せるだけになってしまいます。
また、非常用の持ち出し袋の内容はこのようなものです(図8)。
図8 非常用持ち出し袋内容の一例(出所:「もしもの災害に備える」農林水産省)
https://www.maff.go.jp/j/pr/aff/1909/spe1_01.html
持ち出し袋について注意しなければならないのは、「大人が持って走れる重さ」にとどめることです。
企業防災の基本その③インフラ停止への備え(電気、交通、通信)
次に考えるのはインフラについてです。
交通、電気、水道、ガスといったものです。
中でも「なくて困った」一番のものは「充電器」です。
スマートフォンは情報収集や連絡手段として非常に役立つ道具ではありますが、充電が切れてしまうと使えなくなってしまいます。
これに備えて、車で使えるカーチャージャーや、乾電池式の充電器、手回しやダイナモなど複数種類のものがあると良いでしょう。電気イコール情報、と考えても良いかもしれません。
次に、交通麻痺で帰宅困難者が生じることに注意です。
また、自宅に戻っても自宅が倒壊や浸水している場合は、オフィスの方が安全であればそこで数日間過ごすのを許可するのは良い選択でしょう。
避難所よりも快適なスペースを確保できる可能性も期待できます。
食糧などの備蓄は、ここでも力を発揮します。
家族のある従業員は帰宅を望むでしょうから、一人一人の事情に合わせた対応が必要です。
なお、警視庁が「帰宅困難者心得10カ条」を公表しています。
<帰宅困難者心得10か条>
1.あわてず騒がず、状況確認
2.携帯電話、携帯ラジオをポケットに
3.作っておこう帰宅地図
4.ロッカー開けたらスニーカー(防災グッズ)
5.机の中にチョコやキャラメル(簡易食糧)
6.事前に家族で話し合い(連絡手段、集合場所)
7.安否確認、災害用伝言ダイヤル、災害用伝言板や遠くの親戚
8.歩いて帰る訓練を
9.季節に応じた冷暖準備(携帯カイロやタオルなど)
10.声を掛け合い、助け合おう
<引用>「帰宅困難者対策」警視庁
https://www.keishicho.metro.tokyo.jp/kurashi/saigai/jishin/kitaku.html
そして、安否確認方法です。
大企業であれば自前のコールセンターを構築できますがそうでない場合、まずは電話伝言板サービス等の利用方法を周知しておきましょう。
こうした帰宅困難者の心得や伝言ダイヤルの使い方については、紙媒体で手帳のようなものにして全従業員に配布するのが望ましいと言えます。
名前は知っているが使い方がわからないという時、電源がなければ使い方をその場で調べることはできないからです。
「その時やればいいや」が通用しない事態はたくさん発生します。
また、これは電源に余力があるうちの話になってしまいますが、例えば従業員だけで共有するTwitterアカウントをひとつ作って、安否確認用だけのために確保しておくのも手段です。
「連絡網」を作成しておくのも良いでしょう。
普段は稼働していないアカウントで良いのですが、アカウント名を知っている従業員が有事に情報共有できるという使い方もあるでしょう。写真や動画も共有できるメリットがあります。
また、帰宅困難者の心得などをまとめた小手帳を作る際、遠方からきている学生の場合は、親元にも送ると良いでしょう。
事業への影響をなるべく短くするために
ここまでは、従業員を守るための対策です。
そして、ここからは「事業」を守るための備えについてです。
被災した時、安全の次に重要になるのは事業をいかに早く再開し、継続するかです。
近年、中小企業の間にも「BCP」に対する関心が高まっています。BCPとは「 Business Continuity Plan」の略で、日本語で言えば「事業継続計画」です。
災害時に誰がどのような行動を取り、誰の意思決定で従業員を動かすのか、事業のどの部分から再開するかの優先順位などをあらかじめマニュアルにしておき、社内で徹底するというものです。
災害で混乱して、個人個人がバラバラの判断で行動してしまっては収集がつかなくなります。
また、全ての事業を同時に再開しようとするとマンパワー不足などでどの事業も中途半端にしか復旧できず、かつ時間がかかってしまうという事態を避ける目的があります(図9)。
図9 BCP策定による事業継続の概念
出典:中小企業庁ウェブサイト(https://www.chusho.meti.go.jp/bcp/contents/level_c/bcpgl_01_1.html)
BCPの有無によって、例えば小売業ではこのような差が生まれます(図10)。
図10 小売業におけるBCPの効果(出所:「中小企業BCPガイド」中小企業庁)
https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/antei/download/bcp_guide.pdf p7
こうした判断は、被災時にとっさに思いつくものではありません。
自治会や取引先との関係も事前に調整しておくと良いでしょう。
BCPについては、中小企業庁が策定のしかたなどについて詳細に説明していますので、参考にしてください。
中小企業BCP策定運用ガイド 〜緊急事態を生き抜くために〜:https://www.chusho.meti.go.jp/bcp/
自治体の産業労働局で相談できるところもあります。
まとめ
自然災害はいつ誰のところに起きるかわからず、またその規模も年々大きくなっています。
従業員の安全確保は最低限として必要なほか、事業の復旧・継続は信用問題にかかわります。
また、企業は地域との関係も大切です。自社のことだけでなく、地域にも配慮した備えをする必要もあるでしょう。
*1「台風19号経済損失、世界の災害で最大 昨年」毎日新聞 2020年2月19日
https://mainichi.jp/articles/20200219/ddm/013/040/013000c
*2「令和元年台風第 15 号等により被災された皆様へ ~賃貸型応急住宅(みなし仮設住宅)のご案内~」千葉県
https://www.town.kyonan.chiba.jp/uploaded/attachment/2297.pdf
<清水 沙矢香>
2002年京都大学理学部卒業後、TBS報道記者として勤務。
社会部記者として事件・事故、科学・教育行政その後、経済部記者として主に世界情勢とマーケットの関係を研究。欧米、アジアなどでの取材にもあたる。
ライターに転向して以降は、各種統計の分析や各種ヒアリングを通じて、多岐に渡る分野を横断的に見渡す視点からの社会調査を行っている。
Twitter:@M6Sayaka
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