アルバイトをするにあたって、また雇用するにあたっては当然、最低賃金についての正しい知識は必要です。
アルバイトであっても最低賃金は適用されますし、試用期間中についても賃金にはルールがあります。高校生であってもルールは同じです。
求職者側はきちんとした給料を受け取れるよう、また、雇用側はルール違反にならないよう、最低賃金について正しい知識を持っておきましょう。トラブルになってからでは手遅れです。
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目次
最低賃金には2種類ある
最初に、「最低賃金」といった場合、地域別に定められている時給のことを思い浮かべる人は多いと思いますが、実は「最低賃金」には2種類が存在します。
「地域別最低賃金」と「特定最低賃金」です。
まずこの違いを知っておきましょう。
①地域別最低賃金
一般的に「最低賃金」というと多くの場合、こちらを指しています。
都道府県ごとに最低限の生活を保障するために定められているもので、経済状況などに応じて定期的に改定されます。
例えば令和2年度では、東京都では1,013円、大阪府では964円、福岡県では842円といった具合で、これらは全て時給換算です*1。
守られていない場合、事業者は刑事罰に問われることがあります。
②特定最低賃金
特定の産業や職種のなかで地域別最低賃金よりも高い給料が必要と判断された場合に、特別に設定される最低賃金です。
労使間の協議のもとに新設されたり廃止されたりするもので、刑事的な効力はありませんが、民事訴訟の対象となります。
令和2年3月末時点では、228件、約290万人の労働者に適用されています*2。製造業に多くみられます。
地域別最低賃金と特定最低賃金の両方がある場合は、金額の高い方が適用されます。
ポイントをまとめるとこのようになります(図1)。最低賃金は漠然と決まっているのではなく、それぞれに基本となる考え方があります。
図1 特定最低賃金と地域別最低賃金(出所「特定最低賃金について」厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/PDF_1.pdf
最低賃金が守られているか?計算方法
賃金は、時給、日給であればわかりやすく最低賃金と比較できます。なお日給の場合は1日の賃金を労働時間で割ります。
しかし月給制や歩合性が一部にでも導入されている場合は、支払われる金額に様々な手当が含まれています。この場合はどの範囲が最低賃金の対象になるかを知っておきましょう。
必要な手当を上乗せしているだけでは、もらった金額をそのまま時給換算して良いわけではありません。月給制の場合、最低賃金を満たしているかを計算するには、以下の点を注意してください。
図2 月給制の明細の一例(出所「最低賃金額以上かどうかを確認する方法」厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/www2/topics/seido/kijunkyoku/minimum/minimum-13.htm
上の図2は、月給制の給与の一例です。所定労働日数が250日と定められていて、上記のような賃金が支払われている場合です。
このケースでは、まず支給された賃金から最低賃金の対象とならない賃金を除きます。職務手当は最低賃金の対象になりますが、通勤手当、時間外手当は最低賃金の対象となりません。
よって、最低賃金の対象になるのは、
190,000円-(5,000円+35,000円)=150,000円
です。
この金額を時間額に換算し、最低賃金額と比較すると、
(150,000円×12か月)÷(250日×8時間)=900円>850円
となります。
アルバイトで月給制ということはあまりないかもしれませんが、注意したいのは、「時間外手当を最低賃金の計算対象にしてはいけない」という点です。
最低賃金の対象となる賃金はこのようなものです(図3)。
図3 最低賃金の対象・対象外になるもの(出所「最低賃金の対象となる賃金」厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/www2/topics/seido/kijunkyoku/minimum/minimum-12.htm
これは常用の雇用、パート、アルバイトなどその呼び方に関係なく、雇用している人全てに当てはまります。
また休日、深夜、早朝といった場合には割増賃金を支払うことが義務付けられています。
割増賃金とはあくまで最低賃金に上乗せするものであり、単純に労働時間で割って都道府県の最低賃金を満たせば良いというものではありません。
なお、割増賃金の適用は以下のような場合です(図4)。
図4 割増賃金を支払う必要がある場合
(出所「割増賃金を正しく理解しているかチェック!」厚生労働省)
https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/content/contents/000501860.pdf
具体例はこのようになっています(図5)。
図5 割増賃金の適用例
(出所「割増賃金を正しく理解しているかチェック!」厚生労働省)
https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/content/contents/000501860.pdf
試用期間中の最低賃金について
仕事を覚えるまでの「試用期間」について、通常の時給よりも低く設定しているケースがあるかも知れません。
この期間については、最低賃金を下回っていても直ちに違法とは言えません。
最低賃金法で認められている「減額特例制度」があるからです。
最低賃金法第七条に定められている減額特例制度とは、このようなものです。
(最低賃金の減額の特例)
第七条 使用者が厚生労働省令で定めるところにより都道府県労働局長の許可を受けたときは、次に掲げる労働者については、当該最低賃金において定める最低賃金額から当該最低賃金額に労働能力その他の事情を考慮して厚生労働省令で定める率を乗じて得た額を減額した額により第四条の規定を適用する。
一 精神又は身体の障害により著しく労働能力の低い者
二 試の使用期間中の者
三 職業能力開発促進法(昭和四十四年法律第六十四号)第二十四条第一項の認定を受けて行われる職業訓練のうち職業に必要な基礎的な技能及びこれに関する知識を習得させることを内容とするものを受ける者であつて厚生労働省令で定めるもの
四 軽易な業務に従事する者その他の厚生労働省令で定める者
いわゆる「試用期間」は、この「試の使用期間中の者」に入ります。
しかし気をつけなければならないのは、事業者が勝手にこれを設定して良いわけではないということです。
限度があります。
まず、減額期間や減額率にもルールがあります。
厚生労働省は減額期間について「最長でも6か月」としている他、減額率は法律によって上限20%と決められています*3。
そして、減額特例制度を利用する場合は、都道府県労働局長に申請を行い、許可を得なければなりません。
どんな仕事にも認められるわけではなく、実際に「不許可」となるケースもあり、ほとんど適用されていない制度でもあります。
よほど高い技術を必要とするものでない、あるいは現実的な拘束時間が短いというものでない限り認められないケースですので、アルバイトを探す側も雇う側も注意が必要です。
まとめ
最低賃金はあくまで「セーフティネット」として定められているものです。単なる「義務」とは違う捉え方をする必要があります。
どのような雇用形態であれ、人を雇うからにはその人にとっての「セーフティネット」の役割を果たさなければならないという考え方に変わりはありません。
また求職者側の目線でみた場合、仕事を探す場合は、求人情報に明示されている時給が地域の最低賃金以上のものになっているかを確認しましょう。
深夜・早朝などの割増賃金は最低賃金計算の対象ではありません。
求人段階で、割増賃金について明記されているとなお良いでしょう。
未払いがあった場合には勤務先にたずねるか、各地の労働基準監督署に相談しましょう。
相談先は以下のリンクにまとまっています。
「相談機関のご紹介」厚生労働省:
https://www.check-roudou.mhlw.go.jp/soudan/index.html
採用する側も働く側も、最低限必要な知識を身に着け、トラブルのない労使関係を築くようにして下さい。
*1「地域別最低賃金の全国一覧」厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/minimumichiran/
*2「特定最低賃金について」厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000041788.html
*3「最低賃金の減額の特例許可申請について」厚生労働省
https://jsite.mhlw.go.jp/kyoto-roudoukyoku/content/contents/000792043.pdf
<清水 沙矢香>
2002年京都大学理学部卒業後、TBS報道記者として勤務。
社会部記者として事件・事故、科学・教育行政その後、経済部記者として主に世界情勢とマーケットの関係を研究。欧米、アジアなどでの取材にもあたる。
ライターに転向して以降は、各種統計の分析や各種ヒアリングを通じて、多岐に渡る分野を横断的に見渡す視点からの社会調査を行っている。
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